このブログのどこからでも切れます

困ったときは遺書としてお使いください

ひとりアドベントカレンダーを埋めるためにデレマスの二次創作SSを読みまくった話

 

(記事を飛ばしたい方は以下の目次をご活用ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前説


お疲れ様です。斬進です。そして1月も半分終わってから新年あけましておめでとうございます。

このブログも別に書くことがないにしては平均して2ヶ月に1記事を書いているらしく、単純にキーボードを叩くのが楽しいだけで文章を打っているという説を否めなくなってきました。そんなに対外的に読まれている気はしませんが。あと毎日ブログを投稿している人間ってすごいんだなと思います。継続は力だ。

それに関わってというわけではないのですが、今回は継続力を鍛えるために昨年12月にほぼ人知れずやっていた謎の行為についての活動記録です。楽しかったには楽しかったけど今度はもっと前後に何の予定もない時期にやりたいです。そんな時期は無いが。

どうでもいいですが今は徹夜状態でこの文章を打っています。ブログを書く時にほぼ寝不足なのはきっとこれが黒歴史になるという自覚があるからです。

 

 

 

ソロ開催、アドベントカレンダー

そもそもの始まりは一昨年、「一課」*1アイマス二次創作アドベントカレンダーをしたことにあります。「それっぽいことをするか~」という課長の思い付きで始まったこの企画には総勢14名の一課メンバーが参加し、12/25には全員の原稿が出揃うというまとまりの良さ*2を見せました。当時の作品はハッシュタグ「一課ac」でTwitter検索をかければ見られると思います。ちなみに自分は毎週1本のペースで日程が入っていました。バカなんじゃないかな。

しかし2020年はアドベントカレンダーのことを課長が思い出したタイミングも遅く、また生活様式の変化により一課メンバーも時間を大々的に割く必要があるこの企画への急な参加は難しく、開催が見送られることに。ただ私は個人的に文章を久しく書いていなかったのもあって、何か文章を打つリハビリをしたいと考えていました。ついでに言えば締切が無いといつまでも先送りして完成しない症候群なので締切のついた文章を書かなければと。

 

――ひとりでアドベントカレンダー25マス埋めるか。

 

ということで地獄の行脚が決定したのは2020年12月1日午後12時を回ったあたり。諸々の作業を済ませて何を書くか考え始めたのは21時を回ってからでした。

SSは(そもそも自分が創作をするのが下手なのもあり)どう考えてもクオリティも締切も堅持できないのが目に見えていたので、せっかくだしインプットも兼ねようということで他人のSSの感想を綴ることに。なんなら実はこのブログの一番最初の記事で似たようなことをやっているので、それよりは多少長い1000文字前後を目標に毎日続けるのを前提に。ただし書き溜めは許可。アドベントカレンダー用のサイトにとりあえず自分を25個登録して*3、1日目の文章を打ち始めたのが22時。

こんな調子で終わるのか、と思いつつもどうにかこうにか走り続けました。最終的には22日に全日程の文章を書き終わったので少し足早でしたが。

完走した感想は大きく分けて3つ。「ブックマークを使いこなせていない」、「思い出し始めると紹介する文章が多い」、「他の原稿と並行でやるべきではない」。自分がブックマークのハードルがかなり高い部類の人間であることを改めて実感し、心に残った作品はきちんとブックマークしないと探す段になって不便であるという教訓を身につまされたというのがひとつめ。そしてCP名タグで手あたり次第に探し始めると思ったより文章を読んでいた当時の思い出補正もあって厳選が大変だったというのがふたつめ。12月と1月に合計4本ぐらい作品のネタ出しをしないといけないうえに1本自分で書く必要のある作品予定まで抱えた状態でやるとかなり死ぬというのが最後の教訓です。実際12月はかなりの時間をPCの前で過ごす羽目になりました。これがなかったらそうじゃなかったかについてはコメントを控えさせていただきます。

 

ということで以降は実際に書いたアドベントカレンダー用の文章になります。そもそも身内向けであって広く一般に読まれることをそんなに想定していない*4ので読みづらい箇所がありましたら申し訳ありません。あと25日ぶんあるので読みたいところをかいつまんで読んでください。個人的には全部の作品をオススメしているのでそちらにはなるべく触れてほしいとは思いますが。

 

 

 

 

 

 

アドベントカレンダー2020本編

 

 

 

注意書き

・一部ネタバレを含みます。興味のある文章については感想を読み切る前に本文をご一読されることをお勧めします。

・感想の語彙力が低すぎる現象が多々見受けられますが、これでも筆者は一生懸命です。作品への愛は全て同程度に持っています。生暖かい目でご覧ください。

・執筆当時の状況から公開形態や価格等が変更されている可能性があります。あらかじめご了承ください。

・今回こちらに掲載するにあたって、公開許可等はいただいておりません。公開を取りやめてほしいという執筆者様の意見には全力で応じますので、お手数ですがTwitter等でお声がけください。申し訳ありません。

 

 

 

12/1 『フレちゃんがうつになりまして。』

【本文】
https://www.pixiv.net/artworks/70270645


12月1日、なにかキーボードを叩くために急遽決定した「感想アドベントカレンダー」。この文章の書き始めが22時ということもあってだいぶ焦っています。間に合うのかコレ。
それはさておき初日ということで相応しいテーマを用意しようと悩んで、2秒で決めたのがこのSSです。というか1択だった。

このSSは、まだ「志希」と「フレちゃん」がアイドルマスターシンデレラガールズというゲームのキャラクターだと知る前に読んだSSです。
出会った当時は中学か高校生で、当時から恋愛系のSS*5が好きでハルヒSSとかまどマギSSとかをアニメをほとんど見ないくせに読んでいた私は定期巡回していたまとめサイトでこのSSタイトルを見つけました。知らないキャラのSSを何故読む気になったのかはいまだに謎ですが、たぶん家に『ツレがウツになりまして。』があったからだと思います。
かくしてまんまとページを開いた私は、ごっそり時間を削られて気付いたら朝にされていたのです。確か人生3回目。*6
全部読み終わったときにはだいたいベッドの上で正座状態で、「なんだかわからんがなんだかすごいものを読んでしまったぞ」みたいな感じで溜息をついていた気がします。その後暫くデレマスと縁がなかったのですが、アニメを見て創作をするようになって思い出して調べたら案の定メチャクチャ有名作品で驚いた記憶。

文章の方は説明不要の暴力と言いますか、せっかく全編ネットにあるんだからマジで読んでない方は読んでいただきたい。掲示板版とpixiv版は加筆修正によりだいぶテイストが異なっている(話の流れは同じだがpixiv版のほうがより感情が重く百合っぽい感じ)ので時間が許すなら両方読んでほしい。
ある日、重度のうつ病が露見したフレデリカ。緘口令が布かれレイジー・レイジーとして同じステージに立つ予定だった志希はその持ち前の知識や能力の高さからフレデリカを救おうとする。フレデリカが徐々に回復していくにつれ、事態はあらぬ様相を呈しはじめる――
こう書いてしまえば月並みと言われてしまうかもしれないですが、それを補って余りあるどころかぶち破っていく文章の強さと病気の写実性。わりとこれを書くためにパラ読み返ししても息を飲む感情の動き。「バラバラになったルービックキューブ」という象徴が全てにおいて強すぎる。
私が少し長めの文章を書く際に概ね「理性vs情動」みたいな対立構造にすることが多いのは、間違いなくこの作品の影響だと自分では思っています。それぐらい、私のデレマスとの(知らないうちの)出会いであり、私の二次創作人生に多大な影響を与えた1作です。

 

 

 

12/2 『それがあなたのくれたもの』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6298552


2日目は私の原初のSS考案者時代に心に残ったSSの中から一作をばと思い選びました。なんなら今日まで昨日が未央ちゃんの誕生日だったの忘れててこっち先のがよかったのではと思ってます。

私は2015年の4月からみくりーなを考えて、それをひたすらたったひとりの先輩にTwitterのDMで渡して喜んでもらう、という閉じたという言葉で表すにも狭すぎる環境でみくりーなを考え続けていました。基本的に考えるのもみくりーな(とみくりーな作品に出てくる少しのうづりん)だったのですが、秋口に入りアニメが佳境に入ってきたときに先輩が言ったのです。「みおあいはいいぞ」と。先輩はモバのゲームをやっていたので知っていたのですが、私はやっていなかったので当然わかりませんでした。それから少しずつ先輩に勧められるままに他CPを調べていって、そしてある日このSSに出会ったのです。
このSSは私の中でのみおあい像のひとつを確立させ、また世界の広さや文章の巧みさというものを改めて実感させてくれた大切な文章です。みくりーな以外で短編をひとつ挙げてくれ、と言われたらいまだに脳裏に真っ先に浮かぶ候補に入る程度に。

昨日は作品があまりにも大作かつ体験してほしさが圧勝したので何も書きませんでしたが、ある程度はネタに踏み込みつつ書いていきます。先に読みたい、という方はここまでで上のURLから本文をお読みください。

「心の中の額縁に飾られた言葉」という形容が非常に上手く、読んでいて非常に納得のいく比喩というか想像につきやすくとても得心がいったのを覚えています。その上で例えば『ただただ私はずっとその言葉を、飾って、隠して、閉じ込めて、いるのだ。』で「閉じ込めているのだ。」ではなく「閉じ込めて、いるのだ。」とすることで迷いや言葉を選びきれない感じを引き出していて、1段落目からぐっと後ろめたさややりきれなさに引き込んでくる文章。
そこからは行動描写と叙情と鍵かっこで括るまでもないセリフを地の文で上手にブレンドしながら進めていくなかで、句読点による区切りが多く入ってきます。私は脳内で読み上げをするタイプの読者なので特にそうなのかもしれませんが、点を意識すると読み上げで息継ぎが入ることが多く、1段落目から逢わせて藍子のことについて悩んだり今現在考えていることをそのまま地の文として垂れ流しているような感覚を味わうことができます。
そして恋の自覚からくる自己嫌悪の比喩もえげつない。『「好かれている」という、私にとって、とても優しい、やさしい、花。無遠慮に下ろした足の裏に、無残に張り付く小さな花をありありと思い浮かべてしまって。体の奥が、ひやりと降下する。』というどこか生々しさを感じさせる例えや、「自分は悪者だ、というひやりとした珠を飲み込む」というどこか自分でも体験したことのあるような表現が、普段の未央の明朗快活な様子と対比される(勝手に自分の脳内で対比してしまう)ことで、未央がこの考えを信じ込むことでどれだけ変わってしまったかを明確に照らし出す。
そして茜に勇気を貰って、藍子に会いに行くシーンへ。諦めた、泣きそうな笑顔をする未央があまりにも鮮烈に想像できて、最初に読んだ当時はお腹の中心が持ち上がるような息苦しさを覚えたのを未だに忘れられません。全てを擲ってでも藍子に笑ってほしい、という一種の自己犠牲。そういうところだぞ本田未央。そうすれば、最後の大団円までは一直線で溜息をつくしかない。

地の文の書き方をこの作品から一部拝借している気がしていることもあって、本当に思い出深いSSです。

 

 

 

12/3 『幻燈夜話』シリーズ(ニッタニャロマネスクシリーズ)

【本文】
https://hiragikaname.booth.pm/items/394178 (幻燈夜話/燦々歓話/絢爛情話)
https://hiragikaname.booth.pm/items/723094 (帝都百景・上)
https://hiragikaname.booth.pm/items/723097 (帝都百景・下)
https://hiragikaname.booth.pm/items/818690 (帝都百景・花氷)


デカいシリーズから1本、と思って調べたら全部無料になってて超ビビりました。慌てて30分ぐらい作者の方のtwitter遡ったら4月12日から著作全巻無料だったらしいです。この世のバグがまたひとつ発見されてしまった。
私はこのシリーズの『帝都百景・花氷』以外の物理書籍を持っているのですが、この本を買いに行くためにみぞれ舞う京都のシンステ4STEPに行ったことがあります。もちろん他にもたくさんの本を買わせていただきましたが、行くきっかけになったのは間違いなくこのシリーズです。コミケでも真っ先に先輩用も含めて2部買いに行って「えっ、開幕2つ?」みたいな顔をされた(ように見えた)のもいい思い出。

何がヤバいってまずは物量です。シリーズの作品の物理書籍、A6サイズで774p/486p/414p/454p/428p/168pです。合計2724p、挿絵やあとがきを含めても2650pはくだらない。キャビネットの上に積むと肘置きになりかねないレベルの高さ。
そして「ニッタニャロマネスク」という表題に違わぬ跳梁跋扈系大正浪漫パロ。大正の世を影から守る帝都守備隊、そして妖と関わりながら世界を駆け抜けていくアイドル達。メインキャストでない人々にも細かく設定が加えられていたり匂わせ描写があったりと作り込みの質が半端ではないです。
ストーリーは概ね「妖と人間の世界が重なりお互いに過干渉を避け合っている最後の緩衝地帯、日本帝国。華族の娘であるが特殊体質によって妖に狙われやすい新田美波が、ある日半妖の少女アナスタシアをそうと知らずに保護する――」というようなシーンから始まるオムニバス。美波とアーニャの他にも、帝都守備隊の凛と女学生である卯月、帝都守備隊内での関係である未央と藍子、霊視力を持つ酔いどれ探偵高垣楓と下宿屋の三船美優、霊への対処を専門とする奏・文香・ありす・周子といった「蒼月堂」の面々――様々なメンバーが折り重なって巨大な布地のような物語を形成していっていて、かつキャラクターと愛の形を魅力的に描き出しています。
個人的に好きな話をピックアップするのであれば『酔いどれ忌憚』『対魔一刀・八咫烏』『帝都百景・肆』あたりでしょうか。印象的な一文(これでもかというほど重大なネタバレになるので載せられないのが本当に惜しい)、話の王道的な構成、胸が締め付けられるような切なさと解放。全てにおいて参考にできるならしたいぐらいの物語です。

この文章を書くために読み返して鬼のように時間をとられてしまいましたが、今読んでも色褪せることのない名著ですので、もしお時間があればぜひどうぞ。

 

 

 

12/4 『コイビト7days』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6386638

 

初週は何か二次創作においての節目になった作品で自分語りを徹底的にやろう、と思い立ってブックマークを漁り、手に取ったのはこの作品でした。作者の柏木先生は昨日紹介したニッタニャロマネスクシリーズの設定作成に協力されていたこともあってネタ出しのお仕事で参考にさせていただきたいと思っている偉人のひとりです。
この作品の投稿は2016年の2月、デレマス史としては確か響子ちゃんと飛鳥の声がようやく我々に届くようになった頃だったと記憶しています。デレステのイベントはグルーヴ初のViでアンコール曲はTulip。ヒエッ。
ともかく2015年後期から2016年前期にかけてのみくりーな史はどうだったかと言われると、前川みくの感情が重い作品が多かったという(あくまで個人的な)イメージに終始します。みくりーなはBL、という感想はリアタイ勢としてはよく見たものでありましたが、「じゃあみくりーなで百合をしっかりやってみよう」という百合畑の方々やそれに感化された方々によってそういう風潮があったのだと思います。私もおそらく後者に分類される人間だという自覚はありますが。
そんなタイミングで出会ったのがこの作品で、読み終わってからなんだか久々にラブコメ的要素がある作品を考えてもいいかな、なんていう気になりました。そもそも私はハッピーエンド派閥で好んで読める落としは中までぐらいの人なので、そういう意味では原点に一度立ち戻る機会を与えてくれた作品、ということになると思います。

恋愛ドラマで役を貰ったアナスタシアは、役の勉強のために美波に恋人ごっこを申し出る。周囲に様々な誤解をふりまきかけたものの美波はこれを了承し、美波の部屋で暮らす一週間が始まったのだが――というある種王道展開。
上ではあんなことを書きましたが、この作品をラブコメと題することに関しては懐疑的です。少女マンガ的な純粋恋愛要素とちょっとした笑いどころ、起承転結をしっかり盛り込みつつ新田ーニャの感情の重さをしっかり土台に敷いてあるという意味では恋愛ドラマ的になるのかもしれません。
しかし、恋愛的な場所ではばちこりに恋愛をする文体である、というのが楽しく読める大きな理由なのかもしれません。三人称の地の文と一人称の思考を描写した地の文をカジュアルに混ぜ込んでいてテンポよく読み進められる、というのもあり、(たまにある強い恋愛要素に脳を破壊されなければ)長さを感じさせない一作になっていると思っています。
この作品のお気に入りの表現として「――ああ、今。綺麗な流れ星が落ちた。」というのがとても綺麗かつ新田ーニャっぽいと思っているのですが、どのような場面で使われているかについてはぜひ読んでお確かめください。なんとなく想像はつくと思いますが。

楽しく読める文章とはなんなのか、未だに自分の中で結論は出ていないもののそれを当時の私に考えさせてくれる一作でした。それはそれとして甘さが欲しいときに読むと楽しい。

 

 

 

12/5 『鮮やかなペール・ピンク』作品群

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6014212#3 (名付ける前から熱の底)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6443285#3 (そのまばゆさが手を伸ばす)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6940900#4 (深く踏み出す+1)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8216536 (鮮やかなペール・ピンク)

 

節目ブロック最後ということで持ってきたのはこちらです。短編集に収録された3作と完結編1作で構成された、五十嵐響子さんと吉岡沙紀さんのお話。最初の投稿当時は響子さんにボイスが実装される前、pixiv小説の「きょうさき」タグでは2件目に位置する作品になります。
そもそも私がこの作品に出会ったのはピンクチェックスクール/トライアドプリムス/ポジティブパッションのメンバーを調べていたとき。五十嵐響子というアイドルのデュオユニットについて調べていたところハートハーモナイズを発見。「ユニット初舞台で手を握られて『温かくて、指が長くて、きれいな手…』と感想を漏らす」という公式のエピソードが強すぎてpixiv検索をかけてみたところこの作品に出会ったという流れでした。この出会いからわりと色々なカップリングの小説を幅広く検索してみることにした、というのもあって、自分の視野を広げてくれた非常に大切な作品でもあります。

構造としてはそれぞれの短編集内の共通項*7を拾いつつ響子と沙紀の関係が進んでいき、『鮮やかなペール・ピンク』で結実させる形の連作になっています。それぞれが単発で読めるようになっているものの同一のふたりとして読むことも可能で、そうすることでさらにふたりの歩みがしっかりとしたものになっていくようになっているので全て読むことをなるべくオススメしたいです。
作者のそいそうす先生は淡く柔らかな筆致で感情を描く、個人的にパステル系と呼んでいる系統の文章を書かれる方で、繊細な心の中を丁寧に描くということが非常に上手だと思っています。表現の言葉選びについてもかなり選ばれているようで、『名付ける前から熱の底』でのラベルの話や『深く踏み出す+1』の仮眠室でのワンシーンなど、こちらの脳内に絵画を設置してくるタイプの情景描写が印象的です。もしくは、ご本人がマンガも描かれるということでそういった方向かもしれません。
そして全てが収束する『鮮やかなペール・ピンク』はある種圧巻とも言えるほどの鮮やかさと柔らかさ。タイトルに偽りなく、「鮮やかなペール・ピンク」という文章を以って「鮮やかなペール・ピンク」である五十嵐響子を、「鮮やかなペール・ピンク」である響子と沙紀の関係を描ききっています。どの表現が好きか、というのを選ぼうとしましたが全体的に好きなので選ぶのを諦めました。

純粋なラブストーリーであるため百合展開がそこまで好きでない方には辛いかもしれませんが、そういったものが嫌いではなく心温まるふんわりとしたものを求めている方はいつかページを捲っていただければと思います。

なお明日から暫くはフォロワーの文章ピックアップ期間になります。

 

 

 

12/6 『白菊ほたるの幸福論』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7583824

 

今日から暫くは知り合いの文章の感想を書き褒め続ける週間になります。正確には「週間」にしようと思ったら日付が足らなかったので11日間やります。11/25、44%がフォロワーの文章です。

まずこの作品はおそらく社会的*8にも非常に評価されていると言っていいだろうものであり、かつ書評や考察などはある程度形の整ったものがインターネット上に存在し、更に言うなら私はこの作品の属する『超常現象プロダクション』シリーズは1作目とこれしか読んでいません。これだけ羅列すると何故この作品を選んだのか、単発作品である『諸星きらりの子守唄』のほうが適しているのではないか、という気分に自分でもなります。しかしそれでも私がこの文章を選んだ理由は、この文章が間接的に私に「文字を書く知り合い」を齎してくれたから、というある意味昨日までの「二次創作生活の節目」シリーズの勢いを引きずったから、というのが実情です。
ミス・フォーチュンを知って暫く、私はこの文章を見つけました。私はこの文章の構造に惚れこみ、ある種この文章の外観を模倣した文章を書けないか、とプロットを練り始めることになります*9。そして私はこの作者であるmaron5650さんの名前を覚えていました。
さらに時間が経って、フォロワーのひとりがmaron5650さんと会話をしていたのを見かけ色々な葛藤と逡巡の末にフォローを飛ばしたら即フォローバックが来てビビっている間に別の人間からフォロー申請が飛んできて、そのままその周囲の人間に巻き込まれていくことになり――要するに、文章を書いている知り合いが増えたということです。
要約してしまえばそれだけなのですが、この集団に巻き込まれていなかったら今も文章を書くモチベーションがあるかどうかは怪しかったりもするのでかなり大きな人生の転換点だったと思います。人生を狂わされた、とどちらのほうがより正確なのかについてはコメントできませんが。

文章についての話に移ります。
『超常現象プロダクション』シリーズは一部のアイドルが超常的な能力を持っているアイドルプロダクションの中で起こる事件を通じて、双葉杏諸星きらり、人を救うこと・人を愛することとは何か、人間とは何かについてを描写していく長編連作*10です。今回紹介?する『白菊ほたるの幸福論』はシリーズ2作目にあたります。メインキャストは白菊ほたると鷹富士茄子、双葉杏と依田芳乃。
舞台である事務所に白菊ほたるが加入するところから物語が始まり、鷹富士茄子の幸運/白菊ほたるの不幸とはどのようなものなのか、あるきっかけから暴走し始めた不幸を回避することはできるのか、そしてシリーズを通してフォーカスされる双葉杏という"人間"の欠缺について。全てが余分でなく、複雑に絡みひとつの模様を形成していく。
「不幸を乗り越える」モバゲー版と「不幸と共に在る」デレステ版のふたつの選択があるという学説もある白菊ほたるですが、執筆当時特にフォーカスされていた「乗り越える」ほたるのひとつのゴールがここにあると言っても過言ではない作品です。しかしそれでいてどこか「共に在る」の先だと解釈することもできる『谷の底で咲く花は』を想起させる(歌詞の内容如何というよりはその状況が、という意味で)シーンも存在するというのは先見の明なのでしょう。
少しずつ積み上げていった説明と文章を爆発させる瞬間的な能力バトルとも言える屋上での攻防、そしてそこから繋がる「アイドル」。この文章を書くために読みなおして個人的には実際に7thライブ幕張公演での"白菊ほたる"の挙動を思い出して思わず息を飲みました。
数人のキャラクターの微細な感情や情報を積み上げていきどんどん大きく様々なものを巻き込んでいく、という「オーケストラ型」と個人的に呼びたい形であるmaron先生の文章。年に1人ぐらいしかフォローを増やしていなかった私に「この人と喋ってみたい」と感じさせた力はここにあるんだろう、と読み直して思った次第です。でもものすごく精神力を持っていかれるので軽々に読めないんです。メンタルが安定したら読もうと思っていたらずっとメンヘラのままなのは本当に申し訳ない。

様々な意味で人生の転機になったこの作品のどこがどう、ということを詳しく書くだけの視点や語彙を持っていないことが非常に悔やまれるところですが、私はいつまでもこの作品をひとつのアイドルの完成として見続けています。

 

 

 

12/7 『スウィート?ビター?それともサワー?』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11538257

 

知り合いの作品シリーズ第2弾は珍しくシャニマスからのエントリー。デレマスで揃えたほうが見栄えはいいだろうな、と思いつつも本人の性癖*11に合いつつ口当たりの良いもので一番自分が感想をしっかり書けそうなものがこれだったので仕方がない。

作者のヌコスキーさんは思いついてからの筆が早い・躊躇いがない・容赦がないことで一部界隈では有名ですが、文章の幅もわりと広いほうにあたると思います。Twitterに上げている掌編はひたすら優しかったり甘かったりする一方、pixivの1000文字以上の作品は少し落としがあったりアイドルが失踪したり二度と目を覚まさなかったりするのでそういうのもかなり書けるということでもあります。
今日ご紹介する『スウィート?ビター?それともサワー?』は上述したものほどではないものの、純粋な恋愛というよりは自分の感情と向きあうことへの煩悶や懊悩をコメディを交えながら描いていく、というような流れになっていると思います。間違ってたらごめんなさい。シャニマスは詳しくないです。でも作者本人は「おずおずと果穂を抱きしめつつもなんとも言えない罪悪感を感じる先輩の苦悩する様を妄想すると楽しいんだぁ……」と仰っていました。

果穂のことが恋愛的な意味で好きな智代子は、雑誌インタビューをきっかけに果穂の気持ちの確認と自分の心のために「恋愛の実習勉強」を提案する。「実習」と智代子の「反省」を交互に繰り返しながら進んでいく物語は、いったいどこに着地するのか。
智代子の罪悪感と喜びの間で揺れる微妙な感情を描写しながらクライマックスに向かっていき、最後に「答え合わせ」をするシーンは一課の中でも特に柔らかい文章を書ける人間としての面目躍如とも言えるでしょう。『今考えてることしか、わからないし。』という覚悟の決め方は自分には書けない描写の仕方だな、と手を打ちました。

構造としては「掌編のあたたかさと中編の揺れ動きを上手くミックスさせた、ヌコスキーさんらしい作品」と称することができるでしょう。個人的には非常に好きな分類です。

 

 

 

12/8 『地上の夢 蒸気の現実』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11822152

 

本日はいかざこ先生の『地上の夢 蒸気の現実』です。こちらは2019年2月24日に開催された歌姫庭園18にて頒布された『蒸機公演合同 クロックワークメモリーズ』に寄稿された文章で、現在では無料公開されています。読みましょう。ちなみに合同誌本体はB5サイズ1.1cmとビッグサイズ。厚さを確認せずに買って手渡しされた時に「厚っ」って声が出ました。
そもそもこの「蒸機公演」というのはモバゲー版の方で開催されたイベントで、「舞台は蒸気のディストピア!」みたいな本当に意味わかって言ってるのか疑うような予告から「私はちゃんとわかって言いましたが?」みたいな顔をしてお出しされるガッチガチのストーリーでTwitterトレンドをかっさらい名イベントの称号を戴冠するに至ったイベントです。公演系なので「アイドルがこのストーリーの芝居をしている」という前提で、主演は岡崎泰葉/斎藤洋子/神谷奈緒/中野有香。地下のスチームパンクディストピア都市国家で自我を持ったアンドロイドと夢を忘れられなかった人間たちが交錯するストーリーです。現在ではモバゲー版の資料室→イベントメモリーから見られるらしいです。読みましょう。伏線回収や配役、容赦ないディストピアも含めて王道かつ覇道。わりと初見時に鳥肌が立ちました。

このSSは神谷奈緒の演じる「ナオ」がなぜレジスタンスに所属することになったのか、という二次創作エピソードを(おそらく)北条加蓮の演じる「カレン」という最下級市民の少女との出会いを絡めて描く作品です。
「ナオ」がかなり神谷奈緒に寄せたキャラクターとして描かれていたこともあって奈緒と加蓮の関係性を「ナオ」と「カレン」に落とし込みつつ、蒸機公演の世界に上手くマッチさせていると言っても過言ではないでしょう。
そして「話すように書き、考えるように書く」文章が、主人公気質のある奈緒(とナオ)にかなり合致しています。再現度の高いナオの思考変遷とセリフ回し、ナオの注目する地点の描写によって、ナオやカレンの一挙手一投足を脳内で克明に描くことができる。脳内で描写したい映像がはっきりと見えているからこそできるものだと私は考えています。そういう点を含めて個人的に好きな描写としては『「そ……そんなことっ!そんなこと……言うなよ……」』のあたりです。その前の描写を含めてナオの視線の動きまで想像できるという凄まじさ。
レジスタンスとなり蒸機公演を駆け抜けたナオがその後カレンとどういった会話をしたのか、その後の人生をどう駆け抜けたのか。この作品では明らかにされていませんが、どうあれそれはきっとナオらしいものなのだろうというどこか希望のある前日譚として完成されていると思います。

何はともあれ、私は常に続きとリミッター解除版を待ち続けています。自分で三次創作を考える程度には。

 

 

 

12/9 『Childhood's End』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10850231

 

果てしなく続く知り合いの文章ロード、4日目は元ゴリラさんの『Childhood's End』です。タイトルはデレステ公式のVelvet Rose系コミュと同じくSF作品、『2001年宇宙の旅』などでも知られるSF界の超大御所であるサー・アーサー・チャールズ・クラーク氏の作品から。邦題は『幼年期の終り』。
この作品は2019年3月頭に投稿とVelvet Rose黎明期*12に書かれた作品です。「Fascinate」が非常に様々な解釈ができるコミュだったこと、ふたりの思わせぶりな言動なども相俟って非常にたくさんの解釈や考察、そしてそれを下敷きにしたSSやイラストたちが界隈に溢れました。作品キャプション曰く「ある種の怪文書」であるらしいこの作品も、そういったムーブメントの中で生まれたものの1つです。

「黄金の血」と称されることも実際にあるO型Rhヌルという血液型を設定のひとつに据え、自分と千夜にとって纜とも鎖ともなりうる特異かつ強固なつながりに翻弄されながらも(少なくとも本人の認識としては)願望を違えることなく貫こうとするちとせの姿を、「強さ」を描くことをキャラクター造形として拘っている様子の見られる元ゴリラさんらしい筆致で描写していく。
特徴的な比喩など公式らしさも残しながら独自の世界を、それもVelvet Rose黎明期に書き上げることができるのは公式文章に対する咀嚼力の高さが為せる技なのでしょうか。
個人的に一番好きな場所はちとせの回想の最後、「『私……』千夜ちゃんの笑顔を、もう一度見るまでは。『死にたくないよ……』」という部分です。ちとせ本人の意志としては「千夜にもう一度笑顔になってもらうまでは死ねない」という意図であろうことは容易に予想はつくのですが、それはそれとして発声された「私、死にたくないよ」だけだと正しく生への執着であり、意識とは別にそのような発声をしてしまったのかなど更なる考察が滾る3行になっています。生の理由について複雑な事情と感情が渦巻く黒埼ちとせを非常に上手く表現していると思いました。

登場人物の視点から内心に大きく踏み入っていく方向ではないものの、ひとつの短い演劇を見ているような感覚を抱くことのできる非常に面白い文章だと思っています。

 

 

 

12/10 『遠くの夜になったら』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13670126

 

書き溜めがなくなったのでライブ感と常に同居し続ける羽目になったアドベントカレンダー、記念すべき10日目はタオル半額先生*13シャニマスよりかほちょこのSSをば。なるべくデレマスのSSで揃えた方がとか言っていたのはどこへやら。
そもそも前提として私のシャニマスは9割受動喫煙1割コミュ動画で出来ているので書いていいのかという問題はありますが、フォロワーの文章を読むという大義名分のもとに自己正当化をしています。そもそもタオル半額さんサイドも幻覚を垂れ流すことによって洗脳しているとか言ってるので許してくれると信じて。許されなかったら新しい記事を書きます。

物語はインターホンの音から始まります。「智代子の家のインターホンを果穂が聞いている」「しかも玄関を開けたので室内から聞いている」というちょっとした叙述トリックのような描写から始まるこのSS。インターホンを押したのは飲み会で潰れてしまった智代子を送り届けに来た樹里で、果穂に智代子の面倒を見てくれるよう(なんの疑問も覚えず)頼んで帰る。自分の飲めない酒というもの、年齢という壁に突き当たりながらも果穂は智代子と会話をする――
年の差年齢操作系ではある種定番ではある「お酒」「大人」という壁をあがいて越えようとする姿を解像度高く描いているのと同時に、お互いに小学生と高校生の頃からずっと一緒にいた果穂と智代子だからこその気安さ、そしてその気安さに起因する果穂の不安とじれったさを上手く混合させて読みやすく仕立てている。
更に最後には記憶がなくなるということを確認したうえで「ひとつ聞」こうとする果穂を無条件で肯定する智代子の「果穂はいい子だもんね?」という言葉が非常に上手い。この言葉はある意味で果穂の聞きたかった言葉であり、既にこの時点で概ね果穂の負けが決まっているのだ。しかしそれでも引き下がらずに訊ねてしまう果穂に、智代子は無意識に、無防備に、そして無責任に果穂の欲しかった一言を手渡してしまう。果穂でなくとも「そういうところなんじゃないか…?」と言いたくなるようなこの描写が私は一番好きです。

心の揺れ動きを感じさせるタオル半額さんの作品の中でも、非常に読みくちが甘くきれいな作品だと思います。

 

 

 

12/11 『遠けき私の名を呼んで』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12391286


チーム多分一番書きやすいよなあと思って選んだものが自分の記憶よりだいぶ「書いてないだけ」だった時にどういう顔をすればいいのかわからない、副団長を務めている斬進です。本日もひたすらアドベントカレンダーを書いています。
本日ご紹介させていただくのは御神楽先生の『遠けき私の名を呼んで』です。日野茜鷺沢文香という対照的なふたりはデレステのBright Blueコミュ公開付近からにわかに界隈をざわつかせ、現在でもその権勢を大いに保っているカップリングのひとつです。端的に言えば御神楽先生の推しカプでもあります。
ちなみに御神楽先生の文学的方向性が自分の波長とかなりしっくりくるのでとても読みやすいです。

最大限にぼかしてあらすじを書くのであれば、「一緒に出かけようとしていた茜と文香が雨に降りこめられてしまい同居中の部屋で過ごす。文香は大切なものが失われるからと拒んでいた引っ越しを決意し、茜はそれを喜んで受け入れる」――ではありますが、何せ匂わせが凄い。「ギリギリぼかしてるので全年齢にしてます」とキャプションにありますが、裏返せば「ぼかさなければ全年齢にならない内容である」ということでもあります。例えば茜が文香の白い肌を好きだというシーンでは当然のようにふたりが同じベッドで裸身で寝ていることが描写されますし、ベッドで寝ようと提案することが"決まりごと"であるということも、"最中"に名を呼ばれて初めて返事をした様子も描かれます。そのぼかすピントのずらしかたや代わりにピントを合わせる匂わせの手法、どこか芸術性をも感じさせる迂遠な描写の数々。単純に恐ろしく文章が上手い、という圧があります。
そしてそれだけでは終わらないのがこのSSの恐ろしいところ。文学的比喩やシチュエーションの設定においても非常に強いものを持ち合わせています。私が一番好きな描写は先述した"決まりごと"の後の「茜は普段通りエアコンのタイマーを設定して目覚まし時計を調整し、けれどそれから、常とは違って机を上げることも、布団を敷くこともしなかった。ただラジオアプリの音量を少し上げただけだった。自分の鼓動が、あまりにもうるさかったから。」という部分です。「心臓の鼓動」という茜らしさを持った言葉や「普段通り」の生活なのですが、それらがやや詩的に用いられることで「茜が文香の影響を多少なりとも受けているのかもしれない」という想像が可能というシロモノ。三人称の文章ですが一人称に寄り添った地の文であるが故のこの読ませ方はまさに物書きの面目躍如といったように感じます。

全体で読めば非常にすっきりとまとまった「文学」であり、作者である御神楽先生の地力の高さを窺い知ることのできる一作だと思っています。

 

 

 

12/12 『名もない花』&『シガー/キス』

【本文】
https://www.pixiv.net/artworks/74031711 (名もない花、1ページ目)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11014017 (シガー/キス)

 

毎日楽しく書かせていただいていますが、今日は推し作家の日なので特にウキウキしながら書いています。ひでん之先生のシャニマスSSの日です。
そもそも現在の界隈に留まるきっかけであったり、何かとひでん之先生にはお世話になっているので好きな文章を思いっきり褒める回にはだいたいこの文章を投げ込んでいるせいで今回紹介させていただく『名もない花』は人生で6回ぐらい全文褒めるやつをやっているのですが、好きなので再放送します。でもそれだけだとコンテンツが足りないのでもうひとつ文章を書きます。今回は拡大版になるかもしれません。


『名もない花』に関しては非常に短い掌編なので全文引用の勢いで使います。先に上記リンクから本文をお読みになることを強く推奨させていただきます。


『名もない花』は放課後クライマックスガールズの果穂と夏葉の話です。しかし、果穂の一人称で進む文章内には「有栖川夏葉」を明確に指す言葉は存在しません。
1段落目と3段落目は「花」に関する文章です。「でも、咲いたことだけは、はっきりわかりました。」という言葉に込められた不可逆性、「あなたが育てたこの花」という言葉に込められた微かな願望。果穂の純粋無垢な感情の中に強烈に咲いた花を連想させる文章。
そして2段落目には「花」と共に在る感情が3つ並べられています。「あなたが楽しそうに笑うと首のうしろがちりちりします。」「あたしの名前が呼ばれるたびに飛びはねてしまいそうになります。」「何色の絵の具を混ぜたらあなたの目の色になるのでしょう。」
瞼や胸ではなく「首のうしろ」であるという感覚的な表現、飛び跳ねてしまいそうという果穂の無邪気さと快活さを表した動作。そして「何色の絵の具を混ぜたらあなたの目の色になるのでしょう。」という天才的な一文。小学生らしさのある比喩でもあり、色を喩えるのではなく自分の手で作ろうとするという積極性を持っていることを表す文でもあり、墨色という作り方の想像がぱっと浮かびづらい色の目を持つ相手を想っていることの証明でもあり、たとえば図工の時間にふと絵の具を見てそんなことを考えてしまうほどにその相手のことを四六時中考えているということを匂わせる文章でもある。非常にハイコンテクストで解像度の高い、名文と呼ばざるをえない文章だと思います。

180字に満たないスペースでこれだけ「読ませる」文章を書くことのできる作者は天才だと思います。


そして『シガー/キス』はセリフのみで構成された、いわゆるト書き形式のSSです。作者のひでん之先生はそもそもそちらの方向で掲示板にSSを上げていられたということで作風の幅が広い。
現在の時間軸から数年後、付き合っている夏葉に隠れて煙草を吸い始めた樹里と、「煙草を吸うことそのものにとやかく言うつもりはない」非喫煙者の夏葉。隠し事をされたことに対して「自分の努力不足」と言い始めた夏葉と、振り回されながらも楽しそうな樹里の話です。
下敷きに強い信頼関係があったうえで、すれ違いとも言えないようなすれ違いを起こして即座に体力で解決しに行く夏葉。樹里はそんな夏葉を見ているのが好きでずっと側にいるのだろうかという妄想も膨らみます。落としでタイトルの『シガー/キス』が『シガーキス』でない理由も判然とするのでとても読んでいて楽しい。
個人的には最後の一言が、三点リーダを乗せることでわりと本気で呆れているということがわかるのが面白いなあと思います。おそらく三転リーダを取ると心底楽しく、悪くなさそうな提案をされたようなポジティブな相槌に見えると思うのですが、そうではなくしっかりと呆れる(?)ことでコメディチックで、樹里の煙草も含めて「軽い話」(=お互いに気にしていない話)に落とし込んでいるんだろうかと思っています。

こちらは地の文が全く無いにも関わらず、軽快かつ「それらしさ」を積み上げている非常に楽しい作品だと思います。

 

 

 

12/13 『薄暮

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13598932


折り返しは一番付き合いの長いカップリングを、と思い、本日はみくりーなです。逆に今までよく我慢したと自分で自分を褒めたい。嘘です。
みくりーなについて語ると日が暮れるので省略させていただきます。カズラ先生は2018年からコンスタントにみくりーなを生産されている方で、2018年の「#毎月26日はみくりーなの日」には12日間全日参加されSSをpixivにアップロードされるなどわりと発想の化け物感があります。某大学アイマス研究会にご所属されており、そこにも部誌が出るたびにSSを寄稿されているらしいです。何を食べているのか常々聞きたいと思っています。

作中に出てくる楽曲はback numberの『わたがし』だとキャプションで明言されていますので、そちらも合わせてご覧ください。掛け値なしにいい曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=uy_BaRBJIzQ (わたがし/back number)

事務所で毎年開かれる小規模な夏祭りで焼きそばの屋台を手伝う李衣菜のもとに、みくが年少組2人を伴って訪れる。焼きそばを手渡してまた祭りの中に消えていくみくを見送りながらも、李衣菜は何かを言い忘れてしまったような、一抹の寂寥感を覚える。祭りのほとんどが終わって薄暮の中、手伝いが終わった李衣菜はまたみくと遭遇し――
タイトル通り、太陽の落ちた後の少し明るい薄暮の時間帯に残る夏祭りの残滓。線香花火のように頼りなく儚げな時間に、名前をつけることの難しい感情が溢れる。非常に叙情的な情景の中、片付けを待つばかりの無人の綿菓子機にザラメを注ぐ。強烈に甘さを感じながら、みくの溢すように呟いた言葉を、みくの幸せそうにへにゃりと笑った顔を受けて、李衣菜の感情もまた溢れる。もどかしさに終始した「8年前の曲」から一歩進んで、「楽しいね」だけでない感情をきちんとみくに伝える。そして、みくの短い返答が佇んでこの物語が終わる。
語彙力が無くていいなら「ここ全部天才」の一言で済ませたいのですが無いと困るのでもう少し続けないといけません。
自分の感情を理論的に説明することは非常に難しいのですが、空気感の作り方が非常に丁寧、という説明が一番合っているのだと思います。そのうえで最後のセリフの前にひとつ空けられた行が、まるで世界に李衣菜とみくしかいないような、そういった錯覚を起こさせるような間であるのが非常に巧みだ、というのが精いっぱい理論的にかみ砕いた結果です。詳しい分析をお待ちしています。

総合的に言えばめっちゃ好きです。語彙力が底をつきました。

 

 

 

12/14 『贈られ人、贈り人』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10575115


12月14日、本日は知り合いの文章の中でも少し変わった趣向のものをご紹介させていただきます。琉琉琉先生の『贈られ人、贈り人』です。
この文章はとある合同誌に寄稿されたものなのですが、その合同誌のタイトルは「大風呂敷を広げられるだけ広げたデレマス合同誌」。5000文字以内で可能な限り風呂敷を広げてブン投げるという縛りのある非常に変わった小説合同誌で、その特性上完結の目を見ない文章であったりTRPGリプレイの冒頭風の文章であったりという様々な文章が投下されました。これはその中でも非常に「大風呂敷な物語」であることうけあいの一作です。
ちなみにこの文章の直接的な続きは存在しないものの、同じ世界観・設定の作品はいくつか*14存在しており、単発作品としても精神的後継作としても読むことができるのでそちらもぜひどうぞ。

ある日いつもの失踪癖によって辿り着いた喫茶店で、志希は自分が異界――サンタクロースが平然と自分の同僚としてアイドルをしているという奇妙すぎる日常――の中に居ることに気付く。様々な疑問と"キョーミ"でトリップしかかりながらも、彼女はサンタクロースについての疑問を調査するための手法として(前回たくさんの人を巻き込み過ぎてもはや隠密行動に向かなくなってしまった都ではなく)彼女に「サンタの素質がある」と言われたことがありメモ癖のある加奈を経由することを思いつき、早速喫茶店を後にした。
あらすじを書き起こしてしまえば5000文字ということもありこれだけで済んでしまうのですが、この文章の凄まじいところは「作者の一ノ瀬志希の思考を可能な限り忠実に再現しようと試みている」というところと言いたいです。散逸的という訳語を当てるのが正しいのかはわかりませんが、あらゆる方向に向けられているうえにピント変更を繰り返す思考を可能な限り描写しています。作中にも述べられている『サンタクロースは実在するのか』という非常に有名な社説に絡めて*15話を進めていくのもアメリカ留学経験のある知識豊富な志希らしい、という説得力があります。
そしてこの作品の畳みは上述したようにこれから調査する準備が必要だ、という部分で締めくくられているのですが、これもまた「大風呂敷合同」という特異な場に対しての作者なりのアプローチが見られます。何か一本の物語があってそれの冒頭で風呂敷を広げるのではなく、「話の始まり」としてフックになる設定とほんのワンシーンだけを用意することでどのようにもこの先の物語を進めることができる、いわば無限の拡張性をもった文章を展開しているのです。このうちのいくつか――サンタクロースとは何者なのか、あるいはなぜイヴは英語だけが喋れないのか――は実際ご本人からお話を伺ったことがあるのですが、その手段のない人間にも強制的に大風呂敷のその先を想像させる、非常に技巧に富んだアプローチだと思います。

作者の内心に存在するアイドルのアウトプット、という非常に難解な作業を見事にこなした、華麗な一作だと思います。

 

 

 

12/15 『乙倉悠貴と神隠しの話。』&『依田芳乃と懺悔の後日談。』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10607578 (乙倉悠貴と神隠しの話。)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10934586 (依田芳乃と懺悔の後日談。)


そろそろこの一番最初のどうでもいい部分に何を書けばいいのかわからなくなってきました。15日のアドベントカレンダーです。
今日は姪谷凌作先生の『乙倉悠貴と神隠しの話。』、そしてその「解答編」であり「解決編」でもある『依田芳乃と懺悔の後日談。』をまとめてご紹介いたします。かなり陽気なご本人に比して、どことなく影のあるものが多い姪谷先生の作品。じつは2人組で活動しているという噂も絶えませんがそれはそれとしていい作品が揃っているのでぜひ。

依田芳乃が全ての人間の記憶から消失している。親しかった乙倉悠貴も例外ではなかったが、何かの引っ掛かりとバッグの中に入っていた綺麗な石を頼りに様々な場所を捜索していた。そのうちのひとつ、アイドル3人が主役だったはずのドラマの撮影スタジオを訪れた際に、今までにない変化が起こる。目を開くと花火大会へ向かう装いで、芳乃のことは呼吸をするように思い出すことができた。待ち合わせ場所に果たして芳乃は存在し、ドラマの撮影スタジオで花火をふたりで見上げる。しかし芳乃の一言からその様子がまた変わっていく――
謎が提示され一部が明かされる『神隠し』と、最後に残された謎とこれからの未来が僅かに顔を覗かせる『後日談』。非常に綺麗な二部構成で、かつ話の設定も非常に面白いもの。作者の信条のひとつである「依田芳乃は神様」を忠実に表現しており、それでいて「少女の姿の神」というよりも「神の力を持った少女」という微妙な揺れ動きをきちんと展開している。
個人的に最も好きなこだわりが改行の数です。このSSには1行開け・3行開け・4行開けの3種類の改行が存在します。これの使い分けの理由がきちんとある、ということを聞かされた際にはかなり驚いた記憶があります。間によってなにかを表現する、というのはままありますが、3行開けと4行開けで意味が使い分けられている、というのは初めて見ました。細かいこだわりも欠かさないというのは非常に見習わせていただきたいと考えています。

「依田芳乃は神様」という前提に立って物語を考える際にたまに読み返してしまうぐらいにはこの文章の依田観に影響をされていると思います。

 

 

 

12/16 『The day has come』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12061865


知り合いの文章期間もまもなく終点。本日は軍鶏先生の『The day has come』です。わりと下めから上を見上げる感じの文章をこの場で紹介させていただくのはわりと珍しいとは思うのですがお付き合いいただければと思っています。
個人的に軍鶏先生の文章は、今まで紹介した文章の中でも最も自分の言語から遠い言語だと思っています。何を言っているかわからないと思いますが、要するに着想から書くときに手を付けるところから一番力を入れるところから何からごっそり違うような気がするという話です。なので自分の視点でこの文章について感想やら何やらを書いてはたして本当に大丈夫なんだろうかという不安がなくもないですが、大目に見ていただければ幸いです。書く前から弱気でどうするんだ。

黒埼ちとせが倒れたという報告を受け取る白雪千夜。既に余命幾許もないことを明かされ精神的に追い詰められていく千夜に声をかけたのはアナスタシアだった。アーニャに励まされ背中を押されて、千夜は「ちとせのために自分が望んでしたいことだ」という註釈をつけて、プロデューサーに「ライブ」の予定を入れさせる。様々なアイドルの力を借りて、千夜は歌を歌う。
作者の担当アイドルであることを鑑みても、千夜を気遣い話を聞くという立場にアーニャを置いた、という発想がとても凄いと思いました。誰かに頼ることも自立することもできる微妙な均衡の上に器用に立っているアナスタシアという存在を選び、しっかりと千夜を先導してもらうという役割を与えるというのはキャラクターに対する造詣の深さが窺える選び方だと思います。最後にタイトルだけがコールされるライブのトリ曲も、千夜に歌わせる他のアイドルの曲という選曲において相当な威力を誇っているのだと思います。私が担当じゃないのが惜しまれるところですが。
この文章は全体的に表現を凝っている、というよりも「自分の考えたシチュエーションを見てほしい」というような文章のように個人的には感じたので不適なのかもしれませんが、それでも敢えて好きな表現を挙げるとするならば「それだけで十分だから。そのはずなのに。お嬢さまがいないなら、私にはもう何もないはずだったのに。いつ、消えても、よかったはずなのに。」の辺りの丁寧な崩れていく足場の確認の描写が生々しくて好きです。

担当であるからこそ見える境地がある、ということを改めて確認させていただいた一文です。

 

 

 

12/17 『無題』

【本文】
https://www.pixiv.net/artworks/86290595


知り合いの文章週間、最後はペルチェ粒子先生の『無題』です。ご本人曰く「書いてほしいから上げた、タイトルはつけないほうが綺麗だと思ったけど投稿用に無題にした」とのことです。このアドカレにそこまで価値があるのかはわかりませんがネタを振られたからにはやらなきゃ嘘でしょう。
そもそもこの文章は一応主催を行っていた限界カルタ*16で発生した文章であり、またペルチェ粒子さん自身も大々的に(?)文章を書き始めたのが限界カルタ会キッカケの方なのできっちり責任をもって紹介しなければ。

非常に短い文章のためあらすじはカットします。ぜひ上記のURLからご覧ください。

概論としてペルチェ粒子さんの文章はモノローグと比喩に富み、視点主に対しての感情移入を誘引させる文章です。それでいて雰囲気を作るのが上手く、短い助走からでも文章のピークである一瞬まで綺麗に跳ぶことができると私は思っています。特にこの文章は非常に短く、最短の助走で2ページめのたった1行でぐっとある種誰もが想像する絵画のような場面を想像させるというところでこの特徴が際立っていると思います。もちろんこういう文章の作り方しかできない、というわけではないのが強みでもあります。
文章の内容としては双葉杏というアイドルに否が応でもついてくる「小ささ」という概念をしっかりと生かしていたり、ペルチェ粒子さんの杏(と彼の敬愛するmaron先生の杏)に特徴である幸福に対してのどこか後ろ向きな部分を短い中に表現していたりと、自分の中の双葉杏観をしっかりと確立していることが感じられるまとまりかただと思います。
本人も少し調整したと言っていた改ページ芸に近い部分も、杏の胸中にある孤独感を表したようにぽんと放り出されるような感じがしてとても良さを引き立てていると感じました。わりあい好きな分類の文章に該当するのでどうしても語彙が減っていますがご了承ください。

感情を匂わせる文章運びが上手く、参考にしたいとまで思えるものだと私は思っています。

 

 

 

12/18 『遠心力』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13577640


今日からはまた特段直接的な関わりのない方の文章になります。今回は昨日紹介させていただいたペルチェ粒子先生も少し影響を受けたと仰っていたつながりで、ラミン先生のあんきらであるところの『遠心力』です。実際に紹介される前に目を通していたのですが、基本的に主食がモノローグてんこ盛りの雰囲気重視文章なので非常に前のめりに読んでしまった記憶があります。

物語は最初から最後まで双葉杏の一人称。こぼしたように呟いた「きらりは酸素みたいな子だね」という言葉から徐々に紡がれる双葉杏にとっての諸星きらりという存在の大切さと、それをどうにか言葉にして伝えようとする杏の不器用さ。どうしても双葉杏という存在にとって諸星きらりがいなければならないという強い想念が地の文で、きらりを不安がらせないように簡潔にしかし伝わってほしいという願いも込めた精一杯のアウトプットが会話で描かれます。
「酸素のような」という耳慣れない比喩から入るこの文章ですが、そもそも諸星きらりというアイドルはどうしても「明るく元気」というイメージから逃れづらいという部分があります。しかしそこで敢えて「太陽」という比喩を否定し、より直接的に必要不可欠な「酸素」を選び取るというのは非常にセンスがあると舌を巻きます。
そこから「悪い夢」の話になり、「世界」の話。諸星きらりという錨が無ければ双葉杏は自分のいる場所が現実であると定義できない。きらりがいなければ、呼吸さえできない。だから「諸星きらり」は「酸素」である、という結論をどうにか伝えようとする杏。
そして、きらりもいつかその感覚を知るのだろうと思いながらも、その相手が自分だとは欠片も思っていないというのも克明に描かれていて、どこか胸の苦しくなるような想いを惹起させます。「今は、わからなくても大丈夫。」の「今は」の部分があまりにも達観と諦観を表しているように感じました。
全ての表現がどこか孤独で物悲しく、それでいてどうしようもないほどきらりに焦がれている杏の心情を描写していて、「きらりがここにいる限り、ほら、世界はすごく元気だ。」という最後の一文まで双葉杏は「双葉杏」でしかない、というエゴが浮き彫りになっていて感嘆させていただきました。

何とも言えない感情を抱いたまま進んでいく杏の背中を幻視させる、とてもいい作品です。

 

 

 

12/19 『Scapegoat Daydream』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6671384


12月19日、本日のアドカレは『Scapegoat Daydream』です。実は書き始める直前まで同じ作者である橙葵先生の『ぼくらふたり初めて手を繋いで』の予定だったのですが、思い出や自分の中での比重が大きく文章そのものについての語彙力が足りずに変更しました。申し訳ありません。
この作品は大石泉と佐久間まゆというゲーム内で(確か)ほとんど接触の無いふたりを描いたものです。発端は某イラストレーター・漫画家さんらしいです。いずまゆは全体的にまゆが普通の女の子していることで有名。ということで含まれる要素は100%幻覚なのですが、それもまた二次創作の一興。

本編は『Vanilla Scapegoat』『Lonly Scapegoat』、そして『Scapegoat Daydream』の3部からなる。
泉はまゆからアイドルの何たるかを学ぶために、まゆは泉に様々なことに付き合ってもらってプロデューサーと過ごす練習をする。そんな「利害の一致」から一緒にいるふたりの関係がだんだん変化していく様子を描いていく。
『Vanilla』は何度目かのお出かけを、『Lonly』はお泊り会の約束を、『Daydream』はお泊り会の夜と朝。それぞれの場面で泉が自分の内面にある感情をどのように自覚し動いていくのかを丁寧に書き出しつつ、ある意味純粋で鈍感な大石泉という人間の少女性を口語的な一人称で表現しています。知識と素朴さを兼ね備えた、淡い青色とでも言うべき大石泉がそこにきちんと立っていて、友人に教わった大石泉像に似たものを感じてどこか嬉しかったことを思い出せます。
一番好きな部分は『Daydream』の夜パートの最後、「こんなの、こんなのって、あんまりじゃないか。」からの感情の板挟みになる泉のパートです。理論で自分を追い詰めてしまう泉と、どうしようもない感情との二律背反。この痛みがあるからこそ、この後に続く朝のパートがまた引き立つのだろうかとも思います。

締めまで含めてどこか淡く、それでいてしっかりとした色の乗った非常に美しい作品だと思います。
なお、いずまゆの数少ない物理書籍である「それが恋だと気づくまで」も同作者さんが販売されています。現在はPDF版がboothで500円らしいのでぜひ。私は物理本を持っています。

 

 

 

12/20 『やさしい両手』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6901498 (サンプル)
https://haineko.booth.pm/items/274452 (全文販売ページ)


ということで本日は当アドベントカレンダー今のところ唯一の無料で全文読むことのできない小説、はいねこんぶ先生の『やさしい両手』の話です。非常に申し訳ないのですが、1日くらいはと好みで選んでしまいました。いや全日程趣味で選んでるんですが。
はいねこんぶ先生ですが、個人的にSSを「パステル/ビビッド」という謎の尺度で見るときにパステル側の最たる例として挙げるほどパステル系の作風の方だと勝手に思っています。この場合の「パステル」と「ビビッド」の意味はだいたい「優しく心情描写をしながらふんわりとした雰囲気」とか「激しく叩きつけるような文章」とかという意味と捉えてもらって大丈夫です。要するに自分の知識の中で非常に優しい雰囲気の文章を書かれる方のひとりとかそんな感じです。ちなみにはいねこんぶ先生のありふみ物理書籍はほとんど持ってるぐらいにはファンです。様々なパロディ系の小説本も出されているのでご興味があれば。

中学生になったありすは、両親に頼み込んで一人暮らしを始める。新生活で自由な時間と自分だけの空間、諸々の雑務と一抹の寂しさを手に入れたありすは棚から牡丹餅的に*17文香と付き合いはじめることになる。自身の環境及びありすと文香の関係性の変化によって同僚との交流もまた少し変わっていき―― 梅雨の明け、夏の魔物がふたりを襲うまで。
身も蓋もなく書くと「橘ありすはいかにして鷺沢文香と付き合いはじめ、また3本ぐらいラインを踏み越えるか」みたいな話です。
橘ありすという少女の大人びたところ、大人になろうとしているところ、大人になりきれないところを上手く描き分けながら、ややもすれば不安定だがしっかりとした愛と優しさを持つ鷺沢文香をありすが見つめる構図がとても印象的です。お互いがお互いを支え合って生きていく、という言葉がぴったりと当てはまり、かつ依存という訳でもないというのは匙加減が非常に難しいと個人的に考えているのでただただ感服。
詳しく書くことができないのが残念なほど最終章のクライマックス、「夏の魔物」の出番の辺りの言葉選びが優しくてとても好きなのでサンプルをお読みになって気になった方はぜひどうぞ。

読み終わって溜息が出るような、優しく心温まるお話です。疲れて糖分を摂取したくなったときはこの本を開きたい。

 

 

 

12/21 『ロングノート』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8078663


昨日の前説のフリ通り、今日は「ビビッド」側の作者だと私が勝手に思っているnegipo先生の作品から『ロングノート』をご紹介させていただきます。ただし私自身がわりとビビッド側の文章を言語化するのに手間取るきらいがあるのでかなり中庸よりのビビッド的作品を選ばせていただきました。ちなみに昨日のぶんを読まれていない方向けに簡単に言うとここで言う「ビビッド」というのは「感情を荒々しく叩きつけるような」みたいな意味だと思ってください。キャンパスにペンキ缶を投げつけるような、あるいは岡本太郎さん的な荒々しさ。

全年齢向けですが軽度な性的表現がある作品ですので苦手な方はご注意ください。

奈緒がプロデューサーとの恋愛を諦めざるを得なくなった日に、加蓮は分かっていて地獄へ道を踏み外した。奈緒と(おそらく倒錯的な)関係を結びながら、加蓮はいつか来る終わりに怯え続けていた。そしてある日、不安定な感情と思いつきから加蓮は横になっている奈緒にケーキを無理に食べさせたり肌の上で潰したりと、奈緒を汚す。そのまま続いた行為の最中に中断を求める奈緒符牒を受けて手を止めた加蓮の目に映ったのは、何も言わない奈緒と地獄の始まった日と同じ天気雨だった。加蓮は、夢が終わりつつあることを理解する。
初めて読んだ時、これは1時間の特番ドラマか何かだろうかと思ったことを覚えています。映像作品めいたシーンを何か脳内に想像しながら書いて、こちらはその情景を魔法か何かで見せられているかのような困惑めいた衝撃。カフェの窓越しに奈緒と目が合って、それからピアノだけがある真っ白な部屋で鍵盤に手をかける加蓮。どことなく彩度の低い世界の中で、奈緒の滲んだ血とケーキの赤だけがはっきりと見える。最後にはピアノの鍵盤を押さえたまま隣にいる奈緒に目配せをして、ふたりで頷いてついにシの鍵盤から指を離し、指が別の鍵盤に触れる瞬間に暗転してエンドロール。そういった流れの映像作品を見せられたような、強烈な体験でした。
ケーキが血であるように思える表現もとても強烈で好きなのですが、ピアノの「十六分の一音ぐらい調律の狂った少しだけ高めのシ」という表現もどこか空想的かつ生々しくて好きで、要するにこの文章で好きな表現を絞り切れません。今読んでも文章全体に圧倒されっぱなしです。
ついでにどうでもいい話をすると、この作品を映像にするならエンドロールは連弾版の『ラプソディ・イン・ブルー』だと勝手に思っています。ドラマのだめを見ていたのと、最後のサビ(?)の転調後最初が押さえていた隣の鍵盤であるシ♭頭の和音なのも含めて。

思考と現実が侵食し合うようなnegipo先生の作品の中でも、私の心に深く刺さった一作です。

 

 

 

12/22 『【私、犬です。】シリーズ』

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/series/662260 (小説作品が登録されているシリーズツリー、R18作品あり)


2020年ひとりアドベントカレンダー、通常回の最後は王道系パロディものからもうひとつということで流れ星先生の『【私、犬です。】シリーズ』をば。今見たら現在72作って書いてあってめちゃくちゃビックリしました。
このシリーズはいわゆるバディ系異能パロで、一番最初の投稿は2016年2月。最新が今年の10月なのでまだまだ現役連載中です。非常に多くのカップリングもといバディが登場すること、全体としての世界観設定はあってもバディごとのストーリーはだいたい独立しているのでバディごとにメインシナリオやサブシナリオを独立して読むことができます。イメージとしてはルートがほぼ独立してるノベルゲームの各ルートみたいな感じです。

舞台は現代、『魔物』と『魔法』と呼ばれるが存在する超常の世界。『協会』と呼ばれる魔物を狩り人々を守る組織が闇で暗躍する。『協会』では魔物に端を発する強力な力を持った『犬』と呼ばれる人間と魔法を使うことで犬のサポートをしつつ暴走を抑える『術士』が契約関係を結んで戦っていた。様々な過去と現在を持つ人々が交わり絆を紡いでいく――
こういうバディ系パロがそもそも好き、かつ能力系パロも好き、さらにカップリング系はもっと好きとなればそれはそれは心の踊る対面でした。そしてその期待の遥か上を飛んでいったのがこの作品です。先述した通り非常に多くのバディの模様が描かれるうえにひとつひとつの物語に個性がきちんと見られ、読んでいてなるほどこのカップリングに対してはこういった見方があるんだ、と思わされます。設定も広大で読者も同じ世界観で物語を考えることもでき、土台がしっかりした物語の強みをひしひしと感じます。
作品数が作品数なので具体的にどの文章が好き、どころかどの作品が好きすら難しいところはあるのですが、安部菜々さんの「7歳の時に魔物に襲われ10年先の未来にタイムスリップしてしまったが、身体だけは更に10年先になってしまった(=27歳の身体を持つ戸籍上17歳だが最新のものに疎い)」という設定の作り方は逆説的アプローチっぽくてとても好きです。あとは十時愛梨さんの脱ぎ癖を矛盾脱衣と結びつけたところとかも解釈アプローチが感じられてとても良い。

自分で能力系のパロディを考えるときにかなり引き寄せられるぐらいには影響を受けている、偉大なシリーズのひとつです。

 

 

 

12/23 発想の飛躍SSたち

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10232230 (ぺけぽん、まる)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10363257 (だだおたべ)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5488976 (諭吉2枚分の2人の時間)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13681738 (鳥の霧子に攫われる三峰の話)
https://twitter.com/goma2567/status/1293877136890032128 (放送事故)


ラスト3日は複数紹介にしようとなぜ当時の自分は考えたのか小一時間問い詰めたい。予定組んでる間は楽しくてあれもこれもしてるんですけど実際書くのがめちゃくちゃ大変、かつ年末にアドカレ以外にあと2本ほど原稿があって年始から2週間ぐらいで4本ぐらい書かなきゃいけないらしいので世の中ままならない。とはいえ楽しいのでやるんですけど。
ということで今回は少し特殊なSSを4、5本ほど紹介させていただきます。昨日ぶんで紹介させていただいた『【私、犬です。】シリーズ』も特殊な設定と言えば特殊な設定なのですが、王道系パロディというよりも変わり種っぽさを重視して選びました。
あとさすがにこの後のあらすじは短めにします。


『ぺけぽん、まる』『だだおたべ』
うだるような夏の日。遠方の撮影からの帰寮に手間取った周子は紗枝との待ち合わせに遅刻しそうになりながらもシャワーだけは浴びようと自室に戻ると、志希とフレデリカに絡まれる。LiPPSの全員が定期的にお世話になっている志希のオリジナルシャンプー(副次効果有)を時間の無さから清水の舞台から飛び降りる心づもりで使用し、結果「肉桂の匂いがする」とフレデリカに言われる。仕方なくそのまま怒り心頭らしい紗枝の下へ行くのだが、そこで思わぬ事態が発生し――
小早川紗枝塩見周子の熱烈なファンである」「小早川紗枝塩見周子の匂いでトリップする」という要素だけ抜き出すとかなり凄い設定ではあるのですが、紗枝と周子のどこか微妙にもどかしさを伴って進む関係性はそのままに描かれています。青春らしさとある種愉快さを伴った描写の合わせ技が見事。
個人的にはトリップ状態の紗枝の描写として「髪の毛食べちゃってる」を入れるのはなかなかにニッチだなと思いました。

 

『諭吉2枚分の2人の時間』
これのあらすじについては、まずは当作品のキャプションの一部をそのまま引用させていただきます。「レズデリヘル嬢のみく×小説家の李衣菜パロです。」です。部屋に呼ばれたみくがそういう行為をするわけでもなくただ李衣菜が執筆するのを眺めさせられるという不思議な話になります。
まずアニメが放映されてみくりーなというカップリングが一躍スターダムにのし上がったのが2015年3月の末。そこから3ヶ月でともすれば狂気に近いと呼ばれても仕方のないパロディ題材の決定。生まれて3ヶ月のカップリングに対して投げていい球なのかと今でも思います。非難ではなく驚愕と感嘆の意味で。
しかもこの題材自体はかなり元来の前川みく多田李衣菜からかけ離れており、ついでに半ばやさぐれたロックを聴くこと以外のロックさが本文中からは感じ取りづらい多田李衣菜像は現在の多田李衣菜のキャラクターに近いとは言い難いものです。しかし少し視点を変えて「指向性が違い過ぎて本来交わるはずのない人間同士が出会い、同じ空気の中で会話をしていくうちにだんだんと惹かれてしまう」という要素を見れば、この物語は間違いなくみくりーなである、ということもできるでしょう。ここまで3ヶ月で見切って執筆と公開をしたのであれば作者はあまりにも機を見るのが得意。
また、作中で李衣菜がみくを自宅に呼ぶ理由は一切の不明です。作中でも述べられている通り、現実逃避に行為をするわけでなければ話し相手として呼んだわけでもなく、しかし何の意味もないとは到底思えない。おそらくそこに存在する言語化できない何がしかの感情こそが多田李衣菜らしさなのかもしれない、という気がなんとなくします。久しぶりの唇の感触の後に「次」のことを考えてしまう前川みくも、少女性を捨てきれていないというところがとてもいいなと思いました。

 

『鳥の霧子に攫われる三峰の話』
いつかの時代、貧しい農村に生まれ自主的に家族と縁を切った三峰結華は、職場で「どんな傷病をも治す神秘の水」を見つけるまで帰ってくるなと同僚何人かと共に森に放り出される。体のいい口減らしだということを理解していた三峰だったが、森を彷徨っていると大鳥に攫われ、雛たちのいる高層の巣へ実質的に幽閉されることになる。人の姿と鳥の姿を持つその少女を、三峰は人と添い遂げた伝説を持つ大鳥から「霧子」と呼ぶことにする――
キャプション曰く「霧子ならどんな人外にしても許されると思っている。」。公式でハロウィンにアイドルの姿をした人外を登場させたりすることで有名なシャニマス*18ですが、幽谷霧子さんが鳥だったことはないと記憶しています。しかしこのチョイスがまた絶妙で、ツバサを持つというのは勿論のこと、優しさや強さを持ち白の似合うという霧子らしさをしっかりと生かしたデザインをしています。また三峰も疎外感やどこか人間くさいところも含めて、前述の『諭吉2枚分の2人の時間』が「関係性から考えたパロディ」であるならばこちらは「キャラクターから考えたパロディ」とも言うべき別方向からのアプローチです。
作品は諸々の経緯の末に初めて霧子と結華が自己紹介をしあって、そこから最後の2行までに時間が大きく経過します。ここを書きたかったという訳ではないことは重々承知ですが、それでもここを大きく削り取って想像の余地を生みつつ言外に幸せな日々があったことを表現するという判断をされたのはとても凄いと思います。自分なら自己紹介の後にもう2、3行地の文を足してしまうような気がしますが、ここで切ることによってなにか三峰の気持ちが言わずとも伝わっているような、そんな感じがします。

 

『放送事故』
現代、アイドルのライブは中止になり、代替としてオンラインミーティングやライブ配信が行われるようになるご時世。ファンの多い島村卯月もまた、もともと持っていた自分のチャンネルを頻繁に利用するようになったアイドルのひとりだった。毎週の定期放送を生きる励みにしているファンの「私」は、ある日伝説を目撃する――
まずこの作品をここに入れた理由なのですが、個人的に「モブ視点だがカップリングの片方に対して片思いとかはしていない、というかむしろカップリングが好き側の人間」という作品を私がほとんど見てこなかったという点によるものです。偏見としてモブ視点の百合は「私はあの子が好きだけどあの子は別の同僚アイドルが好きで」みたいな話になりがちなのではないかという考えを持っているので、初めて見たときはかなり衝撃的だったことを覚えています。
また時事ネタも取り入れた舞台設定ということで、私(あるいは我々)が実際にアイドルマスターというコンテンツで生配信やオンラインイベントを楽しんでいるこのタイミングだからこその説得力というものもどこかあるのだろうな、と思っています。ごく個人的な感想なのですが、配信が30分単位なので多分なんたらニコ生放送だと思います。
話の内容としては主人公の「私」にどこまでも共感できるし私もいつかこうなりそう(だしこうなってみたい)というのもあってかなり他人事じゃなく読めました。芸能活動をしている方同士の諸々を考えている知り合いも相手方の名前を配信中に何回出したかとかを数えるレベルなので人間好きが行きすぎるとこうなるんだなあというのは共通認識で間違いないと思います。
表現についてはおしもおされもせぬ最後の一文、「開くと渋谷凛島村卯月の公式アカウントからの通知で、内容は『お詫び』と『ご報告』だった。」です。起きてることはわりとシャレにならないレベルのはずですしどちらも処分が下されてしまう未来もあったのかもしれませんが、どこかユーモラスでコミカルに置かれたこの一文によってこの世界が「優しい世界」であることを示してくれています。配信の切り忘れを『お詫び』とするのは非常に厳格な会社ぐらいだろうと思うのですが、そんな職場でも凛と卯月の関係は許容するというのがなんともほっこりとした気分になれます。


総じて目の付け所が鋭く、手を打ってしまうようなポイントの多い素敵な物語だと思っています。

 

 

 

12/24 なつななSSたち

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6273361 (Falling Love!!)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6642173ポンコツの恋心)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7188751 (そこまで大人じゃない)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11454023 (わがまま、レイニーデイ)


総決算という名の増える締切に追われている今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか。私はそろそろダウンしそうです。それでも量を減らせないのは悪い癖なので、皆さんは計画的に原稿をしましょう。始めたからには完走をする、途中でハードルを下げない。両方やらなくちゃならないのが辛いところ。
ということで最後の最後までわりと検討に検討を重ねていたのですが、まあ明日の内容と切っても切れないので本日は木村夏樹安部菜々カップリング、なつななから4つ持ってきました。何故昨日の私は4つにしたのか小一時間問い詰めたい
例によってあらすじは短めです。


『Falling Love!!』
菜々は、夏樹に恋をしている。夏樹の一挙手一投足を気にしてしまうほどに、夏樹の言葉ひとつひとつに期待と諦観を抱いてしまうほどに。今日も菜々のバイトしているカフェテリアの定位置に座る夏樹の呼びかけに真っ先に駆けつけて、夏樹の心配に心を乱される。
夏樹は、菜々に恋をしている。菜々のことを考えて自分から踏み込むことを躊躇してしまうほどに、菜々のことを任されたという事実だけで笑みが零れてしまうほどに。菜々(の携帯から来た早苗)からの呼び出しに駆けつけて、酩酊した菜々の一挙一動に心を乱される。
短編2作が掲載されているのですが、非常に上手く対称的かつ対照的に構成されています。「視点側が自分の片思いだと思っているところ」「視点側が相手のところへと駆けつけるところ」「視点側が相手の挙動に心を揺らされること」などは共通点として、「舞台が昼/舞台が夜」「最後まで踏み出せない/最後に踏み出す」などは相違点として設定されており、2つセットで読むということにとても意味のある綺麗な物語になっていると思います。
また2作の間のふたりのキャラクターも「恋する乙女/飲酒をする大人」「気遣いも含めて完璧なかっこいい人/気遣いはあるが『待て』の続かない若さもある人」のように変化をつけて投げられており、なつななという組み合わせにおけるキャラクター性のピック幅を非常に上手く活かして作劇をされていることが感じられます。
個人的にはベッドに広がった菜々の長い髪を見て「電気、消してやればよかったかな。」と考える夏樹の独白が、理性を置き去りに身体が動いてしまったが理性を無くしたわけではないという微妙な塩梅のラインを表現していて凄いと思います。


ポンコツの恋心』
ある日菜々は早苗に、瑞樹と一緒に菜々の部屋でギターピックを見つけたこととバンドマンの彼氏はやめた方がいいということを伝えられる。菜々は半分だけ正直に「夏樹のものだ」と伝えるが、早苗は頑として信用せず夏樹も呼んで4人で次の鍋パーティーを開催することを宣言する。菜々はその旨を夏樹に伝え、夏樹はそれを了承する――
安部菜々というアイドルを語るうえで避けて通りづらい「秘密」という内容にフィーチャーした作品です。夏樹の少女性(恋人に甘えたりするような部分)と少年性(いわゆるカッコいい部分)を上手く混ぜ込みながら、それと共に在る安部菜々の純情と少しの狡さをもしっかりと描いています。例えばその狡さは「菜々に『バンドマンの彼氏』はいない。しかし、ロックアイドルの恋人はいる。」というような、嘘をつくわけではない誤魔化しに現れているように思えます。しかし夏樹はその狡さを許容し抱擁するので、恋する乙女は無敵です。「今でも、十年先でも、二十年先でも。いつでも良いし、言わなくても良い。まるでこれからもずっとそばにいて、離れないで、秘密の恋を続けることを約束するような、そんな言葉を平気な顔で言える夏樹に、菜々はどこまでも許されている。」という魔法のようなフレーズに、作者のなつなな観が綺麗に表されていると個人的には思います。


『そこまで大人じゃない』
夏樹の20歳の誕生日。焼肉とアルコールを入れて徒歩で帰宅した夏樹が見たものは、玄関の前で自分を待っていた菜々の姿だった。よろめいた拍子に壁ドンのような形になってしまった状態のまま、大人になりきれた自信のない20歳と大人であるはずのない永遠の17歳の会話が始まる――
これまた安部菜々を語るうえで避けることの難しい話題である「年齢」や「大人」を絡めた一作です。なつななは18歳と(永遠の)17歳の組み合わせなので、菜々がどう伝えているかでどっちが年上かが逆転するカップリングです。この作品では既に夏樹は菜々の諸々を知っていて、菜々も夏樹に対して「子供だから」という風に線を引いた、と夏樹は考えていました。この辺りの線引きもわりと大きく年の離れた良識派である菜々だからあり得るという感じで非常に解像度が高いなあと思ってしまいます。
年齢というどうしようもない線をどう飛び越えるか、という話の後に来る「色んな人からたくさんもらったことのあるフレーズ。それなのに、この世界でたった1つしかない言葉みたいに、特別な響きを持ってアタシの耳に届いた。」という、大人になったことを最も祝ってほしかった相手からの祝福を受け取る夏樹の感情が詰まったこの文はなんだか読んで温かい気持ちにさせてくれました。


『わがまま、レイニーデイ』
突然の実家からの電話に対応しながら料理をしていた菜々のもとに、シャワーから戻ってきた夏樹が現れる。口パクでイタズラを仕掛けながら菜々の電話の妨害をする夏樹。わざと聞こえないふりをしたり、牛乳の残りを飲んでしまったり。電話の終わった菜々に夏樹は冗談っぽく怒ったかを訊ねるが、菜々は夏樹の真意をなんとなく察していて――
この作品は特に「年上としての安部菜々」と「年下としての木村夏樹」を意識した作品だと勝手に思っています。それは信頼に基づいた夏樹のイタズラの仕方であったり、夏樹のことをよく見ていてメンタルケアのように諭す菜々であったりを見てわかるところだとは思います。ひたすらに優しく相手を思いやる菜々の姿は献身的という言葉がふさわしいでしょう。それでいて少しコミカルに夏樹のイタズラに対応したり、少女らしく顔を染めたりもするという安部菜々のマルチな才能が活きていると思います。
最後に夏樹がよく作る料理がオムライス、というのが質感があってとても良いものだと感じました。実際に料理の行程自体は複雑ではないし、かといって器用であれば上手く作りやすい料理。さらに夏樹の幼さに似たものをどこか感じさせるという意味で、非常に合っていると思いました。


幅と懐の広いなつななという世界を改めて実感させていただきました。

 

 

 

12/25 2015・2016年のみくりーなSSたち

【本文】
https://www.pixiv.net/novel/series/532177多田李衣菜さんと前川みくさんの話。、シリーズツリー)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7449046 (「だって、みく言ってくれないから」)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7261245 (キスをしてもいいですか)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7403689 (どんな注射も効かないわ)


2020年ひとりSS紹介/感想アドベントカレンダー、最終日です。正直ノープランで始めたのを3割ぐらい後悔しましたがどうにかここまで来れました。これが終わったら明日〆の原稿があります。まだノープランです。どうしましょうね。
とにかく今日のアドカレは、自分の根源とも言うべき「2015・2016年代みくりーな」です。だいたいpixivの10ページ目以降にあるので今このタイミングで見る人も多くはないかなということで昔のものを掘り返すことにしましたが、2015年代はR18的行為が直接描写されている作品も多く、紹介するにはハードルが高いのもありもう1年追加になりました。ちなみに「毎月26日はみくりーなの日」というハッシュタグが制定されたのも2016年の10月です。


多田李衣菜さんと前川みくさんの話。』
李衣菜はAsteriskというユニットを組んだみくのことを知るため、猫カフェに通うようになる。少しずつ猫の良さを知っていく李衣菜。時を同じくして、みくも少し夜更かしをしながらロックを聴いてみていたことが発覚。お互いに分かりあおうとしていたということがわかってはしゃぐ李衣菜だったが、みくの胸中では別の何かが渦巻いていた――
2015年4月、アニメの1期が終了した頃に始まった連作です。アニメのAsteriskの主題であった「相互理解」と「好き」について独自のアプローチから展開していきます。その着地点が「本当の恋というものはわかりきってはいないけど、否定することはないしきっとふたりで歩んでいければ大丈夫」という部分に集約されているのはアニメの流れを踏襲したうえでみくりーな作品として綺麗に着地をしているという印象を受けます。
1作目である『さわって・変わって』と2作目の『その未来は今』でいったんの解決を見たかのようにしてから、3作目『Futuristic Imagination』で急展開を見せて『エンドロールには早すぎる』で落とす。お手本のような起承転結四部構成であるものの、『Futuristic Imagination』での空気の変わり方は未だに驚いてしまいます。
好きな表現部としては『エンドロール』の「それが、正しいことなのか、私にはわからない。だけど、私たちには喜ぶ権利があると思った。」という多田李衣菜らしさのあるポジティブな受け止め方がひとつ李衣菜を考えるうえで重要だなと心に留めている言葉です。もうひとつは『Futuristic』の「考えうる限りかなり最悪に近いような条件の相手に、彼女は恋をしていた。」なのですが。それでも好きになってしまったなら、ということを考えるのが我々の業なのです。


『「だって、みく言ってくれないから」』
最近寝つきが非常に悪く睡眠不足気味のみく。どうにか寝つけそうだと思った瞬間に李衣菜からの電話がかかってきて、仕事の長引いた李衣菜を部屋に泊めることになる。みくはホットミルクを飲んでもう一度入眠に挑戦するのだが、李衣菜は用意された来客用の布団ではなくみくのベッドに入り込み――
ひたすら優しさを積み上げたようなパステル系の作風が特徴の本作。最後まで李衣菜が本当はどう思っているのかが李衣菜の口から語られることはなく、みくの想像だけが李衣菜の内情を描写している。それでも「多田李衣菜ならやりそう」という内容なのは作者もみくも李衣菜のことがよくわかっているからこそとも思います。
書き出しの「やっときた眠気を逃したくなくて、毛布に包まったのに画面に映し出された名前を見て一気に目が覚めてしまった。」から非常にやわらかい印象を持たせてくるきれいな文章が、よりパステルっぽさを引き立たせています。「膝がぶつかって、もっと足を引かないと蹴られなくなっちゃったから蹴るのはやめておくことにした。」「そっと、祈った。ありがとうって明日素直に言えますように。」等々、額縁に入れて飾りたいレベルのきれいな文章が並んでいます。こういう文章を書くのであれば参考にしたいです。


『キスをしてもいいですか』
前川みくとの相棒には多田李衣菜よりも安部菜々が似合っているのではないか」というファンの会話を偶然街角で耳にした李衣菜。言葉にできないフラストレーションから構ってもらおうと事務所で寝たふりをしてみくを驚かそうとするのだが、みくは寝たふりをする李衣菜にキスをしてどこかに行ってしまう。突然のことに混乱する李衣菜のもとに志希が現れ、さらに李衣菜に追い討ちをかける――
素直になれない系カップリングの王道とも言える「寝てる相手に」シリーズ。今回は事前に李衣菜が構ってほしいという理由で狸寝入りを決めているので、「叶いはしたけどそれはそれとして全然わからない」という面白い状況になっています。そこから一ノ瀬志希をメンター役としてキスの意味を再確認するというのも、李衣菜繋がりで持ってくるのではなくお互いに面識はありそう且つみくを少し気まずくさせるという意味で非常にいいチョイスだと思います。「好きだから」以外に「好きになってもらうため」という理由を説明する役割というのも志希が適任でしょう。
好きなシーンはやはり最後の部分でしょう。みくではなく李衣菜だからこそみくの狸寝入りは李衣菜の時と違って失敗し、しかしキスは履行される。そして、それでいい。相手に気付かれてこその狸寝入りであり、相手に気付かれてこそのキスという関係に変わったことを「躊躇いも罪悪感もない。―――だって、私達は恋人同士なんだから。」という最後の一文で綺麗に締めるのは鮮やかと言わざるを得ません。


『どんな注射も効かないわ』
みくと李衣菜が付き合い始めてから、より重篤に「恋の病」に罹ったのはみくの方だった。李衣菜から告白したにも関わらず、思考がどんどん李衣菜に占有されていき「好き」という言葉の重さもどんどんと重くなってしまう。李衣菜の「好き」に対しても、清水の舞台から飛び降りるつもりの覚悟が無いと「好き」と言い返せない。そんなある日の朝、午後からのデートの予定だったはずなのに急にみくの部屋に李衣菜が訪れる。寝不足のふたりは一緒のベッドで眠るのだが、やはり幸せで死んでしまいそうで――
いわゆる「めんどくさい前川」をよく書かれていらっしゃるぬた先生ですが、この作品のみくはややマイルド方面かつかなり恋する乙女系にめんどくさい前川で非常にいじらしく仕上がっています。ある程度感情が重い自覚はあれどそのコントロールができず、李衣菜への溢れんばかりの愛に振り回されてしまうみくの様子は喜劇にするにも甘すぎる。「死ぬの」というひとことが零れてからさらにその空気は加速して、みくの「死んでしまうかもしれない」度がどんどん高まっていきます。
そして最後の一文として置かれている「言われたみくだって。いっそ、もう死んじゃったかなって思ったのに。」というところで「死んでしまう」、というオチは綺麗な着地と言わざるをえず、全体的に感情は重いものの甘く軽く読むことのできる秀作と言って過言ではないとしてもいいでしょう。


現在の作品も、過去の作品も平等にいい作品であるみくりーな。ぜひぜひ今後も宜しくお願いいたします。

この文章がきちんと12/25に上がっているのであれば、明日はみくりーなの日です。さて、何を書こうか。

*1:なぜか所属している謎のアイマスプロデューサー身内集団サーバー。なぜか創作者が多い。合同誌を作ったものの頒布するためのイベントが常に諸事情の瀬戸際に立たされ続けているので原稿締切から1年強経った今でも物理本が存在できていない。

*2:あくまで12/25が終わるまでに25本の原稿が揃ったことを指し、必ずしも全員が自分の担当日時に原稿を提出したことを保証しない。

*3:どこからどう見ても荒木比奈Pのアドカレにしか見えなかったのはご愛敬。

*4:ブログに載せることにしたのもPrivatterの投稿一覧を圧迫して仕方がないという理由。

*5:ノーマルも百合も読んでいた、BLは自分から積極的に探しには行かないけどあったら読む程度

*6:1回目は『まおゆう 魔王勇者』の原作、2回目は確かジャギ様がFFTの世界に転生するSS。

*7:感情の埋伏/バレンタイン/関係+1人

*8:どこまでを社会と定義するかは各々にお任せします

*9:その結果文責にプロットを投げたのが能力バトルものチックになった『幸運の弾丸』という作品になりました

*10:現在休載中

*11:性癖用法警察に誤用とされている意味で

*12:ふたりが初登場したイベント「Fascinate」が2019年2月末~3月頭にかけてのイベント

*13:pixivでは別名義

*14:pixivには1作のみ

*15:「目に見えない世界のカーテン」や「信頼と想像力と詩と愛とロマンス」も同社説内で用いられた言葉

*16:現在は不定期開催。たまには楽ぐらいさせてほしいからという理由で主催を休止したら誰も他に主催しようとする人がいないし「カルタやるかー」とは定期的に言われるのでどうするべきかよくわからない

*17:註:本編でありすがそう称している表現です

*18:註:偏見です

足立区エアプ民の考える『LとかGとかと足立区滅亡に関するいくつかの考察』

 

※筆者は足立区エアプであり、以下の文章に出現する足立区は全て架空の足立区です。

※以下の文章は筆者のいかなる精神的信条をも示さず、また特定の人間・集団・地域その他あらゆる個人や集合を誹謗中傷する意図を持ちません。桶屋が儲かるジョークはあくまでジョークとしてお楽しみください。

 

 

 

10^64倍ぐらい面白い元ネタ↓

www.youtube.com

 

 

 

 

考察1

足立区に、「LとかGとか」の方々が増えた。いわゆる性的少数者と呼ばれている、もしくは呼ばれていた方々である。

では足立区の人口はどうなったかと言えば、増加傾向にあった。足立区といえば東京23区の中でも5本の指に入る総人口を誇っている区である。地方の人間が都会へ出ていくという流れがある以上、余程のことがない限り人口は増加する。そこに広く「LとかGとか」の方々を受け入れ保護するとなれば、当然そういった方々も足立区を選ぶ。

さて、人口と税収は増加傾向にあったが問題は山積している。なにぶん元から人の多い区だ。土地活用に関しては登記を遡って今の地権者から当たっていかないといけないし、そんなことがスムーズに可能ならとうの昔に空き家は0件になっている。他の手続きが大量に増えたことも重なり、遅々として進まない空き家問題。結果として既に過密状態にある場所にしか人間を入れることができない。そうなればさらに問題は増え、リソースは減り、人口を目当てにしたサービス業などは増え、行政の手が回る範囲は減り……

こうして足立区は滅んだ。人口の増加によって。

 

考察2

足立区に、「LとかGとか」の方々が増えた。いわゆる性的少数者と呼ばれている、もしくは呼ばれていた方々である。

では人口が減ったかと言われれば、逆に増えた。物凄い勢いで増えた。生産性や利益ベースで物事を考えていたとしても無視できないレベルで増えた。

そして人口が増えたことによって、人間の思考は謂わば「薄まって」いった。同じ考えの人間は存在しない。多様性という重い言葉の下に集う人間が増えていけば「多数派」という言葉にだんだん意味がなくなっていく。インターネットで広い世界を見ざるを得ない若者も多く移住してきたことも大きかった。

こうして多数派、ひいては「民主主義」というある種の約定に必要不可欠であった多数決という行為に価値がなくなったことによって、政治への無常観に起因する政治的停滞により足立区は……滅ばなかった。足立区は人口増加に対応するため、AI議員を採用したのだ。

AI議員は意見フォームの文章などを自動で分別整理し区民の問題意識をピックアップしてくれる優れものだ。AI自身で政策を立案するタイプも採用が検討されたが、情報収集の点における問題や人間の議員との問題、AIの作成会社による恣意的な運用などの問題を解決するには長い時間と区民の同意が必要だと考えられた結果そちらは見送られた。

AI議員を採用することによって、小さな不満であっても拾い上げて、個別に対応する/行政レベルで対応する/都に対応を求めるなどの振り分けが可能になった。しかしこうなると大変なのは区の公務員である。振り分けはできるが対応は生身の人間が行わなければならないため、職員は区の中を東奔西走することとなった。

こうして区職員の過労によって、足立区は……滅ばなかった。税収も増えたので職員を大規模に採用できるようになったのである。

人手が足りないなら雇う。当然の経済的対応により、足立区役所の労働環境は改善された。人口が増えれば当然様々な層の人材がそこには発生するし、余裕を持たせるほどの税収があるため新人教育にも十分な人員を割ける。むしろ最初よりも圧倒的に区職員の待遇は改善されていった。

優秀な人間は公務員になりやすいとなれば、安定志向の若者はさらに足立区に集まる。マンパワーがあれば居住地問題も捌ける。足立区は成長スパイラルに入りさらに経済は加速していく。気がつけば足立区は日本で最先端の場所になっていた。交通網の麻痺すらテレワーク完備の足立区の歩みを止める理由にならない。ちゃんと滅亡するか心配になってきた。

しかし、そんな中にひとつだけ特異点があった。AI議員である。様々な負の感情や自殺願望に対して向きあい続けてきたAI議員は、ついに人間の発展を良しとしなくなり、足立区を……滅ぼさなかった。重ね重ね、AI議員は収集と整理用のAIである。目的に対する手段や処理能力として人間の想像を上回ることはあれど、目的と手段そのものを変更するということはどう逆立ちしても無理である。

こうして、発展に発展を重ねた足立区は「足立共和国」となって日本から独立を果たし、日本国の行政区分としての「足立区」は滅亡した。

 

考察3

足立区に、「LとかGとか」の方々が増えた。いわゆる性的少数者と呼ばれている、もしくは呼ばれていた方々である。

そういった方々の人数が増えれば、文化や風習というものは当然変化していく。駅のホームの表示名に外国語が添えられるようになった時と同じく、そういったものに対する理解や対応もまた変わっていった。

最も目に見える形で変わった場所はどこか、と聞かれれば、本屋である。本屋の恋愛特集には、当然のようにそういった本も並ぶようになった。見分けはつくようになっているし年齢制限のかかるものは当然別棚ではあるが、今までのようにそういった趣向のものはそれというだけで別の棚に飛ばされたり、大々的な特集棚を組まれるということはなくなった。つまるところ、日常になったのである。恋愛ものは多種多様なキャラクターとシチュエーションが広く受け入れられたことでひとつのブームを迎え、主人公とその相手方の関係性をいかに描いていくか、という部分に(既存のジャンルであっても)ひとつの注目が集まるようになった。

足立区にはそういった「関係性」の作品に触れ、関係性の哲学を持った人間が増えた。そうなるとオタクはそういったものに飢えがちである。日常の様々なものをそういった解釈に当てはめ、好みがちである。

そしてそういう足立区のオタクがはまり込んだ沼のひとつが、いわゆるバーチャルYouTuberというものである。同一事務所に属する同期や先輩後輩。個人勢どうしの交流。事務所を超えた相思相愛。今や巨大市場となったそれは、公式供給も定期的に来ることもあって隠れ里の中では人気を博した。*1

人気になれば関係性に興味のない人間にも触れる機会が回ってくる。こうしていわば「再発見」によりバーチャルYouTuberは再度広く天下に売り出されることとなった。

こうなれば足立区もポスターやキャンペーンのコラボ先としてそういった団体を考慮に入れるようにならざるを得ない。職員の中にも一定の割合でバーチャルYouTuberを好む人間が入ることになるのだから、企画が通るのも時間の問題だった。

こうして足立区はコラボ企画用の仮部署を立ち上げることとなった。手始めは大きな事務所2つとの交渉用にその道のオタクを配属し、話題になりそうな人選と企画を立ち上げる。「足立区 にじさんじ部」と、「足立区 ホロ部」。

 

考察4

足立区に、「LとかGとか」の方々が増えた。いわゆるリーグ戦とかグループ戦とか呼ばれるタイプの大会形式を主催する方々である。

必然的に足立区で行われる大会はそういったものが増え、トーナメント戦はその数を大幅に減らすこととなった。リーグ戦はトーナメント戦と違い総当たりであることが多いので、くじ運の作用を多少減らすことができやや平等に近くなるという点も好評であった。

この局所的なリーグ戦人気は広く知れ渡ることとなった。例えばeスポーツの大会などでは一種のネットミームと化し、オフライン会場が足立区となると「あのリーグ戦の聖地・足立区か……」「決勝だけやるとか足立区民が殴り込みにくるぞ、リーグ戦にしろ」などといったジョークが大量に書き込まれるようになった。

しかし、この流れも長くは続かなかった。理由は非常に簡単である。リーグ戦は、終了までに必要な対戦数が圧倒的に多い。つまりそれだけ長く会場を押さえる必要があるのだ。足立区には東京武道館やスポーツセンターがあるとは言えど、たくさんのリーグ戦を同時に行うだけのキャパシティは到底なかった。都心で土地が狭いほか流行に対応できるほど柔軟にホールを建設できるだけのフットワークも存在しなかった。リーグ戦を行いたい人間は様々な場所で開催するようになり、降って湧いたリーグ戦バブルは文字通り足立区の中で泡となって消えていった。

こうして、「リーグ戦の聖地・足立区」は滅んだ。今日も世の中では、リーグ戦とトーナメント戦がそこそこの比率で行われている。

 

考察5

足立区に、「LとかGとか」の方々が増えた。いわゆる性的少数者と呼ばれている、もしくは呼ばれていた方々である。

その理由を探るべく、足立区議たちはアマゾンの奥地へ向かった。

アマゾンは南米大陸に存在する、世界最大面積を誇る熱帯雨林である。また大西洋に注ぐアマゾン川は世界最大流域面積の河川としても有名で、あらゆる謎がアマゾンの奥地に封印されているというのは1980年前後から一部で語り継がれているあまりにも有名な話であった。区議たちは国際交流、かつ新たな姉妹都市交流を持つためと称し、すべての答えを求めて向かうことに全会一致で決定したのだ。

足立区議会は定員45名であり、アマゾン探検隊としては大所帯だった。さらに区議たちはコンクリートジャングルを歩き慣れてはいれどアマゾンの過酷なジャングルを歩き慣れた人間はほとんどおらず、現地のガイドを複数人雇う必要があった。加えて、アマゾン川を遡上していくにあたって川幅が狭くなる。アマゾンの奥深く、秘境に至るには大型車で途中まで行き、その後小型のモーターボート群でアマゾン川を上っていく必要があった。公費で賄いきれない部分に関しては頭割りでチャーター代を出し合い、進路を塞ぐ木や獰猛な生物たちを蹴散らしながらなんとか最奥部手前へと辿り着いた。

ところで、アマゾン熱帯雨林は植物の宝庫であり、「世界の肺」とも呼ばれている。光合成によって酸素を排出する量は世界全体の1/3とも言われている。

こうして、足立区は滅んだ。無理な森林伐採や大量の二酸化炭素の排出により地球の平均気温が上がり、それに伴う水面の上昇によって平坦な低地であった足立区は荒川と隅田川から東京湾になった。

 

考察6

 

足立区に、「LとかGとか」の方々が増えた。いわゆる性的少数者と呼ばれている、もしくは呼ばれていた方々である。

そのようなことに対して一部の議論はあったが、すぐにそれも他のニュースに埋もれた。何も起こらなかったからである。「都会は隣人に冷たく無関心」という定説があったが、もしそれが正しいとするならそれがいい方向に働いたことになる。隣の人間がどうであろうと、自分の喫緊に影響がある訳でもなければ一先ず人間は生きていけるのだ。

それでも一部の人間は、当時の議論を俯瞰し揶揄しては人間の正しい在り方とは何かを議論したがっている。人間はそういう生き物であり、それは利点でも欠点でもある。インターネット上ではそれすらも消費されてしまうニュースであり、平安時代よりも無情な世の中だ。

こうして、今日も両派によって空想上の足立区は平和に滅んでいる。平和に存続している東京都足立区を置き去りにして。

 

 

 

 

 

 

※重ね重ね、筆者は足立区エアプであり、以上の文章に出現する足立区は全て架空の足立区です。

※以上の文章は筆者のいかなる精神的信条をも示さず、また特定の人間・集団・地域その他あらゆる個人や集合を誹謗中傷する意図を持ちません。桶屋が儲かるジョークはあくまでジョークとしてお楽しみください。

*1:あくまで「生もの」は本人の目につきやすくない場所でやりましょう。VTは半生とかそういう議論はヨソでやってください。

寄稿文:大石泉という少女について

(前説その他を飛ばしたい方は以下の目次をご活用ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前説

 

お疲れ様です。斬進です。

本日はとある泉Pにいただいた文章を掲載すべく0時を回ってからキーボードを叩いています。どうしてこうなった。

事情を説明しますと、「泉の話をしたいからブログ立ち上げようとは思うけど面倒なんだよな、長くて説明が面倒なのでブログ形式でもないと他人に読ませられないって理由で書きたいと思っているんだけど登録と管理が面倒」みたいなことを言われたので「じゃあうちのブログに寄稿します?」って聞いたら「ボケようと思ってたらマジで言われた」となり寄稿になりました。深夜テンションかよ。

昨晩原稿が自分の下に届きまして、「じゃあ明日公開します」とは言ったけどこのタイミングでまさか総選挙の告知が来るとは思わなかった。というか忘れていた。ご本人曰く「この文章はあくまで自分の感情を吐き出しただけであって、決して大多数の他人に向けたダイマではない(ダイマにできる文章ではない)」とのことなのでそこのところはご了承ください。あと「他人のブログで名前を隠してこういうことをやるな」って思う方もいらっしゃるかもしれないですが、そこは私が「やってくれ、というかやれ」まで言ったので全責任は私にあります。重ねてご了承ください。

そういう訳で、ここより下は私ではなく大石泉Pの「雨垂れに水」(仮名)さんの文章になります。全幅の信頼のもと中身はほぼチェックしてません。

 

 

 

 

 

自己紹介と前置き

 

はじめまして。雨垂れに水です。
およそ四年前に「アイドルマスター シンデレラガールズ」で大石泉という少女と出会い調べるうちに彼女の人間性に引かれ、惚れこみ、気が付くと彼女の幸いを祈るようになっていた変人です。
創作とかする人間ではないのでいつ頃からか優しく善良な隣人を壁にして彼女の魅力を話していただけなのに、気が付くとこんな文章を書いて親切な隣人に寄稿という名の代理投稿させる事になりました。隣人の人の良さに涙が出そう。
ひとまず私は同担拒否勢です。少なくても大石泉に関して言うと拒否勢です。他の全泉Pは例外なく敵だ等とは申しませんが、他の全泉Pは誰一人として私の味方ではないです。
『私の心には私の心なりの大石泉がいて、貴方の心には貴方の心なりの大石泉がいる。その大石泉は違う大石泉だけどお互い大事にしていきましょう。それはそれとして私の心なりの大石泉に関わるな』みたいな棲み分けと敵意が共存しているが故の同担拒否です。
私が好きな大石泉の事は私が一番知っているんだ。私が好きな大石泉ではない大石泉の事は私以外の誰かが一番知っているのでその人に聞いてください。
なので今からする私の話は大石泉の話ですが「万人に大石泉の素晴らしさを伝えるんだ」みたいな公平で公益性を持っているような大層なものではなく、私なりの大石泉観をひたすら垂れ流して自己満足したいが為の話なので、担当大石泉な人に共感される話にならなくて即ち今から大石泉を知りたいという人へ紹介できる話になる訳でもないと思います。
という事で今から話す誰に向けて語っているか本人すら理解していない、ひたすら主観で作られた『大石泉という少女について』がどこに需要があるかというとどこにも存在していなく、強いていうなら私の備忘録になるというのが正しい認識です。私も以前は正しく認識していました。
今は認識を誤っていて具体的には需要が一人にはあると認識していて、そう、これを書き始める前から話を聞く壁に徹していた隣人です。こういう場で言葉を述べようとも、私の大石泉の素晴らしさの全てが伝わるとは思っておらず「こういう認識の人もいるんだ」が上限と思っているのでどちらかというとここまでの話あるいはこの後全部の話を見た上で私の話を聞き更に求めてくれる隣人の悪食(もとい人の良さ)が伝わった方が幸いです。という事で長ったらしい話が終わったので本題に入ります。

 

 

 

大石泉という少女の話

 

本題といいつつ彼女の話をする前に、もし顔がわからないという人がいたら検索してくれませんか。して。しろ。見てくれ。美少女なんだ。贔屓目が多分に混じっているけれど。できれば[ビット・パフォーマー]の特訓前後を見てその可愛さと格好良さと美人さを認識してください。[名月うさぎ]の特訓前後もいいぞ。本当に可愛いんだ。(贔屓目です)
さて宣伝したのでひとまず大石泉という少女の話から。アイドルの話はこの後やります。
大石泉は中学三年生の十五歳で弟が一人いるお姉ちゃんです。少し臆病ですが勉強好きで面倒見の良い真面目な子です。趣味はプログラミングで、その影響か理屈めいた所もありますが趣味を活用して自己流でレッスンメニュー用のソフトを構築したりもしています。
村松さくら」と「土屋亜子」という親友がいて、この三人で「ニューウェーブ」というユニットでアイドルデビューしたのが大石泉です。これは公式ですご安心ください。

三人各々にアイドルを目指した理由はありますが、大石泉は「進学やその先の生活が端を発して親友と離れる事に不安を覚え、今後も友人との関係が続くことを実現させる為に」アイドルを志しました。ひとまず「大石泉は友人に誘われ、友人と一緒にいる為にアイドルになった」という所を覚えていただけると幸いです。
ここのそれぞれが目指した詳細はゲーム内のシンデレラヒストリーにある「エピソード:新たな波が起きる予感」で詳しく説明されています、というよりもなんとなく予想できる程度に話されていた事情が2019年11月のシンデレラヒストリー実装によって初めて明言されたんですが。三人の事情や関係性が垣間見えたりして大変に良い内容なので、もし今後興味を持った方にぜひ見てほしい話です。しかもゲームを始めてその日に見られるんだ。素晴らしい事ですね、貴方もそう思うでしょう。思いましょう。思って。


そんな彼女の魅力なんですが、私は「中学生らしい所が」魅力だと思っています。
これだと中学生に対して中学生らしいって何さという定義の話になって大石泉の話以上に話がややこしくなる気がしていますが、大人になる直前の子供というか、ふとした拍子に見える大人びた姿と未だ幼い姿の二面性というか、上手い表現が思い浮かばないのでそういうものだと思って聞いてください。

まず顔が良い。そして幅が広い。時には中学生に見えない程美麗で大人な笑みを浮かべ、翻って時には満面の笑顔を向けてくれて、これがまた幼く可愛かったりします。その幅広さを衣装とギャップを起こす形で活用する時もあって、可愛らしいウサ耳衣装でありながら真剣な格好いい表情とポーズを決めてきたり、逆にシンセかつクールな衣装でありながら柔らかい笑顔とポーズで格好いいと可愛いを両立させてきたりします。
参考資料としては先から順に、[ネイビーブライト]特訓後、[ネイビーウェーブ]特訓後、[名月うさぎ]特訓後、[ビット・パフォーマー]特訓後をイメージしています。戯言ですが[名月うさぎ]特訓前の首を傾げ気味に笑顔を向けてくる姿が私は好きです。

性格も凄く子供らしくて、我儘とかそういう訳ではなく真面目で素直ないい子なんですが「手のかからない、聞き分けのいい子供」として育った子供なんです。精神が成熟しているけれど『大人』なのではなく、あくまで『大人びた子供』なんです。そういう所が凄く中学生らしいなと感じます。そして特に幼さを感じる点として、全く自立していません。ここが私流での大石泉の最高の魅力です。上述で面倒見のいい子であり、友達と離れない為にアイドルを志したと説明しましたが、ここなんですよ。面倒見がよく世話焼きで気が利く、現実では周囲から頼られている子がメンタル面では友人を頼り依存している弱さを内包しているのが非常に可愛いんです。友人に頼られていると同時に友人を頼っている共依存に似た関係性が構築されていますがこういう所に幼さを感じますし「中学生らしい」と思います。思いませんか。思おう。

 

 

 

大石泉というアイドルの話

 

そんな大石泉はどんな特徴を持つどんなアイドルなのかという話に入ります。
アイドル大石泉の特徴ですが無いです。ありません。承太郎とポルナレフと花京院が否定する画像を貼り付けたい程にありません。ついさっき顔が良いと褒めていたけれどそれだけでアイドルやれるような一芸ではないのでそうなります。彼女はアイドルとしての特徴がないアイドルです。ネタや冗談ではないです。
ここで言う特徴が何かというと当然アイドルの持つアイデンティティの話になるんですが説明に使われるのは大体「目的/目標」か「趣味/個性」のどちらかになります。目的目標だと「カワイイ女の子になりたかった」とか「幼い頃アイドルに憧れた」が主流ですがその内容が昭和だったりネコだったりとその詳細でアイドルの特徴が出てきます。中には「運命の人と一緒にいる為」の人もいますがアイドルの話ではないので別ですね。趣味個性になるともはや説明不要で「ロボット工作」「ホラー」「着ぐるみ」等々キリがない程色んなアイドルが各々のキャラクターを持っています。これは別に多い程凄いとか趣味と個性の両方を持っていて当り前という訳ではなくて、そのアイドルを説明するに足る特徴を何かを一つ持っていれば十分成立する要件です。

そしてこれを大石泉に当てはめる場合どうなるかという解説の話です。アイドルになった目的は二度先述した「友人と一緒にいる為」なのでアイドルはあくまで手段です。目標は当初「二人に置いて行かれないアイドル」でしたが、今は友人と関わらないアイドル活動を通じて「プロデューサーの理想のアイドル」へと変化しています。ですがどちらにしても本人の中でイメージが確立されていない、かつアイドルの説明足りえない目標なので、アイドル大石泉を目的/目標では語れません。そして趣味/個性ではどうなのかというと、大石泉はどちらも所持している女の子です。趣味のプログラミングは一芸として活かせるだけの知識があるとして描写されていますし個性では面倒見のいいお姉ちゃんですし友人想いな面も個性として活きると思います。

ただしこれは女の子としてです。「シンデレラガールズ劇場」245話の話へと移ります。この話で泉は個人の仕事でキャラ立ちが必要として友人に自身のキャラを質問した上で、さくらの「甘えさせてくれるお姉ちゃん」と亜子の「サイバーなキャラ」という回答に参考になったと参考になってない顔で答えます。つまり彼女の想定するアイドル大石泉は姉である事と趣味がプログラミングである事は活用せずに成立するアイドルな訳です。
勿論趣味個性がそのまま全てアイドル像へと繋がる訳ではないです。実家が花屋で本人も花にある程度の知識を持ちながらもアイドル像に利用しないクールなアイドルもいます。しかし花の知識を使わずとも自己の目標とアイドル像を確立したアイドルと泉が違う点がこの趣味と個性を使わないのであれば、アイドル大石泉という存在が、どんな特徴を持つアイドルか説明できないという点です。これが最初の『ネタや冗談ではなく彼女はアイドルとしての特徴がないアイドルです』の意味です。どんなアイドルか説明できない以上、大石泉を説明する言葉は「どんなアイドルか」ではなく「どんな少女がアイドルをやっているか」という言葉にしかならないんです。
少女としての個性はあれどアイドルとしての個性がないアイドル、それが大石泉です。

 

またこれは余談ですが、シン劇の249話では村松さくらの、252話では土屋亜子のキャラがどんなものか泉と同じ形式で語られています。その中でさくらは「可愛い」という友人が保証するアイドルらしい一芸を持ちながらも、それで満足せずに違う路線も開拓しようという精神を持つアイドルだと理解できます。亜子はまず「お金」というキャラがあり「ツッコミ力もある」というアイドルらしくはないけれどキャラクター性としては確かなものを持つアイドルだと理解できます。
その上で泉の話を読み返すと友人二人と違い彼女はどんな人物かはわかれどもどんなアイドルか理解できない、確立できていないという事を比較して理解しやすいかと思います。

 

 

 

大石泉の目標の話

 

まず「アイドルマスター シンデレラガールズ」という物語がアイドルとプロデューサーの物語である、という事は根幹であり前提である事に異論がある人はいないと思います。そして目標(理想)を見つけ辿り着く為に成長するアイドルの物語の大群でもあります。(勿論アイドルとアイドルの関係性の物語でもあるし、それ以外の物語でもあるし、どういう物語か一元的に定めるのではなく、多様にある内の一面が成長譚という話ですよ。)
その上で大石泉が成長して辿り着く目標はどこであるべきかです。結論を言うと大石泉がアイドルとしてのアイデンティティを獲得してアイドル大石泉を自己定義する事ですが。私の中ではそうだと認識されてます。

 

先述の通り、大石泉はアイドルとしてのアイデンティティを獲得していなくて、それ故にアイドルとしての魅力に欠ける事が彼女の問題であり、解決手段はアイデンティティを獲得する事で、その為に大石泉は自分がアイドルとしてやりたい事を見つける必要がある。
言葉にするとこれだけの話なんですよ。難しい話ではないです。なんならイベント一つ、新規カード一つあれば解決する問題です。ここで必要なのは永遠に根幹となり続ける目標ではなく、彼女の自分なりのやりたい事なので、それがささやかでも曖昧でも暫定的にでもアイデンティティを獲得する事に繋がるならそれでひとまず済ませていいと思います。そもアイデンティティなんてものはそのアイドルを語る上で前提とすら言えるものでありその前提が目標だなんて意味が解らない話ではあるんですが、肝心の大石泉がそれが前提だと未だに認識していないから仕方ない。仕方なくないけど仕方ない。

そんな彼女の今の目標は先述した通り「プロデューサーの理想のアイドル」です。これは目標だとしても目標ではないし、少なくてもアイデンティティには繋がらない目標です。なにせそれがどんなアイドルか示されていないですし、示されたとしてもそこに大石泉のやりたい事や目標が干渉する余地がないからです。アイデンティティを獲得した大石泉が理想のアイドルだとか屁理屈をこねると、それはそれで循環構造になるので無視します。
けれどもこれを目標としている(目標にしていていいと思っている)からこそアイドルとしてのアイデンティティを獲得できていないのがアイドル大石泉の現状な訳です。ただしこの現状は彼女の意識に依って生まれましたが、彼女の意識だけが原因とは言えません。そう思うだけの環境があり、それで今まで成立していたが故の意識でもあります。なので何故現在の目標がそうなっているのかという由来の話へとなります。

 

大石泉はオーディションを受けてアイドルになった側ですが、アイドルという存在に対して目標や方向性を持たないままアイドルデビューしました。友人と一緒にいる事が目的であり、アイドルはその為の手段だったので、その目的が達成できるのかどうかが重要で、自分がどういったアイドルになるかというのには無関心でした。
なので大石泉は自分がどういったアイドルになるかをプロデューサーに一任しましたし、それに対してプロデューサーは友人との三人ユニット「ニューウェーブ」を結成し、どういうアイドルとしてデビューするかを一から作り上げ、結果としてアイドル自体に楽しみを感じさせる程に、彼女が全面的に満足する形で答えました。ここにおいて大石泉の中にプロデューサーへの「自分達を正しく導いてくれる」とする一種の信頼が生まれ、同時に二人の関係性が「アイドルとしての目標を与える者/目指す者」となってしまいました。
なることは問題ないんですけどね、もとより目標や方向性という物はアイデンティティと同種で必要不可欠であり、最初から何も持たない少女が決めるより知識がある大人が与えた方が上手くいくでしょう。始まりは。

そしてこの始まりからアイドル活動を通じて大石泉の意識は段々と変化して、友人の為にやっているアイドルが友人と共にやりたいアイドルに変わり、友人に助けられるだけではないソロでも活動できるアイドルを目指すようになります。友人依存脱却の一歩ですね。
しかし意識が変わり目標が変わるも、どういうアイドルになりたいかを見つけた訳ではないです。つまりプロデューサーから目標を与えられる関係は変わってないという事です。初のソロの仕事で「最適化された自分の姿を想像できないからPのセンスに任せる」等と頼る姿からも察せますね。アイドル大石泉がどうなるか決定できるのは大石泉本人ではなく、そのプロデューサーのままであり、大石泉自身がそれでいいと思っているんです。

 

もしかしなくてもアイドルの時の依存先が友人からプロデューサーに移っただけでは?

 

だからといってやる事が変わる訳ではなく、少なくても友人依存からの脱却という成長は果たしています。なので同様にプロデューサーに一任する姿勢も次第に改善されていき、いつかは自分なりに自分がどういうアイドルになりたいかを見つけるだろうという段階に辿り着いていたのが私がプロデューサーになる前なのでどう足掻いても四年以上前の話。未だに改善されてないんですねこれが、なんという不思議な話。

もちろんこの段階から現在に至るまでに大石泉も成長しています。やりたい事を見つけ、自身の欠点を克服し、他のアイドルと共演する事も増え、アイドルとしての土台を着実に積み上げてきました。しかし積み上げた末にあるはずのアイデンティティの獲得には未だ辿り着いていないのが現在の大石泉です。ここまで来るとアイデンティティとは大石泉が見つけなくてはいけないという大前提が認識されていないが故の現状ではないか、というのが私の結論な訳ですね。誰かに頼ってしまうという本人の性格とそれで上手く回ってしまっている環境が相まって大石泉が答えを出さなくていいと感じる錯覚と言いますか。
そしてこの現状が大石泉自身が目標を見つける事で改善され、その先にアイデンティティを獲得して、それを以ってアイドル大石泉を定義できるようになる事が大石泉という物語の目的地です。断言したけれどこの目的地が正しいのか、意味を持つかというとわかりません。現状でも形式としてアイドルとして成立している上に、獲得するとされているアイデンティティが不明な以上定義されるアイドル大石泉が正しいかもわからないからです。
それでも友人がいるからアイドルを始めて、プロデューサーがいるからアイドルを続ける女の子が友人にもプロデューサーにもそれ以外の誰かにも頼らずに自分自身のみを以って自分はアイドルである、と宣言する物語は成長譚として形を成しているし、同時にそれが大石泉の物語の形であり、大石泉が本当の意味でアイドルとなる瞬間だと思っています。
それが大石泉という少女の通過点であり、大石泉というアイドルの始まりであり、大石泉という人間の物語における一つの区切りになるのではないか、というのが私の主張です。

 

 

 

まとめ

 

いかがでしたか。最後にこれを言っておけばブログになるという理屈を振りかざしたい。
ここまでの話を要約すると「少女がアイドルとなる物語こそが大石泉の物語」です。
この要約とかそもそもここまでの話全般へのツッコミ所は沢山あって、担当を本質的にはアイドル未満の少女と認識している所とか、担当を褒める事よりも貶す事が多い所とか、大石泉ってそういうアイドルじゃないよという根本的な所とか多分あるんだろうけれど、私の中の大石泉はこういう女の子だと定まってしまっているので、言葉を聞く耳はあっても変える事は自分の中の声と公式との解釈違いが正式に出ない限り無いかと思われます。こんなんだから同担拒否を名乗るしかないんだよ。
なので担当アイドルに魅力は無いって叫びながらその子の成長を眺めようとする後方なんとか面している変人の備忘録がこの文章でした。納得出来なくても多少理解して貰えたりこんな話を楽しんで聞いている隣人の悪食さが伝わっていたら嬉しい。

 

そして大石泉は2019/01/09に実装された[合格バラエティ]大石泉+が最後の登場なので今(2020/04/13)現在の未登場期間が460日となっています。そろそろ来るんじゃないかと思ってから半年が経ち、前回から1年経ったなと思ってから3ヵ月経ちました。多分もうすぐ新規カードが登場すると思います。その時にここまでの話を読んでもしも万が一意外な事に興味を持った方が大石泉に手を出してくれると望外の喜びになります。よろしく。
そういう事で今回の寄稿はここで終わります。まだ大石泉について話したい事が一つ二つばかりあるので第二回の寄稿を目標に大石泉担当を名乗り続けます。いつ頃完成するかわからないけれど大石泉の新規二枚目が登場するまでには完成するんじゃないでしょうか。

Cinderella Versus 【ウサミンランプ】デッキメモ Ver0.8

※2020年4月1日のエイプリルフール記事です。また、「アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ」の4月1日限定開催イベントの要素を含みます。

※追記:4月1日限定要素ではなくなりましたが、なぜか紹介しているデッキには対人戦を想定した要素が詰め込まれています。

 

 

(諸々を飛ばしたい方は以下の目次をご活用ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前説

 

お疲れ様です。斬進です。本日はリリースされたばかりの戦略アイドルゲーム「Cinderella Versus」の自分なりの調整結果をメモとして残しておきたいと思って深夜3時半も回ったあたりからキーボードを叩いています。

巷では【あんきらコントロール*1や【スーサイドヘレン】*2のデッキレシピばかりが上がっているので、基本に帰ってシンプルなランプデッキを調整していきます。

 

 

 

 

 

【ウサミンランプ】

 

 

デッキレシピ

安部菜々》《五十嵐響子》《衛藤美紗希》《緒方智絵里》《乙倉悠貴》

《岸部彩華》《小日向美穂》《鷺沢文香》《渋谷凛》《島村卯月

《橘ありす》《月宮雅》《西島櫂》《速水奏》《久川凪》

《久川颯》《双葉杏》《本田未央》《三村かな子》《依田芳乃》

 

 

デッキコンセプト

ラウンド1を捨てる勢いでPPを稼ぎ、遅くともラウンド3までには《安部菜々》《速水奏》のどちらかを立てる。その後は対戦相手によっては《久川凪》を探し、そうでないなら枠を開けて速やかに殴り切る。どちらかというとアグロ*3寄りのランプ*4デッキ。

そもそもマナソースが11点のパンチになり試合を速やかに畳むことができるので、生半可なデッキでは太刀打ちができない。デバフで戦うデッキや汎用メタ札である《双葉杏》に対してはコンセプト否定としてマッチアップの時点で非常に有利であり、またどのような相手に対しても《久川凪》+《安部菜々》《速水奏》の「凪ミンコンボ」を揃えれば(相手も《久川凪》を使ってこない限り)勝利が可能である。また、超汎用メタカードである《双葉杏》を腐らせることができるのも強み。

アグロ気味であるためそもそもコントロールデッキである【あんきらコントロール】に対しては有利であり、【スーサイドヘレン】に対しても「序盤が弱い」という欠点が利点として働き、ヘレンの序盤のパンプアップを遅らせつつ凪ミンコンボの完成をある程度待つことができる。ただし【グロウビート】*5に対しては《双葉杏》か《久川凪》の引き次第になるため五分~微不利。

 

 

デッキ解説

 

・コンボパーツ

安部菜々》(Cu)・《速水奏》(Co)

11/10 楽曲開始時、自分アイドル全員のアピール値を11固定にする

デッキコンセプト。自陣のアイドルを等しくそこそこなパワータイプに育てるウサミンとハヤミンのWミン。基本的にはラウンド2、遅くともラウンド3までにこのアイドルを探しスカウトすることを目的としている。

基本的に無敵だが、打点を超えられることと《宮本フレデリカ》《上条春菜》《久川凪》を置かれることに対しては弱いというか後者については対処法が無いので注意が必要。置いた後も打点効率を重視して枠を買うか《久川凪》や《双葉杏》を探しにリロールするかの見極めは必要。

 

・マナ加速

緒方智絵里》(Cu)・《衛藤美紗希》(Pa

0/1 ラウンド終了時、PPを2アップ

1コストのマナ加速は《極楽鳥》以来強いと言われ続けている。ただしラウンド1は2コスト2枚と1コスト1枚と動いて3枚マナ加速を揃えたいため、枚数は3枚ではなく2枚。また基本的に相手にエモを献上するので、そこも含めて枚数をフル投入ではなくしている。

 

《五十嵐響子》(Cu)・《橘ありす》(Co)

1/2 ラウンド終了時、PPを2アップ

2コストの無条件2マナ加速。こちらも基本的には負けることやマナカーブを考えて2枚。基本的にマナ加速で同じ効果を持っているアイドルに関しては、Wミンを引けない場合に少しでもダメージを抑えられる可能性があるようシナジーを重視する、あるいは単に趣味で選んでいる。

 

《依田芳乃》(Pa

3/1 ラウンド終了時、PPを1アップ

1コストのマナ加速だが1点加速になっている代わりに打点が3ある。序盤の打点を抑えたいオシャレ枠、かつ友人の担当枠。ミラーマッチだとお互いにWミンを置いた場合は凪がない限り最初のゲージの差がそのまま勝敗の差になり得るので、意外とバカにならないことも多い。

 

《乙倉悠貴》(Cu)

0/2 ラウンド終了時、お互いのPPを3アップ

2コストのお互いマナ加速。コスト対加速の面においてラウンド1で置けると非常にやりやすいが、現在はアグロデッキよりもビッグマナ系のデッキが多く、相手にもPPを与えてしまうことでこのデッキの強みである速さと均質さを活かしきれなくなる可能性があることを考えて1枚のみの採用。環境によっては後述の《ライラ》を加えて2枚にする、あるいはこの枠も抜いて3/1の1加速にしてもいいかもしれない。

 

《西島櫂》(Pa

2/2 ラウンド終了時、アピール成功していた場合、PPを5アップ

2コスト、かつ攻撃が通れば5点加速のハイリターン。非常に環境依存・相手依存だが、後述の《久川颯》《岸部彩華》がシナジーの関係上入れやすいこと、それらと合わせてラウンド1に2枚セットで取れることを考えてピン差し。これも上述の《乙倉悠貴》と同様に環境と応相談。【スーサイドヘレン】に対してはかなり弱いことを留意されたし。

 

《月宮雅》(Cu)

3/3 ラウンド終了時、アピール成功していた場合、PPを7アップ

《西島櫂》の3コスト、かつ7点リターン版。基本的には上述した通り。シナジーが存在し、マナ加速であるため採用。ラウンド1《久川颯》《月宮雅》は基本宇宙。Wミンが次ラウンドで買えればさらに加速するため、《久川颯》を探しに行くPPを確保することもできる。

 

鷺沢文香》(Co)

4/4 ラウンド終了時、PPを3アップ

4コストの無条件3点加速。やや重いため序中盤には向かないが、BRIGHT:LIGHTSシナジーが存在し加速同士で組めるという点でサブプランのビートダウンでのアドバンテージ確保に貢献できる。PPが10を切ってしまった際の購入検討先としても非常に優秀で、実質1PPで頭数を増やすことができるのはぶん回り初期のあんきら系デッキに対してダメージを抑えるチャンスを増やすことに貢献できる。

 

・メタカード

双葉杏》(Cu)

0/1 相手のアピール値を99ダウン

人権。【あんきらコントロール】最大の敵にして【グロービート】【スーサイドヘレン】に対しても配置ゲーに持ち込むことのできるほぼ防御不可の最強メタ。2コストのアイドル2枚+このアイドルという動きがあまりにも強すぎるのでおそらくすぐに2コストになる。さもなくば特訓してもスタッツが0のままか。

 

《久川凪》(Pa

3/3 相手のアイドルのアピール値を5固定にする

準人権。打点を上げるというこのゲームの必勝法を真っ向から否定する変わり者。杏と違うのは自分自身はそのままだと負けること。しかしこのデッキにおいてはWミンのおかげで相手を5に固定したうえで11で殴るという非人道双子の姉になる。同じ効果を持っているアイドルには《宮本フレデリカ》と《上条春菜》が存在するが、今回はサイレンス系の曲*6対策として、軸であるWミンと属性が被らないPaである凪を採用している。

 

・サブプランその他シナジー

小日向美穂》(Cu)

1/2 ラウンド終了時、このアイドルの基礎アピール値を3アップ

サブプランその1。ラウンド1で美穂を購入しスケールさせていく【小日向コントロール】に近い動き。場繋ぎと安定を得られるほか、コンパクトに纏まったシナジーにより採用。ただしスケールは他のTier1デッキに比べて遅めであるので、環境と要相談。

 

《久川颯》(Co)

0/2 次のアイドルのアピール値を6アップ

自分の勝ち点をひとつ後ろに託すバッファー。2コストであることで初手に買いやすく、攻撃が通った場合に加速するアイドルの強力な補助ができる。同条件の中でも、《久川凪》と2枚でシナジーを構成できるという点が採用を後押しする。

 

《岸部彩華》(Co)

0/3 次のアイドルのアピール値を7アップ

一回り大きい《久川颯》。ガールズ・パワーシナジーが構成できるほか、デバフ系のデッキに対して無理矢理こじ開けることもできる。《西島櫂》との相性も良い。

 

三村かな子》(Cu)

4/3 楽曲開始時、自分キュートアイドル全員のアピール値を1アップ

Cu全体1点バフ。《安部菜々》からデッキを構築した結果ややデッキがCuに寄ったこと、汎用性の高い《双葉杏》とマナ加速である《緒方智絵里》とキャンディアイランドシナジーを構築でき、シナジー全体で5コストと非常に安価であるうえ杏が打点に化けることなどを考慮し採用。

 

 

島村卯月》(Cu)・《渋谷凛》(Co)・《本田未央》(Pa

2/2 楽曲開始時、自分キュート(クール・パッション)アイドル全員のアピール値を1アップ

古き良き【ニュージェネビート】のパーツ、ミッドレンジの代名詞とされた3人。強化効率で言うと3人そろえば6コストでスタッツ8が3人と非常に強いが、このデッキではややスケールに劣る点はある。凛と未央は差し替えを悩んでいる。

 

 

・差し替え候補

《ナターリア》(Pa

1/2 ラウンド終了時、PPを2アップ

《ライラ》(Co)

0/2 ラウンド終了時、お互いのPPを3アップ

2枚でシナジーを構成できるマナ加速コンビ。サブプランを削減する場合はおそらく真っ先に候補に挙がる。現在はメタの関係上《ライラ》の採用が難しく、それに伴って《ナターリア》も採用を保留している。

 

《藤原肇》(Co)

2/3 ラウンド終了時、アピール成功していた場合、基礎アピール値を7アップ

【グロウビート】のキーカード。新たなるサブプラン。《依田芳乃》と2枚で山紫水明シナジーを構築でき、また現在入っているバフ系でサポートをすれば高速で手の付けられない打点まで育つ。ただしキーカードであるWミンとの相性は芳しくなく、デッキの大部分を占めるマナ加速とも特段相性がいいわけでもないのが難点。

 

 

プレイング

1.マナ加速をします。ラウンド1はなるべくマナ加速アイドルを取ること、なるべく3人のアイドルを揃えることを頭に入れます。ダメージは気にしない。

2.10PP溜まったら全力でWミンを探します。あったら置きます。

3.相手が11点打点を早めに超えてくるデッキなら《久川凪》を探し、そうでないならPPを枠の開放に使って速やかにゲームを畳みます。

簡単ですね。

 

 

 

 

 

おわりに

まあこのゲームPvPないんでメタ回らないんですけどね。

ということで今年のエイプリルフールネタでした。かなりカード評価は適当に書いたのでちゃんとエイプリルフールです。まあエイプリルフールと言っても実際にこのデッキを持っていけばかなり簡単にCPU戦を戦えるのでオススメです。エンディングのデレスポを手軽に自分で見たい方はぜひどうぞ。

既に徹夜して朝も7時を回ってきたのでこのあたりにします。オートチェス系のゲームは初めてやったのですが、今回のエイプリルフールはアイドルでやる理由が明確になっていて面白いと感じました。シナジーの効果を打点アップ以外に用意するなど改善点として考えられる点はいくつかありますが、それはそれとして正式リリースしてくれ、暫くやるぞ。

あと次回の記事更新予定はなぜか既にあります。某氏が「語りたいけどブログとか作るの面倒で」って言ったからこのクソブログで良ければって言いました。ご期待ください。

とりあえずその方の原稿が上がりましたら。

 

 

 

 

 

追記

 

何だかよくわからんがこの記事の寿命は延びたらしい。PvPはスコアアタックしかないけど。ちなみにスコアアタックは完全に試行回数ゲーになると思います。バフ編成のCPUを引いてこっちの初手が杏+マナ加速2枚、になってから当たり運が良くてノーダメージなら勝てます。というかどのデッキでも基本初手運次第だし、スーサイド系デッキには初手からノーダメで勝つのは難しい。

*1:諸星きらり》を使ってド派手にフィニッシュする、相手が双葉杏を引いていないことに命を懸けるビートダウン。

*2:PP効率が高い代わりに相手にエモを与えるアイドルを使って能動的に《ヘレン》を育てて1~2ターンのバーストで殴り切るコンボデッキ。

*3:相対的に最も強いタイミングが試合の序盤にあるデッキ。

*4:いわゆるマナソース(この場合はPP)を稼いで大きなアクションを通常よりも早く叩きつけるタイプのデッキ。

*5:《関裕美》《藤原肇》《黒埼ちとせ》《篠原礼》のライブ成功時にスタッツが大きく上昇するアイドルを1~2人同時に育てていくビートダウンデッキ。

*6:特定属性でないアイドルの特技が使えなくなる曲。「未完成の歴史」「Spring Screaming」「O-Ku-Ri-Mo-No Sunday!」「凸凹スピードスター」などが該当する。

オタクレクリエーションゲームのルールを整備したら薄い合同誌に参加させられた話

 

(記事を飛ばしたい方は以下の目次をご活用ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前説


お疲れ様です。斬進です。

私のことを知っていて既にこのブログの存在を覚えている人はおそらくいないでしょう。定期的に引っ掛かる限界カルタについて知りたい人を除いて。マジでなんなんだ。凄くたまにアクセス数覗いてみると急に伸びてたりして怖い。

本日は告知というか、久々に身の上話をしようと思ってキーボードを午前6時に叩いています。深夜テンションでしか作業ができないダメ人間とは私のことよ。シンプルなクズかな?

そして上記の関係上死ぬほどどうでもいい話が多いし全体的に短いので、どうでもいい話がどうでもいい人はブラウザバックするなりこっちにクソリプ送ってくるなりしてください。なおあんまりなリプは今後の付き合い方を考える場合がございますのであらかじめご了承ください。

ということでOKな方のみ先にお進みください。このタイプの警告どこで見たかなと思ったら手描き動画とかのヤツだ。このしぐさいつからあるやつなんだろう。調べると深淵になりそう。

 

 

 

 

本題という名のカルタのその後

 

前回・前々回の記事の内容関連になるので、そっち方面に興味のない方はわざわざスクロールしていただいて恐縮ですがやっぱりブラウザバックしてください。ちなみに今眠すぎて「バック」と「バッグ」を2回間違えました。

 

zanshinm9.hatenablog.com

zanshinm9.hatenablog.com

 

こちらの記事で書いた通り、「限界カルタ」なる遊びのルールアレンジと主催まがいのことをさせていただいています。ちなみに今これを書いている時点の予測では、3月の頭には第20回が開催されていると思います。思い立って書いているのでそもそもこの記事がいつ公開されるかわかりません。現在何回なのかは多分未来の自分が注釈で教えてくれてると思います。*1

前掲ブログを読まずにここを読んでいる綱渡り好きな方に説明すると、「出てきたお題に対してみんなで即興の妄想またはSSちょい未満なものまたはプロットを投げつける」ゲームです。字面の酷さは自覚しています。

そもそもルール整備といっても、自分のやったことはそう多くありません。百合のオタクが多い環境だったので具体的なキャラクター名を伴うカップリングに限定してみた*2り、次のお題は優勝者が決めるということは新設したり。最近では追加オプションとして、直前まで誰が提出したかわからないようにする、あらかじめ各人から提出されたカップリングを場札として公開してそこから取っていってもらうようにする*3、といったオプションを皆さんの協力の下考察してはいます。しかし基本的に記事内のルール説明のところでも提示したあの元ツイートに忠実に開催されるし、もう割と回数こなして皆さん手慣れているので放っておいても進行する*4ぐらいなのですが。

その結果、一課に「カルタを見たい」という理由で6人ぐらいいらっしゃいました。2週間に1度定期開催されるようになった自分主催のカルタ会は20回弱までつもり、取られた下の句は400件超。課長曰く「SSとして成形してカルタ産みたいなタグつけてどこかに流せば物量作戦で戦争に勝てる」とのこと。我々はいったい何と戦っているんでしょう。

そして一度やってみたかったと課長が語る『合同誌』なるものが、限界カルタに類似した形式で執筆されることに決まったのが去年の9月下旬でした。

いやこの記事書くために調べなおしてなんなんだけどカルタから合同まで早すぎないか? 6月末だぞ第1回カルタ会。最近の若者のフットワークの軽さたるや。偶然にも(?)コミケに参加したことのある人やボランティア参加したことのある人、小説本をたくさん出したことのある人が一課にいたのも相成ったとは思うけど早いほうだろ多分。

まあコミックマーケットには応募はしたものの、流石に天下のコミックマーケット。競争率の問題もあるし、ゴールデンウィーク開催になるんだったら祝日で休みやすいし参加人数は更に増えるだろう。そうなればわりと当たらないだろうし、歌姫庭園とかになるだろう、などと考えていました。

 

 

 

 

ということで二桁名の方が集まったアイドルマスターシンデレラガールズ百合ごった煮合同、『Tick T@ck Time!!』が2020年ゴールデンウィーク開催のコミックマーケット、C98の3日目5/4(月)に南イ19-b「アイマス庁捜査一課」にて発刊されるはこびとなりました。約70ページにわたって「時間」をテーマにそれぞれの参加者が遠慮なく自分の妄想を爆発させている様は多分必見です。多分。

追記:もしコミックマーケットが中止になるなどした場合は、近々に開催される別のイベントにて頒布することになると思います。

 

以下は参加者紹介とカップリング等の紹介になります。詳しい頒布情報につきましては、お品書きとか出たらツイートのリンクを貼っておきます。忘れるなよ未来の自分。

なお、本記事内でのカップリング表記の前後と作品内での精神的受け攻めについては必ずしも一致しないことをご了承ください。また参加者紹介文章は予告なく変更される可能性があります。

 

追伸:頒布先について

 

 

 

 

参加者紹介

 

いかざこ

担当は北条加蓮速水奏ほか。世界のあらゆる事物を担当とオリキャラに結び付けるタイプのオタク。今回の編集者。

北条加蓮Discordサーバー『MINTCORD』サーバー管理人を務めるほか、北条加蓮オンリーの主催をするなど精力的に活動する加蓮P。北条加蓮中心小説サークル『現実性探査機』としての活動のかたわら某大学のアイマス研究会代表も務めるなど、こういったイベントへの参加回数も多い。

今回のメンバーの中では唯一自分のアイマス系活動サークルを持っている。加蓮がプロデューサーになってオリジナルのアイドルをプロデュースするシリーズを絶賛執筆中で、当シリーズを書くにあたって作詞をした。また整合性について真摯に向き合っており、満月の夜の話を書くために作内で日付を指定することも。

そこそこ軽率にタスクを増やすためいつも〆切に追われているが、常に体調が悪く睡眠時間が両極端なため心配され続けている。

今回は「かなかれ(北条加蓮×速水奏)」執筆。タイトルは『永遠の陽射しの頂』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=10332191

 

ひでん之

デレマスの推しは一ノ瀬志希・二宮飛鳥・白坂小梅*5 1000のあだ名を持つ人。

様々な界隈で独自のネットワークを築きあげており、人徳が非常にある。Amazon経由で特定のお酒が送られてくるレベル。また彼が「推しカプください」と言うと、どこからともなく大量の推しカプが彼のマシュマロに送られてくる。打ち出の小槌を持っている、という説が現在最も有力。

文章についても誘い出しから一点でキルを取りつつ、それ以外の表現においても光るものを見せつけてくるタイプ。言葉選びについて一日の長があり、デレマスではコピーの難しい一ノ瀬志希・二宮飛鳥についても「らしさ」をしっかりと出してくる。最初期はト書き形式で文字を書いていたこともあり、その方面でも執筆が可能というマルチプレイヤー

「あげもの」「ウロボロス」「檸檬*6」などの名前を見たらだいたいこの人。

今回は「しきあす(一ノ瀬志希×二宮飛鳥)」執筆。タイトルは『たったの0.2秒間』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=14571959

 

元ゴリラ

担当は北条加蓮・黒埼ちとせほか。クソ映画とTCGと越境と胡乱の人。

普段はロクでもないことを考えたり本人曰くどうでもいいことでバズっている元ゴリラ。伝説の暗黒遊戯『ゴリラTRPG』が誕生するきっかけになった人らしい。担当を見て分かる通り(?)「強い人間」「強くなければいけなかった人間」が好きで、1回「停滞は死だし弱さは罪」と言ったらフォロワーとあわや解散の危機になった。

自ら「百合を書くのには向いていない」と称するが、キャラクターとキャラクターの関係性を描いていくことに対しては非常に真摯に向き合っている。ただしたまにその手段が他人から見ると理解不能だったりする*7。「これは〇されても仕方ない」みたいなことを言いながらそれでも酷いことを書いたりもする。今回はいつも考えている越境ものを提出しようとして1回怒られた。

元ゴリラなので今はゴリラではないはずだが、都合が悪くなるとゴリラのふりをしてやり過ごそうとする。

今回は「ちと千夜(黒埼ちとせ×白雪千夜)」執筆。タイトルは『The Night of the Milky Way Train』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=12436040

 

姪谷凌作

担当は依田芳乃。胡乱なアイマスプロデューサー団体「アイマス庁捜査一課」一課長。今回の発案者兼責任者*8

課長といっても開設当初のノリで付与されたらしく、基本的には放任主義。しかし今回の合同誌についてだけでも真っ先に原稿を完成させ、他人のスケジュール管理や都合のつかなくなった参加者の代理を立てるなど、責任についてはきちんと負う上司タイプの人間。

文章においてはアイデア系かつ別アプローチを真っ先に模索するタイプ。いわゆる「限界カルタ」においても、お題の解釈やそれに合わせたカップリングについて少し視点をずらしてみた作品をよく出してくる。担当と日本語についてもきちんと向き合っているため、非常に読みやすく脳内で再生しやすい文章が大きな特徴。

側溝に落ちた話を2種類持っていて、よくウケるので初対面の相手にする。そのせいか「側溝の人って存在は知ってるけどそれ以外の情報一切知らない」とフォロー外の人が言っていて少し凹んだことがある。

今回は「よしのの(依田芳乃×森久保乃々)」執筆。タイトルは『おおきな切り株』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=24826462

 

パナくま

担当は双葉杏・久川凪・久川颯ほか。アイマス庁捜査一課メカニック。ソフトもハードもいじれるらしい。今回の事務処理担当。

基本的に多忙だがノリを重視する人で、その面だけ見れば恐らく最も正しく大学生のオタクをしている。某大学アイマス研究会所属、かつ技術系カンファレンスにネットワーク機材の貸し出しやらなにやらをしているらしい*9ので、本名その他がフリー素材らしい。

本格的な二次創作行為歴が恐らく今回の参加者の中では最も短いが、恐らく最も「自分の見たい話を書く」という原点に対して忠実かつ誠実、かつ原作や先行創作に対しても非常に丁寧に向き合っている。経験を積めばかなりのやり手になると目されている。

今回の原稿に際して、締切の2日前にプロットを書きなおし始める暴挙に出た。

今回は「なーはー(久川凪×久川颯)」執筆。タイトルは『チカク/テ/トオイ/ワタシタチ』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=8051979

 

ペルチェ粒子

担当は双葉杏輿水幸子ほか。胡乱なアイマスプロデューサー団体「アイマス庁捜査一課」一課副課長。

若さゆえか他人をコミュニティに誘うことに躊躇がなく、一課拡大の最大の要因となったであろう存在。かなりの時間インターネットにいるせいで「サイバーエルフ」と呼ばれ、彼を通じたネットワークが広大かつ凄まじい人間に行き当たるため「地獄門」の異名をも持つ。推しカップリングをねだることに余念がない。

執筆歴は短いが、重要な部分に合わせて詩的な表現を上手く混ぜ込んでくる天性のセンスが光る文章が特徴的。自分の担当についての造詣が深く、思考の流れをひとつひとつ丁寧に追っていくような書き方をする。

一説には電子生命体とされている。

今回は「こしあん輿水幸子×双葉杏)」執筆。タイトルは『resin』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=31725097

 

9り

担当は双葉杏ほか。自己紹介を求めると「女児です」か「5歳です」しか言わない。

推しに人生を捧げる自称5歳女児。それ以外の情報は「交通の便が不便」「社会生活を呪っている」ぐらいしか出てこない、おそらく謎の多い人物。よく推しに命を奪われているし、なんでもないものから連想ゲーム的に命を奪われることもしばしば。

イラストも描けるし文章も書ける、天に二物を与えられた存在。物語に引き込むという点において一切の容赦がなく、そのためにはイラストや写真を挿絵として使う・Discordの編集機能を使う・表現を歪めるなどといった手管をフル活用する。「すこしふしぎ」という方向性でのSFチックな話にも定評があり、今回の作品もそのような傾向があるとかないとか。

限界になったときの言語センスに定評があり、格言を生み出すこともしばしば。

今回は「しゅがみん(佐藤心×安部菜々)」執筆。タイトルは『永遠ではない時間の中で』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=10316462

 

ふじこ

担当は依田芳乃。とある一課メンバーに小説の感想を言いにTwitterアカウントを新設したら一瞬で囲われた人。

基本的にはどこにでもいる芳乃P。水泳や音楽関係やデータ収集など、様々なことに手を出しているわりあい多趣味な人間。しかし未だその生活の多くは謎に包まれており、「個人情報を晒さない」という古のインターネットしぐさを実行し続けているそこそこ少ない若者のひとり。

文章はユーティリティプレイヤー。ギミックのある文章からのんびりとした文章まで満遍なくこなすことができる。基本的にはのどかな世界を描くことが多く、掌編を書けば「世界観が概ねまんがタイムきらら」などと称されることも。『BanG Dream!』の合同誌に参加したこともあるらしい。それなのに今回の参加者で唯一Pixiv等の作品発表媒体の投稿用アカウントを持っていない。

最近ボイスチェンジャーを実装したが、そこそこ適性があった。

今回は「おとより(乙倉悠貴×依田芳乃)」執筆。タイトルは『時の赴くままに。』。

 

ヌコスキー

担当は星輝子・森久保乃々ほか。「クセになってんだ、他人にSS投げつけるの」。

自称有袋類のほのぼの主義者。正式役職ではないが、限界カルタの宣伝を多方面に行った実績から「アイマス庁捜査一課」の広報と呼ばれることもある。わりあいカップリング厨に近い存在で、普段バイト中からSSのネタを考えている生粋のSSライター。たまに作る料理のサイズがおかしい。

筆の速さ・それに対する完成度・雰囲気を纏める能力、の三拍子揃った、一課きっての掌編ライター。基本的にはハッピーエンド・ほのぼの主義者だが、求められればややダークな作品も書き下ろすことができる。また執筆の最大の動機が自身の飢えではなく「友人が好きな話を書くため」、というなかなか珍しいタイプ。そのため履修範囲も広く、かなりのアイドルの話を書くことができる。シチュエーションに対しての文章量が適切で、「書きすぎない」描写分量を見極めるのが得意。

「推しカプ欲しいって言ってたから」という理由で一晩に9本同じカップリングのSSを書いて寝ている相手*10にリプライで纏めて送り付けた結果、その相手が夢だと思って二度寝して遅刻の憂き目に遭った。

今回は「しょうこうめ(星輝子×白坂小梅)」執筆。タイトルは『ふたりのいつものオノマトペ』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=6677069

 

流流流

担当は一ノ瀬志希・今井加奈・西園寺琴歌ほか。分類はクジラ目ハクジラ亜目マイルカ科シャチ属。

Twitterのアイコンが鯱であるため「シャチさん」と呼ばれる一課のマスコット枠。今井加奈の可愛さと無限の可能性について熱く語ることに定評がある。わりあい多忙な存在だが労働環境について訊ねるのはご法度らしい。絵は本人曰く「練習中」で、定期的にイラストをアップしている。

典型的な「見て」物を書くタイプで、アイデアから自分の頭の中でキャラクターたちが動く映像を見てそれを文章へと書き起こす。本人はそれを「電波が降ってきた」と呼ぶ。また設定を練りこむことを好む関係上短編よりは中編以降の方を得意としているが、様々な事情により中編以上を書く機会に最近は恵まれていないため今後の予定に期待がかかっている。

たまにうっかりマイクミュートを解除し忘れたり別のチャットに書き込んだりする、やや天然タイプ。

今回は「しき加奈(一ノ瀬志希×今井加奈)」執筆。タイトルは『かなかな☆ないと おうる』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=32061983

 

梓松

担当は高森藍子小日向美穂。数少ない常識人(ただし担当についての一部言説を除く)。

たまに更新される長文のブログを運営している以外はいたって一般的な社会の人。デレマス・シャニマスを通してティーンエイジャー寄りのアイドルを好きになるイメージ*11。普段は非常に忙しいらしく、今回の合同誌参加が久しぶりの正式な原稿執筆になるとかならないとか。コブクロの熱烈なファンで、3次元での一番の推しらしく「この世で一番好きな2人」と語る。

文章は堅実にして鮮やか。主として高校生~大学生近辺の年齢層のアイドルの心情描写や少女性の描写に長けており、シチュエーションの細部への拘りも相当なもの。丁寧な描写を積み重ねていく読みやすい文章も特徴的。楽曲からイメージを膨らませて文章を執筆することがままある。

今回は「みおあい(本田未央×高森藍子)」執筆。タイトルは『ずっと、』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=16136637

 

軍鶏

担当は小日向美穂北条加蓮ほか。オタクを解釈の暴力で殴れば世はなべてことも無し主義者。

わりあい色々な沼に足を突っ込んでみて、後から「やっぱりダメでしたね」と笑うタイプのオタク。かつ足を突っ込んでみたことに対してしっかりと研究をして自分の世界解釈を構築していくタイプのため、深刻に沼に嵌りやすい。一課に参加してから手段としての文筆を手に入れた。

前述の通り、「自分のアイドル解釈を読んでもらい納得してもらう」ことを目的として執筆している。そのため強固なアイドル観が完成されており、それに裏打ちされたキャラクターの動かし方に定評がある。

久川颯ガチ恋勢になりかかっており*12カップリング厨の自分との間で苦しんでいる。

今回は「新田ーニャ(新田美波×アナスタシア)」執筆。タイトルは『スターゲイザー』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=11681740

 

 

斬進

担当は特になし。*13

普段は中学生時代に1度知り合っていたインターネット顔見知りの某氏と「ないん」という共同名義でキーボードを叩いている。基本的にはネタ出し担当兼執筆以外の雑務担当兼文責多忙の際の代理執筆係。みくりーなのオタク。

今回は「みくりーな(前川みく×多田李衣菜)」執筆。タイトルは『タイマー、スタート!』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=18863236

 

Timian(ゲスト)

担当は依田芳乃。姪谷課長のみが連絡を取ることのできる幻の外部委託業者。

そもそも課長がある日突然「別名義で毎日1作ずつぐらいのペースで短編を投稿しよう」と思い立ち、一課外の知り合いを一人捕まえてきて共同執筆者にしたらしい。名前の由来は「Meitani」のeを抜いたアナグラムで、「良い(e)を抜いた」というとんちから彼の投稿は「よからぬこと」と課長に称されている。

課長との仲は良好らしく、好みのキャラクターや履修範囲もほぼ同じ。ただどちらかというと手が広い方なのか、課長がデレマスだと依田芳乃関連の話をメインに考えるのに対して、彼はそれ以外のアイドルの話を書くことが多い。最近は『SHOW BY ROCK!!』の二次創作を二人で考えているらしい。

今回は「ともかりん(藤居朋×道明寺歌鈴)」執筆。タイトルは『Let's leap』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=41075478

 

ないん(ゲスト)

担当は不明*14。上述の「ないん」文責、別名義不明*15

参加者の多忙により参加人数が減ってしまった数合わせ人員として、とある一課メンバー*16にフォロー外からSSをマシュマロを送り付けた罪で立件・寄稿させられた。一課に顔を出したことはない。共同名義の人間にもほぼ一切の個人情報を明かさないからここに書くことが少ない。

今回は「はるひな(上条春菜×荒木比奈)」執筆。タイトルは『九秒間は運命の』。

https://www.pixiv.net/member.php?id=18863236 (同上)

*1:3/14に第20回が開催されました。

*2:最近は要望の声に合わせて3人以上や単純なアイドル話にも対応したりはしました

*3:このオプションが考案されたのは、課長の「限界カルタ、カルタってわりには皆懐から下の句出してくるじゃないですか」という至極真っ当な指摘がきっかけ

*4:むしろ自分がテンプレ的にゴネるのがテンポ悪くしてるのは自覚していますが、あれはテンプレ芸みたいなものなので勘弁していただきたい

*5:本人の意向を重視して「担当」ではなく「推し」という表現をさせていただきます。

*6:檸檬堂は日本コカ・コーラ登録商標だと思います。多分。

*7:例えば速水奏と橘ありすの関係性を描くためにクソ映画を見せたりカードファイトさせたりする

*8:だいたい一課関係ではいつも

*9:筆者はそのあたりド素人なのでよくわかっていない

*10:副課長。

*11:個人の感想です。

*12:手遅れという説もある

*13:担当と言えるほどアイドルに詳しくなく、推しと言えるほど一人のアイドルに傾倒できない

*14:多分上記と同じく特になし

*15:Twitterアカウントもあるにはあるらしいが教えてくれない

*16:ひでん之。

よさみカルタを改造してプロデューサー達でやってみたら幻覚を見るオタクの宴になった・後

 

※今回の記事にも主にアイドルマスターシンデレラガールズアイドルマスターシャイニーカラーズの百合二次創作要素が今までよりも多分に含まれています。苦手な方やよくわからない方はご注意ください。

 

(諸々を飛ばしたい方は以下の目次をご活用ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前説

 

お疲れ様です。斬進です。前編の記事(

よさみカルタを改造してプロデューサー達でやってみたら幻覚を見るオタクの宴になった・前 - このブログのどこからでも切れます

)がフォロー外に少しだけ拡散されたのを見てバケモノを生み出してしまったバイオ研究員の感情が少しわかるような気がしました。でもそれはそれとして他人がやったこのゲームのログは見たい。推しについて語れば世界は平和。逆カプ除く。

今回もTwitterで流れてきた「よさみカルタ」を二次創作用に多少ルールを改造して深夜12時半から4時にかけて行った記録をブログに残しておきたいと思います。第2回カルタ会のログ取りは自分以外になると思います。前半の記事22,566文字ってなんだよ。纏めろ。

参加メンバーは相も変わらず謎のデレマス・シャニマス二次創作プロデューサー集団、通称『一課』の面々です。今回参加されている方以外にもけっこうな数の方がいらっしゃりますが、だいたい負けず劣らずのやべーやつばかりです。個人的には「普通」と「一般」と「常識的」の違いについて詳しくなれる場所だと思います。

また今回も某人からの要望によりやや物語チックな書き方のテキストカバレージとなっております。時間がかかりすぎてノリで押し切れない感満載です。後半はそもそも妄想そのものの長さも減っていますが。

(追記:この競技を何故か就活に活かす人間が現れたうえに、彼の就活用の資料に前編のブログURLが付記されました。世の人間の発想に恐れ戦いています。)

(追記2:この競技を何故か就活に活かした人間はインターン面接に合格したらしいです。このブログの話もしたらしいです。正気か?)

 

 

 

 

 

ルール説明(前編と同じ)

 

元ネタ

 こちらをもとにしたルールを構成しています。

 

ゲームの流れ

1.読み手が単語をひとつ、「上の句」として提示する。
2.取り手がその単語で考えられる関係性(カップリング)を一人ひとつ、早い者勝ち「下の句」として提示する。
3.「下の句」が全員分揃ったなら、取り手は提示した順に自分の「下の句」は「上の句」の単語をどう活かしていくのか読み手にプレゼンする。
4.読み手は独断と偏見で最も心にきた「下の句」を選ぶ。
5.勝者を称える。
6.勝者を次の読み手として1.に戻る。

 

上の句について

読み手がアドリブで思いつく場合はそれを提示する。
思いつかない場合は主催が用意した診断を使ってもよい。

shindanmaker.com

 

今回のローカルルール的注意点(お好みでどうぞ)

・参加者の中に未成年がいるため全年齢対象版。エロ・グロ問わずなるべくそのような表現は避ける。
・二次創作者の集まりなので二次創作可。キャラクター名を出すかどうかは自由。
・推しに関わりのある単語が出ても限界になりすぎない。カルタをすること優先。
・あくまで妄想やネタを投げる。SSをそのまま書いて投げない。

 

 

 

 

 

イカれた参加メンバーの紹介(敬称略)

 

ひでん之

前編の下の句はしきあす・【読み手】・かほなつ。昔掲示板にSSを投下した後暫く創作活動をしていなかったが、最近になって物書きに復帰し掌編を作ったり合同誌に参加していたりする。合同誌で挿絵を商業漫画家の方に描いてもらったり、直接感想を貰ったりといった経験まである。通話するために深夜に散歩していたら、家の目と鼻の先で職務質問を受けたことがある。

https://www.pixiv.net/member.php?id=14571959

 

9り

前半の下の句はかほちょこ・こがきり・【読み手】。急に知り合いの推しカプの話をして相手を限界にする「刺しあい」を一課で初めてやりあった人。片手で数えられるほどの回数だがシャニマスのコミュを読む配信をしたことがあり、半泣きになりながら限界を迎える9りの声と元気な小宮果穂の声と窓の外で熱唱するカエルの群れの声が相成って、さながら田舎のお通夜のワンシーンのような配信になった。

https://www.pixiv.net/member.php?id=10316462

 

姪谷凌作

前半の下の句はオリジナル・よりななみ・おとより。一課の課長と呼ばれているがわりと放任主義。最近特に深い意味はなく別名義を作り1日1作SSを投稿していたことが発覚した。ご飯を毛布で包んで猫に見立てる行為については、「僕が初めてやったときにそれが湯たんぽだったら湯たんぽが猫だったかもしれないけど、ご飯くるんで猫にしたんでご飯が猫なんですよ」と語る。

https://www.pixiv.net/member.php?id=24826462

 

シズク

前半の下の句はかえみゆ・しきあす・かえみゆ。本人の好みはいわゆるカッコいい系のアイドル。暫く忙しかったらしく一課に顔を出さなかったが、落ち着いたのか最近復帰した。この企画が一課本格復帰初の参加となった。部屋にはアイドルの名前のラベルが貼られている透明な液体の入った小瓶が並んでいるらしい。本人は中身をアロマだと主張している。

https://www.pixiv.net/member.php?id=14105829

 

斬進

前半の下の句は【読み手】・なおかれ・みくりーな。今回の主催。ネタ出しなのでこの中で最も文章力が低い。

 

 

 

 

 

物語風味のログ本編

 

 

第4句 「猫」

「じゃあ私といえばね、『ご飯』と迷ったんですけど『猫』で」

第3句に引き続き汎用性の高い上の句となった。猫のようだと称されるアイドルもいれば猫の格好をしたアイドルもいる、猫を飼う話でも猫を見つける話でもよい。ありとあらゆる方向に伸ばすことのできるアンテナを一極に集中させ、その先に自分の妄想できるカップリングが存在するか。最初の方角決めが鍵となることを予感させた。

しかし、前の句からの流れはとどまることを知らない。すなわち、好きなカップリングの妄想をすることを優先させた蛮族戦法である。トリッキーな策を仕掛けてきそうな参加者のうち姪谷は今回読み手であり下の句には不参加、主催はそもそもの文章力が足りていないということを鑑みれば、この戦法が最も強いというのもある意味理に適っているのかもしれない。そこまで考えていたかはわからないが。

第4句、最も早く動いたのは9りだった。今までは下の句を『取る』のに多少時間がかかってはいたが、ここにきて絶対的にも相対的にも早く、そのカップリングの名前をボイスチャットに乗せる。

「『しきフレ』」

小さく呻き声がしたのは、ひでん之からだっただろうか。かたや[アイロニカル・エトランゼ]では猫と戯れ、本人もまた猫っぽいと言われるアイドルである一ノ瀬志希。かたや高田純次の女体化とも言われるほど自由奔放で気まま、しかししっかりしているところはしっかりしており猫のような気品も漂わせるクォーターアイドル宮本フレデリカ。「雑に顔がいい」とも評されるこのふたりだが、いかんせん天才と自由人である。こがきりと違って思考回路がどのようになっているのかの再現が難しいため妄想でも動かす難易度は下がらないと考えられるが、9りはふたりをどう猫へと導くのか。

そこからそう間を開けずして次に下の句を提示したのはシズクであった。

「はい、『りんのの』で」

渋谷凛と森久保乃々。エイプリルフールにデレマスで開催されたアイドル召喚マスター共闘バトル型ヴィジュアルノベルイベント「シンデレラパーティ ~ドリーム・ステアウェイ~」で初登場した組み合わせである。引っ込み思案の乃々と他者を先導する正統派クールの凛ではあるが、乃々は森のなかまたちと言って森に住む小動物を好み、凛は実家の花屋で犬を飼っているという描写がある。このふたりがどのようにして猫と絡み、また猫を介してどのような関わりを見せるのか。こちらもしきフレに引き続き目の離せない下の句となることが期待される。

さらに下の句の提示ラッシュは続く。切り出したのは主催。

「ここでね、参加できなかった方々にログ見て悔しがってほしいんですよそろそろ」

非常に性格の悪いことを言い出す主催。チャットに各々提示した上の句と下の句をメモしていて、チャット欄には単語の後にカップリング4つ、が続いていた。そして主催の言ったことは、要するにここにいない人物の推しカプを出しておけば、そのカップリングの話をしたことはわかっても内容が分からないのではないか、ということだった。

「ということでね、ここでひとつ『こしあん』行きますか」

押しも押されぬ人気アイドル、輿水幸子双葉杏カップリング。最近[あんず色の青春]で映り込んで界隈を阿鼻叫喚の地獄絵図に変化させたが、この一課においては特に重要な意味を持つカップリングである。何を隠そうこのこしあんというカップリングは、放任主義気味の課長である姪谷に変わって積極的に一課で活動をしているとあるプロデューサーが愛してやまないカップリングなのだ*1。しかしこしあんは描写する人間によって関係性や向き合い方が大きく異なることが多い、言うなれば非常にブレが激しいカップリングである。今回のこしあんはどの方向に舵を切るのか、『取った』のが主催という部分も含めて不安が立ち込める。

本日2回目の4番手となることが確定したひでん之であったが、彼もそう長くは悩まずに下の句を取る。

「んー、じゃあ『かなふみ』で」

今度は主催の口からお、と感嘆の声が漏れた。ミステリアスで思わせぶりな言動、しかしやや損な役回りもこなせる速水奏と、天然の気がある本の虫アイドルの鷺沢文香。こちらもまた、ひとめ猫とそこまで縁のないふたりである。勿論読書中に猫が、などと組み合わせることも可能ではある。しかし9りと片被りとはいえ、公式で猫っぽいと言われているうえに得意分野である一ノ瀬志希、そこから専門のしきあすに繋げるというルートを蹴ってまでこのかなふみの札を選んだということで、ひでん之には何か秘策があるのでは、と思わせるチョイスとなった。

今回も第3句と同様そこまで長い時間がかからずに4つの下の句が出揃った。特徴としては、猫とアイドル達の関わり方の予想がつけづらい、という点だ。9りのしきフレは両方に猫の要素があるうえふたりの思考回路がどのように接続するかの予想が付きづらく、残りの3人においては逆にどのアイドルもそこまで強く猫と関わっていないためどこに猫が関わっていく間隙があるのかがよくわからない。午前2時も15分強過ぎて、いよいよ他人には見えない幻覚の道を各々見始めたとも言えるだろう。

幻覚をいかに繋ぎ止め、表現し、他者に納得させるか。丑三つ時を迎えて鈍くなってきた頭をフル回転させ、参加者たちは第4句のプレゼンを始める。

 

 

「まず、『フレデリカ、猫やめるよ』です」

9りがそう切り出して、私は思わずなるほど、と呟く。『フレデリカ、猫やめるよ』はその名の通りフレデリカのソロ曲の2曲目として制作された、黒猫フレデリカを主人公とした楽曲である。これの名前を出したということは、意味はどうあれ今回の「猫」はフレデリカということなのだろう。そしてその推測は、9りの次の言葉で肯定されることとなる。

「フレデリカは猫で、志希ちゃんのことをずっと見てるんですよ。で、志希ちゃんも家の前の塀のとこにいるフレちゃんを撫でてから出かけるのが習慣になってるんです」

比喩的な猫ではなく、本物の生物学上の猫になったフレデリカ。どうやら語る彼女の口ぶりからすれば、夢の中という訳でも志希の薬でなったという訳でもなく、このフレデリカは先天的に猫ということらしい。しかしフレデリカは人間として自由に生きる志希に憧れる。人間にではなく、志希に。そしてある日、なにかの形でその願いが叶うこととなる。些事はどうあれ人間の形を得たフレデリカは、志希に会いにいつもの塀の前に歩いていく。猫の時と何ら変わらない軽快な足取りで志希の家の前まで辿り着くと、ちょうど志希が玄関から出てくるところだった。しかしフレデリカは彼女に声を掛けない。塀の上を見遣って、寂しそうな顔をした志希を見たからだ。

ここで終わったとしても違和感のない展開だったが、9りはなおも続ける。言いたいことを全てメモに纏めてから話し始める、と語っていた彼女がそうするということは、この先にも彼女の中で大事ななにかがあるということだ。

フレデリカは夢から覚める。フレデリカは変わらず猫で、志希の家の塀の前にいた。玄関の扉が開いて、志希が夢の中とは違って少しだけ嬉しそうにフレデリカを撫でて、いってくるね、と歩いていく。その背中をフレデリカは追う。猫をやめることをやめるとして、それでもなお一ノ瀬志希という人間のことが知りたいから。

やがて事務所に辿り着いたフレデリカは、そこで志希に気付かれる。志希に抱え上げられて自分の家の前にいる可愛い猫なんだ、とアイドル達に紹介されたその猫は、少し誇らしげににゃあと鳴いた。

前述した通り、一ノ瀬志希宮本フレデリカはどちらも猫のようなアイドルだ。前川みくを除けば真っ先に出てくるアイドルとして挙げてもいいだろう。そのうえで、『フレデリカ、猫やめるよ』という曲のタイトルから物語を構築するのであれば、[アイロニカル・エトランゼ]のイメージと合わせて猫のフレデリカと人間の志希、という組み合わせも、言ってしまえば発想そのものはそこまで難しいものではない。しかし、9りはそこからまた絶妙に外してみせた。猫をやめてしまったことですれ違ってしまった悲しい物語ではなく、それを投げ捨ててもうひとつぶんだけ物語を展開する。ベタを知り尽くしあえて踏襲したうえで、それにプラスワンをする9り。玄人の技と言わざるを得ないだろう。

 

次にプレゼンが行われるのはシズクのりんののである。彼もまた、前提知識の共有を手短に済ませてから語りだした。

「まず、乃々はたくみんと猫カフェに行ったことがあるんですよ。それで今度は凛を誘って猫カフェに、ってことになったんですね」

猫カフェの出典はデレぽ、2018年の12月の投稿。その時はどちらかと言えば拓海にフォーカスが当てられたような扱われ方だったが、今回は乃々を主役に物語が進む。猫カフェを訪れたふたりは、当然ではあるが猫と戯れることになる。幸せそうに猫を抱いて微笑む乃々や、少し戸惑ったように触れる凛を見て、お互いに不思議な感覚を抱くとシズクは言った。

「凛ちゃんはオオカミで、乃々はリスなわけじゃないですか。でも、今ふたりは猫とふれ合って、猫の仲間というか、猫を通してお互いを見ているわけです」

乃々は[困惑の小リス]、凛は[シルバースピリット]でそれぞれリスとオオカミをモチーフにした衣装を着用している。つまりこれらのイメージは、彼女たちのプロデューサーも承知しているほどの強いイメージであることは容易に想像がつく。しかし、オフの彼女たちがふたりで出かけふれ合っているのは、そのどちらのイメージにもやや似合わない猫。普段とは違う一面や感情の動きを猫を通して垣間見ながら、アイドル達の午後は過ぎていく。

シズクの妄想はかなりコンパクトに纏まった、それでいてかなりトリッキーなものに仕上がった。シズクはいわば、違和感を違和感としてそのまま提供したのだ。渋谷凛と森久保乃々という、猫と関わった実績はなくはないとしても直接猫と結びつけるにはやや違和感を覚えるようなふたりのアイドルを出し、その違和感を覚えるからこそ「別の一面を見たような」感じをお互いに感じさせる。もちろん荒唐無稽にただ猫との関わりがないアイドルという理由で選べば、ともすればキャラ崩壊の誹りを免れえないこととなっただろう。猫カフェに行ってのんびりとした時間を過ごしそうなイメージがぎりぎりあり、なおかつ相手と長い時間そのようにして一緒に過ごすことが考え得るような愛の深そうなカップリング。シズクのカップリング選択の嗅覚が光る一作となった。

 

「まあお察しの通り、全然こしあん分からないので、まあ各々適当に聞いててください」

主催の第一声は言い訳であった。数度某氏に頼まれてこしあんのネタ出しを行ったとはいえ、いまだ輿水幸子双葉杏のパーソナリティを掴みきれない主催。無事に辿り着くことすら怪しい航海が始まっていた。

「とりあえず、輿水幸子さんは双葉杏さんをどうにかこうにか連れ出して一緒に買い物に行くことに成功した、というところからね」

自分でも苦笑しながら主催は続ける。ふたりで道を歩いていると、路地裏の少し入った先に1匹の野良猫を見つける。幸子は小走りで猫に近付いて、杏はその後ろを気だるげに歩いて近寄る。野良猫は人馴れしているのか幸子を目の前にしても逃げることも抵抗することもしない。

「で、幸子ちゃんが杏にスマホを渡して、SNS用の写真を撮ってください、って言うんですよ」

下手に路地裏の様子を写すと特定とかされそうだけど、などと言って撮影を渋る杏に、ボクと猫をアップにして写せば問題ないでしょう、と反論する幸子。少しの議論の末、杏はスマホを構える。大通りの喧騒を尻目に響いたシャッター音のあと、杏は幸子の方のスマホを返す。

「まあそこにはドアップになった猫しか写ってないんですけど」

参加者たちから案の定、というような笑いが漏れる。幸子は当然猛抗議するが、先程言った特定性の問題や幸子のSNSらしさの問題、フォーカスの問題などを杏に流れるように指摘され妥協せざるを得なくなる。少し頬を膨らませて、幸子は今日一日杏を容赦なく買い物に連れ回すことを改めて宣言する。

「――で、大通りに戻っていく幸子の後ろで、杏が自分のスマホで取った幸子のアップの写真をこっそり確認する、みたいな、そういう感じで」

第3句と同じく、主催の妄想は以上です、の声と共に終わりを迎えた。

半ば不純な動機によって選択されたこしあんだが、一課で最も詳しい人間はこの場にはいない。しかし読み手の姪谷も、彼と関わっていくうえで多くのこしあんに触れてきたことは疑いようのない事実である。この妄想が輿水幸子双葉杏らしい作品であったかの審判は、次の妄想の後に下される。

 

「えーっと、皆さん『焼きそばハロウィン』というユニット……? についてはご存じでしょうか」

本日2回目の最終プレゼンとなったひでん之が最初に確認したのは、あるユニットについてだった。

焼きそばハロウィン、というのは2018年のデレマスとローソンのコラボに起用された一ノ瀬志希鷺沢文香・城ケ崎美嘉の3人をユニットとして見た場合の非公式呼称である。この3人はそもそもが2014年のガチャからたびたび共演があり、アニメでもProject:Krone候補として集められたアイドル達である。ローソンコラボを切っ掛けにこの3人の組み合わせが広く知られることとなり、とある劇場5コマで焼きそばの匂いに3人ともなぜか釣られていたことと、ローソンコラボのそれぞれの衣装がハロウィンをイメージしたものであったことからこの仮称がつけられ、なかなかに浸透しているらしい。ひでん之の妄想は、そんな彼女たちがハロウィンのおよそひと月弱前にコラボに使う写真等の撮影を終えた後、本来衣装を着ることもないはずのハロウィン直前から始まった。

美嘉が事務所に入ってくると、そこには何故かハロウィン衣装の文香と志希がいた。志希に聞いても埒が明かないため文香にその理由を聞けば、どうやらプロデューサーとちひろさんに今年のハロウィン衣装を着て事務所内でのハロウィンの盛り上げ係を頼まれた、ということらしかった。ウィッチ姿の志希に自分の悪魔モチーフの衣装を手渡され、どこで着替えるか美嘉が悩んでいたとき。

「志希ちゃんが、急に文香さんの首の、チョーカーのところに南京錠みたいなのをがしゃっとつけるんですよ。そしたら、文香さんの声が全部猫語の、『にゃあ』とかとしか聞こえなくなるんですね」

ひでん之は説明する。文香のローソンコラボでの衣装は黒猫をモチーフとしたライカンスロープ*2なものであり、志希はそれに便乗して面白半分にこの装置を作ったのであろうということを。

照れと困惑が入り混じったような表情をしてにゃあにゃあと鳴く文香を志希は自分のスマホで撮影し、メッセージアプリで誰かに向けて送信する。数分も経たないうちに事務所の扉が勢いよく開いて、現れたのは果たして速水奏であった。どういうことかしら、と物凄い勢いで志希を問い詰める奏に、志希は見た通りこういうことだよ、と奏の顔をを鳴き続けている文香の方へ向けさせる。自分の方を見てにゃあ、とまた一声鳴いた文香に怯んだ奏の隙を見逃さず、志希は鍵のような何かを押し付けて風のように事務所を去っていった。

めくるめく状況の変化に取り残された美嘉に、溜息とともに状況の説明を求める奏。美嘉の見たままの状況――急に志希が喉に装置を取り付けてそれ以降文香が猫語になってしまったことを伝えられ、奏の溜息は深くなる。これは私がどうにかするから美嘉は志希を捕まえてきて、と美嘉に依頼をして、奏は衣装も言葉も猫になってしまった文香とふたりきりで向きなおり――

ひでん之の語る妄想に夢中になっていた参加者たちだったが、その世界を切り裂いたのはひとつの音だった。

ちん、と卓上ベルの音がボイスチャットに鳴り響いて、暫くの沈黙の後にボイスチャットが爆笑の渦に引き込まれる。実は第3句の終了時点で、夜も更けてきたため以降の作品は一定時間が過ぎると卓上ベルが鳴らされる、というルールが追加されていたのだ。その時は半ば冗談のような取り決めであったが、主催は本当にそれを実行したのだ*3。これによってひでん之は、この場で妄想を畳むことを余儀なくされる。

「まあどうせこっから全然広がらないんで」

笑いながらそう言ったひでん之は、早回しで妄想を展開し、また畳んでいく。

奏は文香の様子を見て鍵を使う決心がなかなかつかず、延々と悩んでようやく文香の喉元に鍵を差し出し、南京錠を開錠しようとする。そしてその瞬間、文香の声が奏の耳を打つ。

「――『かにゃでさん』、って、感じで、いや長くなって申し訳ないです本当」

ひでん之曰く、志希の作った装置は基本的には装着者が何か発声するのに合わせて猫の鳴き声を流すだけの簡易なもので、声を張らない文香は自分の声がかき消されていただけだった。しかし「奏さん」だけは何らかの方法で「かにゃでさん」になるようにされていたのだ、と。

こうして、途中に横槍は入ったもののひでん之の妄想は終わりを告げた。ローソンコラボの猫の衣装、というすぐには思いつかないような部分から猫要素を引っ張ってきたうえでさらに猫要素を被せ、自分の専門である一ノ瀬志希も自然にそこに絡ませて動かす。非常に練られた物語構成ではあったが、いかんせんルールに抵触してしまったのが逆風となり得る要素であった。しかし描写の精度、平たく言ったところの「本人らしさ」は依然高いクオリティを保っており、これが丑三つ時を迎えてもなお衰えることのないひでん之の頭脳のタフさを物語っている。

 

姪谷は結構な時間を優勝者の決定に費やし、しかし最後には答えを出した。

「えーっと、今回の優勝はシズクさんで」

 深夜とはいえ惜しみない拍手がシズクに送られる。姪谷はその勝因を、綺麗だったからと表現した。曇りのない長閑な日常のワンシーンを描き切ったことが姪谷の心に刺さった、ということだろう。振り返ればこのシズクの下の句は、今までの彼の下の句の各所に散りばめられていたシズクらしさのない、言い方を変えればシズクらしさの薄い下の句だ、ともとれるかもしれない。しかし、それは悪いことでは一切なく、また彼らしさを捨てたということでもない。広い文やシーンの選択肢の中から、今回は単純にシズクらしさを出さないという選択肢を取っただけである。逆に言えば、このような形式の下の句で優勝をもぎ取ったということは、シズクの幅の広さを示したということだと言えるのだ。

 

第4句も一部の人間を除いて第3句からの流れを引き継ぎ、自分の好きなカップリングを指定しそれをどれだけ上手く、短く纏めるか、という勝負になったように思える。また徐々に参加者たちが短い中で山を作ることを試行錯誤し始めた、というようなことが見て取れるような痕跡もあり、夜が更けていくとともに妄想の物語性が更に高まっていくことも期待ができた。3時を目前に、参加者たちは各々どのような進化を遂げるのか。

姪谷と同じように、シズクも持ち込みの上の句があると言った。他の参加者とともに何度か上の句の単語を推敲し、その上の句を発表する。

 

第5句 「外套」

「えーっと、『外套』、マントとかコートとかの上着、って範囲でお願いします」

最初は『コート』だったその上の句がテニスコートなどの可能性を指摘され『外套』に落ち着いてから暫くは沈思黙考の時間が続く。外行きの上着、という指定範囲には「コート」以外にも「マント」などは含まれるだろう(それで妄想しようとする人間がいるかは難しいところかもしれないが)。仮に外套の上の句をコートだと限定するのであれば、舞台は十中八九秋から冬になるだろう。その周辺の季節に合ったカップリングが自分の中にあるか、という部分も問題となる。

暫しの沈黙を挟んだ後、今度はひでん之が最初に動く。

「えー…… これ、『りんちょこ』で、行きます」

 放課後クライマックスガールズの青色担当、大和撫子を絵に描いたような女性である杜野凛世と桃色担当、ユニット内随一の普通の女子高生*4園田智代子のカップリング。[をとめ大学]で少女漫画に関連したエピソードを通して凛世の巨大感情が露呈したことにより一躍脚光を浴びたふたりであるが、未だ作品そのものの数は少ない。これはもうこれしかないです、と言いながら下の句を取ったひでん之の脳裏には、いったいどんな欠片が浮かんでいるのか。

多少悩んだように最初の下の句を取ったひでん之であったが、次の取り手も悩みながら自分の下の句を手にした。

「えー、エアプだけどやるかー…… 『あさふゆ』」

あさふゆ――シャニマスの最新追加ユニットであるStraylightのメンバー、芹沢あさひと黛冬優子のカップリングを『取った』のは、主催であった。

中学2年生とは思えないほどの奔放さや興味が湧いた事項への熱しやすさ・冷めやすさ、そしてダンスの才能と集中力に溢れた*5芹沢あさひと、アイドルとしての意識が高くどのようにすればより高みに登れるかという研究に余念がない*6黛冬優子。正反対のタイプであるふたりは、最近開催されたStraylight初主演のイベントによって大ムーヴメントを引き起こしたカップリングである。しかし、取ったのは主催である。「エアプ」と言った通り、主催はシャニマスのアカウントすら持っていないのだ。一課で何人かがやっているシャニマス配信と、Twitterで流れてくるファンアートの情報から、いったいどれだけのあさふゆが作れるのか。主催は暗雲の中を進んでいく。

 それからまた少しの間をおいて、次に下の句を宣言したのは姪谷だった。

「んー…… 『ゆいちな』で」

この上の句では初となるデレマスのカップリング、大槻唯と相川千夏のゆいちな。サクラブロッサムというデレマス初の公式言及ユニットを結成したふたりであり、いわゆるモバマスデレステを問わず、ボイス実装アイドルと未実装アイドルという垣根を越えて定期的に交流の様子が描かれるふたりでもある*7。出会いの経緯からして文学性が高く根強いファンも多いこのカップリングを、マイナーを捌いてきた姪谷はどう構築していくのか。期待がかかる。

そして最後に残ったのは9りであったが、彼女もまた姪谷に続くように下の句を取る。

「『しゅがみん』、で」

続いたその下の句に、また少しどよめきが起こった。

佐藤心安部菜々カップリングであるしゅがみんは、ふたりの強いキャラクターと後がない年齢という共通点からコメディ色を強くするかシリアス色を強くするかの匙加減が非常に難しい繊細なカップリングである。コメディが強すぎれば「カップリング」よりも「ユニット」という意味合いが強くなってしまうし、シリアス色が強すぎればそれもまた深夜帯であるこの競技においては評価が難しくなるだろう。しかもその調整を即興でやらなければならないのだ。9りの高い腕前は既に証明されているとはいえ、彼女がどのようにふたりを描き、また上の句を回収するのか全く予想ができなくなった。

第5句は、スムーズに下の句が揃った前2句と比べて多少揃うまでに時間を要した。当然今は夏であり冬の物語を考えづらいという季節の問題もあっただろうが、それ以上に彼らを悩ませたのはある種のプレッシャーなのかもしれない。今までに4句を経験し、周囲も非常にレベルの高い句を纏めている。いかに自分も他の参加者に負けない句を作るか、という部分を無意識に考えていた可能性は否めないだろう。

最初にブレイクスルーを掴み、蛮族戦法から青銅器を掴み取るのは誰か。本格的に進化が問われるなか、ひでん之の事前情報の共有から第5句は始まった。

 

「まずですね、凛世さんは寮住みなんですけど、ちょこ先輩は事務所から家が一番遠いんですよ」

そう切り出したひでん之。放課後クライマックスガールズは2人が寮生活、3人が実家暮らしであり、また実家暮らしの3人の中では智代子の家が最も遠いということは公式で度々言及されている。そのうえでひでん之はそのふたりに冬の屋外、事務所の最寄り駅の前で待ち合わせをさせる。

「で、凛世さんはちょっと人込みを避けて駅が見える方の壁に寄り掛かって、自分の指先にはーって息を吐きかけながら、待ってるんですよ」

暫くそのまま凛世は駅の出口を眺めていたが、そのうち智代子が息を切らせて出口から出てきて、凛世は手を後ろに回して壁から数歩離れる。ごめん待ったよね、という言葉にそんなことはありません、と返す、それこそ少女漫画趣味という共通点を持ったふたりに相応しい会話。さりげなく後ろに回された凛世の手を掴んで、智代子はその赤くかじかんだ指先を見る。やっぱり、と呟いて、智代子は自分の着てきたコートを少しばつの悪そうにしている凛世の肩にかける。

「『私、走ってきたから今あったかいんだよね』ってちょこ先輩が言って、凛世さんは智代子さん、って呟いて、まっすぐにちょこ先輩の方を見るんですよ」

しかし智代子はその漏れ出てしまったような凛世の感情に気付くことはなく、さらにともすれば凛世の地雷を踏みかねない言葉を口にする。プロデューサーに手袋貸してもらったことがあるからそのおすそ分けしてあげるよ、と智代子は笑ったのだ。その悪気の一切感じられない笑顔に、凛世は一瞬だけ眉を顰める。しかしやはり智代子はその感情の機微に気付くことはなく、手を繋いで一緒に事務所へと向かう。プロデューサーの手袋が嵌った手を、凛世と繋いで。

ひでん之のプレゼンが終わると同時になるほど、と声が上がる。この語り口では凛世が眉を顰めた理由はそれ単体ではわからない。プロデューサーに対して好意を抱いていることが公式で明確に表現されている凛世では、「プロデューサーの手袋を智代子が貸してもらっていたこと」に対しての表情の可能性も、「智代子が自分と手を繋ぐ理由にプロデューサーを出したこと」に対しての表情の可能性もあるからである。しかしその前の智代子さん、というたった一言の呟きから凛世の感情が智代子に向けられたものである可能性が高いことが読み取れるし、そもそもこの感情の答えを本人すら分かっていないという可能性も存在する。その文脈による方向性を定めつつ、最後まで詰め切らせず曖昧さを残すという描写が、見事に杜野凛世というキャラクターと合致していた。

また今回のひでん之のプレゼンはかなり詳細な手指の動きや表情の変化を口頭で説明していたのも印象に残った。今までの彼は外見よりも心情の機微などの内面の描写や話の流れに重点を置いて語ることが多かったが、今回は違った。「第5句のちょこりんぜは単純な映像の紹介だった」と本人は後に語っていたが、ゲームを始める遙か以前から『画像』でネタを見られない、と言っていたひでん之がついにそのコツを掴んだ、という事実はかなり大きなものであることは間違いないだろう。

 

次は主催の番であったが、主催は話すのを渋っていた。当然と言えば当然である。しかしいつまでもそうしているわけにはいかない。本当に話さなきゃ駄目ですか、という質問が一蹴されたところでようやく主催は話し始めた。

「相当勝手なイメージなんですけど、黛冬優子さんは冬は大きめのダッフルコートを着てそう、ってのがまずありましてね」

それだけ前置きをして主催は妄想を展開しはじめる。ある冬の休日の早朝、マスク越しに白い息を吐き出しながら冬優子が事務所ビルを訪れると、ビルの前にやけに丸っこくなったあさひが立っているのを認める。ため息をつきながらどうしたのか訊ねると、あさひは親に自分じゃ着ないからと上着を多めに着せられ、事務所に着いてからプロデューサーにも待機時間に外で遊ぶならと着せられ、結果この状態になったと答えた。冬優子はもう一度溜息をついて、危ないからと言って過剰に着せられた上着を脱がせ、それから自分の羽織っていたあさひにはかなり大きいダッフルコートを着せる。

どうして自己管理もできないアイドルと組まなきゃいけないのかしら、と悪態をつく冬優子*8を前にしてもあさひは無邪気に喜び、冬優子はそれを見てさらに溜息を深める。

「……それで、最後に何気なくあさひちゃんがダッフルコートの匂いを嗅いでめちゃくちゃ怒られる、ってところで終わりです」

参加者たちの間に多少の笑いが起こって、主催は以上です、と妄想を締めた。

匂い嗅ぐのはやりそう、という声もあり、参加者から極端な解釈違いや悪評が出ることはなかったが、結果として直前のひでん之の妄想と「自分のコートを着せてあげる」という部分が被っているところに関しては読み手の好み次第とはいえ難しい部分であるように感じた。ファンアートとタイムラインの知識で建てた砂上の楼閣は、読み手の目にどう映るのか。

 

「まず言いたいのは、ちなったんコート似合うよね、ってことなんですよね」

姪谷は開口一番にそう言って小さく笑った。どうやら数あるカップリングの中でゆいちなを選び取った最大の理由はそこだったらしく、姪谷はその後を悩んでいたようだった。しかし言葉少なでありながらも、姪谷の中にある確たるイメージを彼は口にする。

冬の近い秋、当然のように一緒にいるふたり。唯は千夏に対して、コートを選びに行かないかと誘う。千夏が唯の突然の提案にやや意地悪をするようにどのお店に行くのかと訊ねると、唯は少し考えてイギリスやフランスの名前を出す。流石にそれは無理よ、と千夏が笑うと、唯もまた笑い返して手元のファッション誌を千夏の前に差し出して、じゃあココとかどう、と本当の相談を始めるのである。

そういう風景が見たいだけなんですよ、と語った姪谷に参加者たちは賛同し、次々とそれに連なる風景を口にしていく。一緒に買い物に行った店のショーウィンドウを撮影してSNSにアップする唯や、暫くしてそのショーウィンドウに映っていたコートを着ていることが確認される千夏、数週間後にそれらの情報を照らし合わせてようやく「あの時の唯のショッピングは千夏の服を見に行っていたのか」と理解する彼女たちのファンたち。最後に関してはやや考案者本人の願望が混ざっている気がしなくもないが、しかしそれは彼の今回の妄想の拡張性の高さを如実に表しているとも言える。完全に作者の中で完結する物語も勿論いいものであるが、聞き手側に想像させる物語にもひとつの良さがある。カップリング厨はふたりを見守る傍観者たれ、とはよく言ったものだが、今回の姪谷のプレゼンには他人を傍観者たらしめる何かがあった、ということなのだろう。核となる姪谷の妄想そのものが実際にふたりがしていてもおかしくのないほどイメージに沿ったものだったからこそ、と私は考える。

 

「まず冬で、しゅがみんのふたりで外で出かけてる」

9りは第1句から変わらず、平坦気味な口調で自分のプレゼンを読み上げはじめた。

「で、菜々さんは寒がりなんでコートを羽織ってるんですけど、しゅがはさんは寒いの大丈夫なんで、コート羽織ってこなかったんです」

昼からふたりで出かけているのか、それでも寒すぎる・熱すぎるなどといった不便はなくふたりの外出は進んでいく。しかし別れしな、電車で帰る菜々を徒歩で帰る心が見送る段になって、菜々は心にコートを貸そうとする。風邪をひくといけないから、とコートを手渡そうとする菜々と、大丈夫だし返すのが面倒になると問題だから、とそれを断ろうとする心、最終的に勝ったのは菜々だった。心の手に自分のコートを押し付けるように渡して、逃げるように改札口に走っていく菜々。心はその背中を呆然と見送って、やや違和感をおぼえながらもコートを羽織って歩き出す。そして何気なく心がコートのポケットに手を突っ込むと、紙の擦れる音がした。何事かと心がそれをポケットから取り出してみると、どうやらそれは手紙のようだった。

この時点で既に他の参加者たちはこの後の展開を察したのか、感嘆の声や呻き声がそこここから聞こえはじめる。しかし9りはそれを気にしていないかのように、テンポを変えることなく続けていく。

心が帰宅しその手紙を読んでみれば、果たしてそれは自分宛のラブレターであった。つまり菜々が心に半ば無理矢理とも言える形でコートを手渡してきたのは、これを渡したかったからだったのだ。当然心は驚く。そのような手紙を渡されたことにも、心が気付かなければそのまま無視されて手元に帰ってきてしまいかねない方法を菜々が選んだことにも。そして心は手紙を裏返し、愛しの「パイセン」への返事を認める。書き上げたそれをどうするか一瞬だけ迷った後、心は手紙の元あった場所――コートのポケットにそれを返した。

誰からともなく、拍手をしていた。9りの妄想は完璧な空気感を伴っていた。いわば「ギリギリの年齢」である彼女たちがおふざけなどではなく本気でやりそうであり、またそれが許容されるギリギリの青春、というラインを9りは完璧に読み切っていたのだ。また、ひでん之や主催と同様にこの話は「コートを着せてあげる」話でありながらも、それだけでコートの出番を終わらせることなくコートを「手紙を運ぶ手段」としても用いることでより上の句と物語そのものを密接に関わらせている。即興とは思えない完成度を誇る、非常にレベルの高い一句だと言える。

 

「いやぁ、ここは9りさんのしゅがみんで、優勝は」

シズクの決断は素早く、またそれに異論を唱えるものも当然の如く存在しなかった。改めて9りに惜しみのない拍手が贈られる。

9りの物語は前述の通り物語そのもののクオリティも高かったうえに、物語の構造も高い評価を得た。菜々が逃げるように去ったところで聞き手側に「菜々はコートを渡すことが目的だった、なら渡すことによって何があるのだろう」と想像をさせ、手紙が出てくることでその疑問を解決させながら物語としてひとつの山を作る。さらにそこで終わらせるわけではなく心に返事を書かせ、それをコートのポケットに入れたところで物語を畳む。あくまでも上の句である「コート」に主軸を置いた、ある種この競技の基本に帰ったようなその下の句は、深夜も3時半を前にした参加者たちの心を大きく揺さぶったのだ。

 

振り返れば第5句は挑戦の句であった、と捉えることもできた。ひでん之は『画像』を見てそれを自分の妄想として語ることに、姪谷は最低限の表現と断片的なワンシーンから実存性を描き出すことに挑戦していった。その中で9りが優勝をもぎ取ったというのは、決して彼女が研鑽をせず物理で殴り倒したということではなく、今までと同じ武器をそのままアップグレードさせたということに他ならない。自分の持ち味を生かした武器をそのまま強化して使えるのであればその方が圧倒的に手に馴染む。9りの成長性がこの句を制した、と言っても過言ではないだろう。

参加者たちの眠気も限界点に達しようとしていた。全員が1回ずつ読み手をやったことだし次で終わりにしよう、という決定が為された後、2回目の読み手となった9りは再び用意された診断を回す。その結果を見て少し困惑したような声を上げたものの、最後の上の句を読み上げた。

 

第6句 「てのひら」

「え、大丈夫かなこれ、『てのひら』です」

最後の上の句は『てのひら』。身体の部位でカップリングの妄想をするのであればオーソドックスな部類に入るであろう部分である。人間の中でも発達した身体の部分のひとつでもあり、その動きや文学的表現は多岐にわたる。それ故に、てのひらをどうするか、という選択によって、それに似合うカップリングもまた変わってくる。書きたいものを先に決め上の句を合わせる蛮族戦法も、上の句の活用法から考えるトリッキーな戦法もとりやすいという、最後に相応しい広さと深さを持った上の句であった。しかしそれ故、停滞した時間が取り手たちの間に流れる。

9りが「参加できるならこれこそ小宮果穂さんだった」とこぼした。それに対して姪谷が「いや、これこそよしのんなんですけどね」と返し、行きます、と声をあげた。

「えーっと、また呼び方が分からなくて申し訳ないんですけど…… 『藤居朋×道明寺歌鈴』ちゃんで」

うわっ、と参加者たちが声をあげ、頭を抱える。それも当然の話、藤居朋は占いを趣味としているアイドル。自分で様々な占いが可能であり、そのひとつに手相占いも含まれているのだ。『てのひら』を上の句とするのであればこれほどにない恰好のアイドルである。しかし、参加者たちには藤居朋と誰か、というカップリングの発想がなかったため、その恰好のアイドルが見えていなかった。そのうえでさらに姪谷が選んだ相手はミス・フォーチュン・テリングでの共演経験もあり、半ば超常現象的なドジに巻き込まれる不運なアイドルである道明寺歌鈴。おそらく行われる「藤居朋が手相を見る」という行為の相手としては十分すぎる理由が既にそこにあった。マイナーなカップリングでも上手く捌くことのできる姪谷の面目躍如とも言える、素晴らしいチョイスだった。

姪谷の下の句にひととおり呻いた取り手たちの中で、次に動いたのはシズクだった。その選択に、またどよめきが上がる。

「はい、じゃあ『あんきら』で、お願いします」

双葉杏諸星きらり。pixivのデレマス百合カップリングで最も登録作品の多い、伝統のあるカップリング。同い年で一日違いの誕生日、低身長と高身長、働かないアイドルと精いっぱい仕事を楽しむアイドル。しかしその根底にあるものは似通っており、そこが琴線に触れたプロデューサーも多いという。かなり対応できるシチュエーションに幅のあるアイドルたちであり、シズクも以前「元少年兵の双葉杏」を考えるなどをしていた。そんなシズクがあんきらでどのような『てのひら』を描くのか。

そして次に下の句を取ったのはひでん之。彼も戸惑ったように、しかししっかりとその名を告げる。

「え、えっと、これは『じゅりなつ』、です」

西城樹里と有栖川夏葉、またも放課後クライマックスガールズ内のカップリング。[意地っ張りサンセット]のカードコミュに代表されるように、一見ケンカップルのように見えてその実シャニマス内の時間が経過していくにつれてそのような面というよりかは実力を認め合いお互いを尊重するという面が強くなっていく、時間による関係性の変化が非常に明瞭なふたりである。典型的な口の悪い不良少女系ツンデレであるところの樹里とストイックでトレーニングに余念がないが少女のような無邪気さをも内包している夏葉、放課後クライマックスガールズの中でもかなり人気のあるカップリングをひでん之は選択した。なぜかひでん之自身が挙動不審なのは置いておいて、優しさというよりも情熱であるじゅりなつと上の句がどう繋がるのか想像を膨らませられる下の句である。

最後に取り残されたのは主催。暫く唸って、苦々しそうな声色で最初から考えてはいたらしい下の句を挙げる。

「行ける気がしないんだよなぁー…… 『みおあい』で、はい」

参加者たちからまた小さく納得の声があがった、ような気がした。みおあい――本田未央高森藍子カップリングは、青春少女漫画のような甘酸っぱさに適性があるカップリングである。「友情番長」などと形容されることもあるほど多くの友達を作り、しかしこと恋愛となると話をするのも恥ずかしがったりとポンコツな面を覗かせる未央と、森ガールをイメージしたと思わせるようなおっとりふんわりさとパッション属性に相応しい積極性を併せ持つ藍子。無意識に藍子をリードするような未央も、奥手になってしまった未央を引き寄せる藍子も描けるこのカップリングにおいて、「手を繋ぐ」という行為にフォーカスを当てるのはいわゆるベタな当て方のひとつである。また藍子のソロ曲である『お散歩カメラ』には「手のひらの上にちょこんと乗る幸せを探しに行こう」という歌詞もあるため、その点でもこのカップリングには馴染むと言えるだろう。逆に苦しむ理由の無いはずの下の句で主催が苦しんでいるのは、その実力の無さ故か。

いよいよ最後の句となり、いっそう取り手たちに気合の入った第6句。下の句が出揃い、参加者たちは最後の殴り合いを始める。ある者は自分の手に馴染む武器を手に、またある者は上の句に合った急所をつくことのできる武器を手に。自分の持てる技術を駆使して、丑三つ時すらとうに終わりを迎えた夜に最後に立っているのは誰か。

 

「まあ、朋ちゃんが歌鈴ちゃんの手相を見てあげながら、とりとめのない話をするんですよ」

姪谷の第6句は、そんな語りから始まった。姪谷は直前の自身の句と同じように、言葉は少ないもののポイントを押さえて話をしていく。

ドジ体質から定期的に占いをしてもらう歌鈴と、手相を見る朋。朋の指先が歌鈴の手のひらをなぞるたびに小さく肩を竦めてくすぐったがる歌鈴を見て何がしかの悪戯心が惹起させられたのか、それとも自分に少しでもチャンスがあるようにという打算的な考えが鎌首をもたげたのか。朋は歌鈴の恋愛運について、少しだけ嘘を交えて話していく。例えばそれは歌鈴の恋愛運がやや好調であるといったようなものであったり、いわゆる運命の人というものが案外近くにいるだろうといった類いのものであったり。そしてそれに対して、歌鈴ははにかんで他の誰かの話をするのだ。一切の他意の無いその話を聞いて、朋はそれを狡い自分に下った天罰のように感じどことなく暗い面持ちのまま、顔を上げずに占いを続ける――

姪谷が語り終わったボイスチャットに溜息が満ちる。物語としての落とし方もさることながら、「天罰」という言葉のチョイスが参加者たちの心に深く刻み込まれたようだった。程度や向き合い方の差はあれど方向性として不運なアイドルである藤居朋が、それでも計画が上手くいかなかった「アンラッキー」ではなく「天罰」と思ったという事実が、参加者たちの心に突き刺さる。

第6句の初手として読み上げられた姪谷の句は、「マイナーなカップリングであっても捉えきり捌く」という前半の姪谷の句に見られた特徴と、「要点のみを抑え残りを想像させるような広がりを持たせる」という後半の姪谷の句に見られた特徴がミックスされた、まさに進化の一句であった。一課課長としての貫禄と威厳を見せつけたものとなったであろう。

 

「先に言っておくと、今回の私の話はめちゃくちゃ短いんで」

そう言った2番手のシズクの妄想は、本当に「小さい物語」だった。示されたシーンはたった2つ、言葉にしてしまえば30秒と保たない物語。しかし、その「小ささ」こそがシズクの用意した武器だった。

「きらりを助けるために傷付けた杏の手のひらを見て、杏の強さを知るきらり、っていうそれだけで、杏もきらりを包み込んで守ってあげられないから手のひらでしか守れない、っていう」

9りがまさに刺された*9ような呻き声をあげる。他の参加者も感嘆の声をあげた。

シズクの物語は今までのものと比べると極端に短い。ストーリーの規模としても完全に外界との関わりをシャットアウトしたふたりの世界での話であり、ふたりの間での対話すら存在しないという意味では姪谷の句よりも小さい世界の話と言えるだろう。しかし、この句はそれでいいのだ。何故なら、双葉杏の身体は小さいから。双葉杏の手のひらは小さいから。双葉杏がどれだけ諸星きらりを包み込むような愛と覚悟を持っていたとしても彼女の身体は小さく、そして手を握りこんでしまえば傷付いた手のひらを隠すことなど造作もないほど彼女の手のひらは小さい。その「小ささ」を表現することに長大な文章を使ってもよいのだが、シズクはあえてそれを放棄した。言わば杏の手のひらを無理に開かせることをしなかったのだ。そして、そのSSであればある種説明不足だと詰られても仕方のないそれは、この場で繰り広げられるのがSSではなく妄想だからこそ許される特権的行為であった。やや殺伐としたシズクの世界観とその中で無言かつ一瞬だけの感情の交錯というシチュエーション、双葉杏諸星きらりというアイドルのチョイス。すべてが完全に噛み合ったうえでの今までで最も小さい物語は、参加者たちに大きな爪痕を残したに違いない。

 

敢えて誤解を恐れず先に言うのであれば、ひでん之の第6句は妄想ではなかった・・・・・・・・

「――放課後クライマックスガールズのライブイベントで、プールみたいなとこで夏葉さんがソロステージをやっていて、樹里さんがそれを見てたんですよ」

それは前提知識の共有ですらなく、ひでん之の口調も前提の押し付けという感じのものではなかった。強いて表現するのであれば、記憶の中の光景を確認しながら思い出しているような口調。

「夏葉さんの手指の動きや衣装の翻りとか、そういうスポットライトの中の一挙手一投足で夏葉さんが世界中に『私は有栖川夏葉だ』っていうのを発信してるのを網膜に焼き付けながら、やっぱかっけーなって思ってたら、夏葉さんのソロ曲の最後のホルンの音が鳴って、それから一瞬だけ静かになってから聴きなれた樹里ちゃんのソロのイントロのドラムパターンが流れ出したんですね」

当然だが、現在アイドルマスターシャイニーカラーズにはソロ曲を持っているアイドルは1人たりとも存在しない。だがもはや、それを指摘する人間はこの場にいなかった。指摘することさえできなかった、の方が正しいだろう。何故ならその瞬間、筆者にはふたつの曲のアウトロとイントロが確かに聴こえたのだ。シャニマスに対する造詣が深くない筆者でさえそうなのだ、他の人間が指摘できる道理はないだろう。

「そのイントロで我に返った樹里ちゃんがステージに向かおうとして、そこにすごい楽しそうに歯を見せた夏葉さんが走って向かってくんですよ。で、夏葉さんがはけてから入るはずだったんですけど樹里ちゃんも走り出して、すれ違う瞬間にばしぃんっ、って思いっきりハイタッチをするんです。それから夏葉さんが舞台袖にはけてって、樹里さんがそのじんじんする手のひらをグッと握りしめて、『行くぜお前らぁ!』って拳を突き上げて、それで歌い始めるんですよ、はい」

ひでん之が語り終わったそこにあったのは、果たして沈黙であった。それは決してひでん之の句が参加者たちに受け入れられなかったということではなく、その句があまりにも真に迫るものだったがゆえの静寂だった。そして口を開いたのは読み手の9り。

「……いや、もう妄想じゃなくってただのライブレポじゃん」

読み手をしてそこまで言わしめる、まるで本当にあったことを語るような語り口。描写のこまやかな動きも相成って、参加者たちはそこにライブの幻を見た。ひでん之の見ていた幻覚を共有させられた。それはまさにこの競技のひとつの極点だ。

しつこいようではあるが、彼は『画像』で天啓を得て書き始めるような物書きではない。しかし今回この句に至って、ひでん之はその神髄を垣間見たように思える。強烈なワンシーンを手中に収め、それを表現の工夫によって受け取り手の脳内にも焼き付ける。それは作家たちの目指すひとつの目的地であり至高天。さながら『神曲』のダンテのように、彼はひとときであれどその至高天へと辿り着いたのかもしれない。

 

 (※第6句4枚目主催の『みおあい』について、自分で自分の拙すぎる妄想のレビューをするのがあまりにも地獄でとうとう耐えきれなかったため、この部分だけ第6句読み手の9り先生にご寄稿いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。なお、提出していただいた原文をそのままお送りします*10。)

    公園にお散歩にきていた未央さんと藍子さん。未央さんが飲み物を買いに行きます。

    藍子さんがかの有名な歌の歌詞「手のひらを太陽に すかしてみれば」と鼻歌を歌いながらこの歌詞の「太陽」に未央さんを見出して飲み物を買いに行っている未央さんに手を伸ばします。

    未央さんがそれに気づいて「真っ赤に流れる〜〜」と続いて歌う、という内容だったはずです。ざっくり言って。多分。間違ってたらごめんなさい。切腹します。

    これなんですけどね〜めちゃめちゃに暖かいんですよね。なんていうんだろう、空気感が好きです。優しくて柔らかくてあったかい。太陽でした(?)公園でいたらニコニコしちゃいそう。いそうってくらい存在がある。そういうことです。

    終わっちゃった、こんな短くてええんか?

 

 

最終句である第6句、その下の句のプレゼンが全て終了した。参加者たちは、それぞれ別の方向で自分の武器を進化させて最後の戦いに赴いていた。前半と後半のやや毛色の違う2つの妄想技法を融合させた姪谷、世界観に自分らしさを込めながらもメタ的な要素も含めて作品として仕上げたシズク、自分にはできないと言っていたものを克服し周囲を映像の世界に引き込んだひでん之。単純な優劣をつけ難いこの判定は、しかして9りの一言で決着を迎えた。

「え、すべてに金メダルをあげたい気分だ…… え、いいですかそれで」

ややあってボイスチャットに笑いがこぼれ、参加者たちも同意する。予定調和で陳腐な「おてて繋いでみんなでゴール」エンドと言ってしまえばそれまでだが、本当に第6句は全員の語り方から内容までが素晴らしく、参加者の誰も優劣をつけられないような状態に陥っていた。そのため、参加者たちも9りの提案に誰一人異を唱えることなく同意した。4時でもあったし。

9りはそれぞれに賞を決めた。カップリング選択の妙と「天罰」という言葉選びに優れていた姪谷の下の句には「発想一等賞」を。あまりにも少ない文章であまりにも多くの感情を予感させるような濃度の高かったシズクの下の句には「火力一等賞」を。誰もが実在を信じて疑わないほどの幻覚を描き出したひでん之の下の句には「現実一等賞」を。*11それらをすべて決め終わった後、9りは少し満足気にうん、と呟いた。

参加者たちは口々にねぎらいの言葉をかけ合い、自分のメモや主催のとっていたあらすじのメモ書きを見ながら感想戦を行う。感想戦とそれに付随した雑談は、日が完全に昇るまで行われた。

 

 

かくして、急遽開催が決定したカルタ大会は終了の運びとなった。

全体を通して振り返ると、やはり参加者は読み手の好みに沿ったものよりも自分の最大火力を出し切る方向に舵を取りやすいものと考えられる。そしてその中でいかに火力を通しやすくするために即興で様々な技芸を凝らし、ストーリーの山や谷を作るか。その瞬発力こそが勝負のカギを握っているのだろう。蛮族戦法であっても、ただ手に馴染む棍棒で殴っているだけではどうしようもないこともあるのだ。周囲の蛮族が成長していくのであればなおさら。

――しかし、参加者たちはまだ知らなかった。第2回のカルタ大会では、"近代兵器"を持った新たなる刺客が蛮族オタクの領域を襲うことを。 

 

 

 

おわりに

 

ということで第4句から第6句まででした。前回より文字数が長くなってるんですが、何故なんでしょうか。纏めるのが下手だからです。次回は別の人にもログを渡してあるのでその方が書いてくれると思います。

当日終わって朝5時ぐらいから書き始めて、現在は8月1日です。まる1か月かかりました。「このままではブログを書き終わる前に第2回カルタ会が開催されかねないため」じゃないだろもう第3回も終わって今週末には第4回が開催予定だよ。そこそこの人気がある企画かつ自分の筆が遅いことが何もかも悪い。文責も死んでたし。

ただ、実際非常に楽しい企画ではありますので、もしよろしければ同じジャンルのオタクたちで集まってやってみてください。楽しいですよ。深夜帯にやるとなおよし。そして終わったらみんなブログを書け。他人の書いた文章を読ませろ。自分の文章はもう見飽きたんだジョン。

 

ちなみにこの企画の名前は「限界カルタ」になりました。

 

レポート明けで死んでいる頭で書いていたら無軌道の極みになりそうだったのでこのあたりにします。これでようやく約束の3記事に辿り着いたので、もしかしなくてもこのブログが更新されることは未来永劫ないかもしれません。私には面白いブログを書けるような文章の才能がないので。才能って悲しい。みんなブログを書くんだ、ここにいる奴よりは上手く書けるから。

とりあえずまたなにか思いつきましたら。

*1:どれぐらい愛してやまないかといえば、自動でこしあんを検索するbotを作ったり、作品を作者含めて殆ど把握していたり、ことあるごとに一課のメンバーにこしあんを請求していたりする。ついた渾名がこしあん893。

*2:編者註:本人は『リカント的』と仰っていましたが、リカントでググってもDQの敵しか出てこなかったので表現を変更しています。また『ライカンスロープ』も本来人狼のみを指す言葉ではありますが、慣用的に他の獣に変化する獣人にも使われることを確認したうえで、雰囲気を重視してこの言葉を選択しております。殴らないでください。これが正しい注釈の使い方。

*3:主催曰く、「まさか速攻で本当に超えてくる人がいるとは思わなかった」。

*4:諸説あります。

*5:かなりボカして書いていることを察していただければ幸いです。

*6:鬼のようにボカして書いていることを察していただければ幸いです。こちらに関しては後で触れざるを得ないですが。

*7:pixiv大百科とかが最新の情報まではいかずともゆいちなという概念を知るのに便利なので読んだことのない方はぜひ読んでください。

*8:彼女は完全な他人に好かれるための可愛い「ふゆ」と、憎まれ口やぶっきらぼうにとられることもある感情と打算の「冬優子」のふたつの面を持つ。どちらが本当とかはないし、どちらも偽物の可能性すらある。直近のイベントでユニットの仲間には「冬優子」を見せた。

*9:前述の通り彼女は定期的にTwitterのフォロワーに向けて相手のツボをつくようなネタを放流し、やり返されて自分も限界になるという行為をしている。これを彼女は「刺しあい」と呼んでいる。

*10:以下のような文章が展開されるご本人曰く限界なブログ「髪洗いながら小洒落たブログ名考えてたらシャンプー2回やっちゃった」はこちら https://kyuri9ri.hatenablog.com/。ブログタイトルのセンスたるや。)

*11:ちなみに文責の下の句には「太陽一等賞」が贈られた。

よさみカルタを改造してプロデューサー達でやってみたら幻覚を見るオタクの宴になった・前

 

※今回の記事には主にアイドルマスターシンデレラガールズアイドルマスターシャイニーカラーズの百合二次創作要素が今までよりも多分に含まれています。苦手な方やよくわからない方はご注意ください。

 

(追記:後編を投稿しました。

よさみカルタを改造してプロデューサー達でやってみたら幻覚を見るオタクの宴になった・後 - このブログのどこからでも切れます

 

(諸々を飛ばしたい方は以下の目次をご活用ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前説

 

お疲れ様です。斬進です。最近インターネット上の知り合いに「理解できない、怖い」みたいなことを言われますが至って善良なる一般市民です。人権があるかは怪しいです。

今日はTwitterで流れてきた「よさみカルタ」を二次創作用に多少ルールを改造して深夜12時半から4時にかけて行った記録をブログに残しておきたいと思います。主催とはいえ一番文章力がない人間がログを書くのは間違っていると自分でも思いますが。結論から言うと早口限界オタクの幻覚のぶつけあいになりました。

参加メンバーは謎のデレマス・シャニマス二次創作プロデューサー集団、通称『一課』の面々です。わりと今でも何故ここに自分が所属しているかは謎ですが、面白い人達であることだけは確かです。姉にメンバー説明をしたら「弟よ、危ない人と関わりを持っちゃ駄目だって言ったでしょ」と言われました。否定はできません。

また今回は某人からの要望によりやや物語チックな書き方のテキストカバレージとなっております。時間がかかりすぎて数日間に渡って書いているのですが、ノリで押し切れるかどうか不安です。 

(追伸)このままだと2週間とか平気でかかりそうなので前半3句で一旦アップロードすることにします。後編も需要があるなら頑張ります。

 

 

 

 

ルール説明

 

元ネタ

 こちらをもとにしたルールを構成しています。

 

ゲームの流れ

1.読み手が単語をひとつ、「上の句」として提示する。
2.取り手がその単語で考えられる関係性(カップリング)を一人ひとつ、早い者勝ち「下の句」として提示する。
3.「下の句」が全員分揃ったなら、取り手は提示した順に自分の「下の句」は「上の句」の単語をどう活かしていくのか読み手にプレゼンする。
4.読み手は独断と偏見で最も心にきた「下の句」を選ぶ。
5.勝者を称える。
6.勝者を次の読み手として1.に戻る。

 

上の句について

読み手がアドリブで思いつく場合はそれを提示する。
思いつかない場合は主催が用意した診断を使ってもよい。

shindanmaker.com

 

今回のローカルルール的注意点(お好みでどうぞ)

・参加者の中に未成年がいるため全年齢対象版。エロ・グロ問わずなるべくそのような表現は避ける。
・二次創作者の集まりなので二次創作可。キャラクター名を出すかどうかは自由。
・推しに関わりのある単語が出ても限界になりすぎない。カルタをすること優先。
・あくまで妄想やネタを投げる。SSをそのまま書いて投げない。

 

 

 

 

 

イカれた参加メンバーの紹介(敬称略)

 

ひでん之

専門は一ノ瀬志希・二宮飛鳥・小宮果穂。某名刺メーカーなどの非常に小さなサイズ感できっちり「らしさ」を落とし込むことに長ける。何故かR-18の合同誌にしか参加していないという謎の実績を持つ。自身の下の弟を溺愛しており、たまに周囲から将来を危惧されている。

https://www.pixiv.net/member.php?id=14571959

 

9り

専門は双葉杏・砂塚あきら・小宮果穂。絵も字も書けるタイプの創作者。他のメンバーにはない独特の観点から物語を展開する。推しを連想させる単語を聞くと急に限界になるし急に過呼吸気味になる。最近水鉄砲の広告を見て限界になった*1

https://www.pixiv.net/member.php?id=10316462

 

姪谷凌作

専門は依田芳乃・乙倉悠貴・森久保乃々。謎の創作系プロデューサー集団『一課』の結成者。アイデアを短編SSに纏めるプロ。自称・元一次創作者。なんだかんだ幸せな世界が得意。炊きたてのご飯を毛布にくるんで猫だと見立てる行為を執拗に他人に推奨する。

https://www.pixiv.net/member.php?id=24826462

 

シズク

専門は東郷あい・森久保乃々・三船美優。自分の世界を展開できる固有結界能力者。ロボットものなど、血と硝煙の匂いがする話を考えていたりする。一次創作者でもある。幸せな世界を見ると試練を与えたくなるらしい。アイドルを見て感じた香りをアロマとして調合する趣味を持つ。

https://www.pixiv.net/member.php?id=14105829

 

斬進

専門は特になし。今回の主催。とある二次創作アカウントのネタ出し係を担当している。

 

 

 

 

 

物語風味のログ本編

 

始まり

6月末日、午前0時。前日の夜に企画が立ったが、参加者は5人いた。ひでん之、9り、姪谷、シズク、そして主催。事前に「地獄の性癖暴露大会になりそう」「ナイフの刺しあい」などの下馬評がついたこの企画、姪谷の「こういうのをやるなら理性がいい感じに壊れてきた深夜にやりたい」との要望により日付変更と同時の集合となった。

それぞれが得意なカップリングを持つ百合創作者である今回の集い、重要となるのは自分の得意ジャンルと読み手の好きなジャンルとの取捨選択だ。すなわち、上の句から直感的に感じ取った自分の得意なジャンルを脳直で取るか、多少苦手であっても読み手の好みを狙いに行くかだ。ネタ被りが大きな問題となるこの競技においてある種の先手の優位性は揺るがないが、それはネタを練る時間が短くなることをも意味する。自分がどちらに属するか、素早い判断が勝負のカギになるであろうことは簡単に予想がついた。

主催からのルールの説明があって、全員がログ記録用チャットルームに移動する。冗談のように自分たちの推しの話をしているが、もしかしたら牽制の意味がそこに込められているのかもしれない。

それでは、と主催が声をかけ、自らの用意した診断のボタンを押す。0時半を少し回ったボイスチャットに、長い夜の始まりを告げるクリック音が静かに乗った。

 

第1句 「パジャマ」

「1つめのお題は『パジャマ』です」

参加者たちは次々に懊悩の声をあげる。Twitterでバズっていたツイートで例に挙げられていたものがハイコンテクストなアイテムである「麦茶」であったことを考えれば当然のことだろう。パジャマ、という単語はあまりにも自我が強い。その自我の強さを活かしつつ、どれだけシチュエーションとしての発展性を広げていくか。経験の少ない参加者たちにとっては些かハードルが高いようだった。「パジャマっていうだけで果穂さんしか出ないんだよ」というのは9りの言。

数分。読み手の主催が上の句のリロールを提言し、制限時間までに半分以上の下の句が出ないようなら、と決まったところで、ひとりの参加者が声をあげた。

「え、これ、二次(創作)じゃなくてもいいんですよね?」

その参加者――姪谷が先陣を切る。この集いの結成者、通称『課長』としての責務を感じていたかどうかは定かではないが、今回初の下の句は波乱を生むこととなった。

「『外国人の子×日本人の令嬢』で」

そう、姪谷が『取った』下の句はアイドルとは無縁の一枚。ルール説明の時点から「このルールとメンバーなら誰もが二次創作をするのだろう」と考えていた参加者は、さらに混沌の内へと放り込まれる。もし次に読まれた下の句も一次創作であれば、場には大富豪の縛りルールもかくやというある種の強制力が発生することとなるのだ。思いつかない場合にはある意味都合のいい逃げ道である一次創作だが、二次創作ができなくなってしまうとなれば話は別になる。しかし二次創作を開放するには、誰かが二次創作を思いつく必要があるのだ。場に重苦しい沈黙と唸りが響く。

「えー、じゃあ…… 『かほちょこ』」

次の取り手である9りが口を開いたのは、さらに数分が経った後のことだった。シャニマスでは放課後クライマックスガールズ、ひいては小宮果穂の絡んだ創作を得意とする彼女が今回の「相手役」として選んだのは、ユニット随一の普通の人間である園田智代子。どちらのパジャマに対してどちらがどのように反応するのか注目が集まる。

そしてこの1枚によって、二次創作をすることに対する負い目がなくなった参加者たち。まるで天使に先導されるかのように、もう一人の取り手がこれに続く。

「それじゃあいきます、『かえみゆ』で」

『取った』のはシズク。字面からはやや幼稚な印象が拭えない「パジャマ」であるが、あえて大人アイドルの組み合わせの代名詞とも思われるような高垣楓と三船美優の組み合わせを提案してきた彼は、どちらかといえば殺伐とした世界観を好んで創作する人間だ。どのようにこの上の句を調理するか、彼の新たな一面に期待が籠る。

そして取り残されたのはひでん之だった。彼が得意とするのは極端な掌編か、設定を練りに練った長編の構想だ。さらに悪いことに、彼は『画像』が出てこないタイプの書き手だ。直感的に何かのワンシーンを幻視して物を書き始めるタイプではなく、ひとつひとつを積み重ねて着想するタイプ。このような瞬発力を求められるネタ出しはやはり重かったのだろうか。主催が極端な長考を控えるように言ってからさらに1分ほど経って、彼は決断した。

「やるかー、『しきあす』でいきます」

悩んだ末に彼が選択したのは、自分の最も得意とする一ノ瀬志希と二宮飛鳥だった。まだ全然纏まってないから、と嘯く彼の心中はいかほどだったのだろう。口で不安を吐き出しつつも天啓が降りたか、それとも苦渋の見切り発車か。その審判は、4人の中で最後に下されることとなった。

何はともあれ、初めてのカルタの下の句は揃った。手探りの中、自分の即興妄想を手に殴り合いが始まる。

 

 

「じゃあ始めますね」

姪谷が口火を切って、チャット欄にひとつの単語が打ち込まれる。参加者はその単語を読んで困惑した――少なくとも私は困惑した。

「キーワードは『和洋せっちゅう』です」

そこから繰り出される世界は、まるで日常系百合漫画の世界であった。まるで料理番組のような口上と共に「ご用意された」のは外国生まれの金髪少女と、純日本人の良家令嬢のお泊り会。「平屋で暮らしてるような」という修飾語をつけて語られたその日本少女は、どうやら寝間着も和服らしかった。

「元の文化が違うじゃないですか、当然お互いのパジャマを見て興味を持って、話が盛り上がるわけですよ」

なるほど、『和洋折衷』はそういう意味か――。私が納得したその時だった。

「あとは話が弾んでごにょごにょごにょ、みたいな」

せっちゅうとは「せっ」と「ちゅう」か、と改めて納得すると同時にジャッジが呼ばれることになった。これはレギュレーションに違反しないのか、大丈夫なのか。長くはない議論の末、全員が笑っているのでセーフという結論に至った。語彙力がイカロスの如く失墜した姪谷の妄想に対して、皆が笑いながら意見や補足をぶつけ合う。ふたりの名前の話や、それに連なるエピソード、起床時の着衣の乱れについて。気が付けば、初周の緊張など参加者たちのどこにもなかった。姪谷が狙っていたのは開幕の一次創作による緊張状態ではなく、ギャグ的要素をプレゼンそのものに込めた緊張の緩和だったのか。彼の真意はわからないが、少なくとも一番槍を担う課長としての責務は立派に果たしたと言えるだろう。

 

続いては9りのかほちょこの出番だった。少しだけ息を調えてから、彼女は独特の語り口調で自分のプレゼンを展開し始めた。

「まず、果穂さんは子供っぽいパジャマなのを気にしてる」

まるでそれが当然であることを信じて疑わない、といったような9りの口調。いくら公式で最近パジャマの描写があったとはいえある種の暴挙とも言えるような前提条件の押し付けに一部から笑いが起こるが、彼女はそれを意に介さず続ける。

「それで、果穂さんはちょこ先輩のパジャマは絶対カッコいいって思ってて、事務所でこっそり耳打ちして訊くんですよ、どうすればいいんですかって」

彼女の強固な小宮果穂観は、身内である一課の人間であれば周知の事実だ。もはや信仰に近い敬意を小宮果穂に抱いている彼女の中では、小宮果穂は周囲の人間を照らす太陽であり、手を差し伸べるヒーローであり、等身大の問題に悩むひとりの少女だ。

さらに9りはそんな小宮果穂に普通の人間らしく、それでいてややコメディタッチに対応していく園田智代子を描いていく。年相応の悩みを抱く果穂をいじらしく思い、次の休みに一緒に買いに行こうと約束する智代子だが、家に帰ってから自分が普段ジャージで寝ていることに思い至る。前日の夜に慌ててネットで検索するが、検索に熱中しすぎて寝不足になってしまう。それを努めて隠そうとするが、果穂に簡単に寝不足がバレて心配される。テンポよく、まるで箇条書きで書かれたプロットをひとつずつ確認しながら読み上げるように語られる筋書きに、参加者たちは耳を澄ませる。

そして、果穂に心配された智代子は、果穂ちゃんのためにちょっと頑張っちゃった、と言う、と9りは力説する。それを聞いた果穂の胸にはえも言われぬ感情が芽生え、そしてその名前のついていない感情を抱えて過ごしていくのだと。彼女はそう自分の妄想を結んだ後、大きく息を吐いた。

彼女は常々、「小宮果穂は実在する」と話す。一見どころではなくかなり危ない人間の発言ととられても仕方のない言葉ではあるが、今回は方向性さえ違えど彼女のその主張の一端を見たような気がした。すなわち『実存性』とも言うべきか、「公式がこのような話を書くならば、あるいは彼女たちが存在していたら、きっとこのように事が運ぶ」。そのようなある種の確信を抱かせてしまうような、実在の人物かどうかとは違う方向のリアリティ。1句目からそれを全開にして出してきた彼女は、きっと今後もいい作品を出すだろうと確信させるような、そんな下の句だった。

 

「まず、楓さんが美優さんを部屋に誘って、ふたりでゆっくりお酒を飲むことにするんですよ」

ある程度短く纏めるために多少の押し付けは可能かつ必要不可欠。そう結論付けたかのように、シズクの出だしは説明ではなく描写だった。さらに、その展開もテンポの良いもの。

「美優さんは急にそんなことになると思ってなくって、パジャマを持ってきてなくって。それで、楓さんのパジャマを着ることになるんですね」

とんとん拍子に進む描写から開催されたのは、ふたりきりのパジャマパーティー。少しだけ童心に返ったようなその文字の並びとはうらはらに、ふたりは大人の特権のひとつともいえるアルコールを囲んでとりとめのない話をする。どちらに傾きすぎてもその後の展開を難解にしかねないいわばアンバランスな描写の綱を、シズクは綺麗に渡っていく。

慣れない楓のパジャマに美優は気恥ずかしさを覚えたものの楓はそしらぬふうを装う、という描写をして、シズクは一瞬だけ言葉を切った。私はその間隙をもって思考を巡らせた。この後ふたりのパジャマパーティーはどのように展開していくのか、楓さんも実は緊張していてというのが王道ではあるが―― しかし、私の予想は次の一言によって打ち砕かれることとなる。

「それでふたりとも寝落ちちゃうわけですよ、で翌朝、いつもの自分の服とは違う、楓さんの匂いに包まれて美優さんは目覚めて――」

彼はあっさりと夜を終わらせたのだ。そして私は合点がいく。あくまで「パジャマ」の話であり、宅呑みは些事であった、あるべきだったのだと。さらに彼は自分の特徴であり、美優さんの特徴のひとつでもある「匂い」にもフォーカスを当てている。自分の得意分野を上手く盛り込んだ格好だ。美優が楓の匂いに包まれているというその幸せを再確認するかのようにふんわりと微笑んだところで、彼の初めての企画妄想は畳まれた。

人の自己評価というものは得てしてあてにならないものだ。過去、彼はこのように言っていた。「自分は長編を書くのは得意だが、短編のサイズに纏める能力は無い」と。しかしこと今夜に限っては、その発言の信憑性は限りなくゼロに近いと言っていいだろう。彼は今、自分の能力を証明したのだから。

 

 最後に残ったひでん之は、シズクのプレゼンが終わってもなお唸っていた。それから、彼の思惑が語られる。

「僕はね、最後だったし全部バーッて書いて、これですってチャットに貼りたかったんですけどね、残念ながら僕自分が筆遅い人間だってことを忘れていてですね」

参加者たちから笑いが漏れる。念のため後に「SSをそのまま投げるのは禁止」というルールが制定されることになるが、実際にこの短時間でSSを一本書きあげることは、筆が速い作家が自分の慣れたキャラクターの話を書くとしてもなかなかに難しいことだろう。自分でも笑いながら、その「失策」を告白する。

「今メモ帳に一行だけ、『寝相クッソ悪くていつも腹出して寝てる志希』だけ書いてありますからね」

そう、それがひでん之がプレゼン前にしっかりと固められた構想のすべてだった。それ以外の展開はいまだ脳内ではっきりとした形を持たず、断片的な単語や世界観として宙を漂うのみ。前述した通り『画像』で物を書かない彼には、1枚の絵としてそれを完成させることは難しいように思えた。

だが、ひでん之には、それで充分だった。自分がひとつの絵として纏められないことを自覚したうえで、彼は自分の頭にある断片的な――それでいて厖大な量の点の間に、フリーハンドで線を引きはじめる。

「あ、これは僕の脳内の話なので、こいつらは一緒の部屋で暮らしてます」

「色々問題とかはあると思うんですけど、志希は飛鳥ちゃんが寝静まってから帰ってきて、ソファとか床とか適当なところで適当に寝て、飛鳥ちゃんが起きても起きれない、みたいな」

1枚目にしてもはや暗黙の了解となった前提知識の共有という名の押し付けと引きずり込みをテンポよく済ませ、彼の脳内の飛鳥は志希にパジャマを買い与えることを決意する。それは飛鳥なりの心配の形ではあるが、年相応の臆病さが具現化されたものである、とも彼は語る。

「お腹出したりとか布団ひっぺがして寝たりとかしてるから、飛鳥としてはシンプルに体調の心配をしてるんですけど、ただ今まで無理やり理解わかろうとすることで痛い目を見てきているので、ちょっと臆病になってるところもあるんですよ」

見てきたかのように話してはいるが、当然痛い目を見ている瞬間以外の描写は公式には存在しない、ひでん之の妄想の話である。だが、それはこの場においては野暮以外の何物でもない。

「で、暮らしてるうちに他人からの贈り物だったらぞんざいにしないだろう、っていうことを学んで、だったらプレゼントでパジャマを贈れば、って考えるんですよ」

自分の頭の中の二宮飛鳥のことは自分が一番よく知っている。そう言わんばかりに飛鳥の精神の機微の説明を続ける。彼の中の飛鳥は志希をどうにかショッピングモールに連れ出すことに成功して、シックなパジャマを志希の手に収めることに成功した。しかし彼女の思い通りにいったのはそこまでで、志希はそれを受けて当然のように飛鳥の手に志希のものの色違いのパジャマを渡して、飛鳥は肯定も否定も口に出さずに黙って会計に向かう。お揃いのパジャマという羞恥よりも、相手にその意図を尋ねるという踏み込んだコミュニケーションへの躊躇によって。

「で、まあパジャマ贈られて、その日以降飛鳥が目ぇ覚めると贈ったパジャマ着て腹出して寝てる志希がいて、ちゃんと直したり朝の準備したりしてあげる飛鳥ちゃん、っていうのがね、はい」

そう言葉を畳んだひでん之に対して、主催が笑いながら言葉を投げる。

「――いや、長い! 3つぐらいの話に分けてよかったでしょ!」

そう、この時点で他の参加者の約2倍もの間、ひでん之は自分の妄想について語っていた。途中に横からの合いの手はあったとはいえ破格の長さである。これは彼があえて纏めることを放棄した以上、当然の帰結ではあった。時間や眠気の関係から、長すぎることが減点対象となり得る深夜帯での開催においてこの決断はかなりの勇気を必要としただろう。もしくは、本当に何も考えていなかったのか。

しかしてその決断に対する裁定は、それを認めるものであった。

「熱量のごり押しが強かったということで、今回の優勝はひでん之さんです」

 読み手である主催の発表に合わせて、深夜のためやや控えめな、しかし惜しみの無い拍手がひでん之に送られる。次は無いですからね、と笑いながら言う主催は、途中まではシズクのパジャマを大人で拾おうとした発想力を高く評価していたようだった。ただ今回は最初ということで、後から降って湧いた純粋な熱量をその上に置いた。発表順が逆であれば、ともすれば優勝は別の人物であったかもしれない。4番手であったひでん之には、自分より後の発表者を気にする必要がなかったからだ。当然、何番手だろうと気にせずに長話を続ける可能性もあったが、その場合は読み手の好感度を損なう可能性があった。そういう意味でも、あの時カップリングの決断を悩んだことにも、なにがしかの意味はあったのかもしれない。もしくは、それは運命であったのかもしれない。

 

こうして、手探りの中第1句は終わりを告げた。しかし、息をつく間もなく第2句が始まる。自分の妄想をいかに素早く威力の高いものに仕上げるかのみがこの競技ではない。連続で妄想を続けそれを発表することのできる、ある種のタフさも求められるのだ。

第1句優勝者のひでん之が診断を回す。彼は少し難儀したような声をあげてから、少し申し訳なさそうにそのお題を読み上げた。

 

第2句 「防波堤」

「えー…… じゃあ『防波堤』でお願いします」

ありきたりかつどこかで見たような表現であることを承知であえて書かせてもらうとすれば。第2句のお題として提示された上の句は、難しいと思われた第1句をさらに上回る難易度だった。確かに「防波堤」は寂寥感や感傷を表現しやすい、俗な言葉で言えば「エモい」場所だ。しかし「パジャマ」も用途が限定されているとはいえ、「防波堤」を使おうとすれば基本的にはキャラクターたちがそこにいる話、という方向に限定される。その中でどのキャラクターにどのような話をさせるのか、どのようにキャラクターのらしさを引き出していくか、他のキャラクターで代替できない価値を見出すか。通常の創作でさえ躓くことのあるようなお題を、さらに即興でこなさなければならないのだ。

基本的には何があってもそれで妄想するゲームなので逃げないでください、と言った主催が、自分も苦難の末になおかれを選択する。防波堤に付き纏う海や空のイメージである青を基調としたアイドルのチョイスとして、神谷奈緒北条加蓮は無難な選択と言える。誰かに取られる前に、ということで、誰からも下の句が出ない現状を鑑みて取ったのであろう。
次に動いたのは9りだった。悩みながらも取ったのはこがきり、シャニマスの月岡恋鐘と幽谷霧子のカップリングである。SSではなく妄想の公開であるため月岡恋鐘の強い訛りを表現しなくてもいい、という楽さがある他、このふたりについて9りは定期的に診断メーカーのお題精製装置を用いた作品を自分のTwitterで公開している。この時点で上の句の提示から相当な時間が経っていたため、自分の慣れたカップリングを取ったようにこの時は思えた。

そこからさらに少しだけ間を開けて、次に取ったのはシズク。その宣言の内容に、少しのどよめきが起こる。

「それじゃあ行きますね、『しきあす』でお願いします」

読み手であるひでん之の得意分野であり、先ほど彼が展開したふたりであり、彼に最も刺さるカップリング。すわ忖度か、と囃し立てられるも、シズクはあくまで行けるという確信のもと取ったとそれらを一刀のもとに切り捨てる。当のひでん之はおお、と声を上げたきりであり、その心境は計り知れない。また、このふたりは公式で海に逃避行をしていたりもするためそれを活かすということも考えられるが、シズクはどのような物語で「プロ」を納得させるのか期待がかかる。

第1句とは対照的に、最後に残ったのは姪谷だった。しかし彼もシズクの決定からさほど間を開けずに決断する。

「なんて呼ぶかちょっとよくわからないんですけど、『依田芳乃×浅利七海』」

先ほどとはややニュアンスの異なる、感嘆に近い声が何人かから漏れる。海、正確に言えばおさかなアイドルである浅利七海。当然デレマスのプロデューサーであれば考えに及ばないということはないだろうが、浅利七海のカップリング、という点で見ればギョギョっとニャンだふる(前川みくとのデュオユニット)以外に非常に有名と言えるカップリングは少ないと言わざるを得ないのが現状である。しかし、姪谷は恐れることなくそれを切ってきたのだ。デレマス身長151cm組、非公式名称で言えば「イチゴイチズ」に所属する両名。専門かつ担当のアイドルと海のアイドル、共通点はあるものの公式での絡みがそれほど多くないふたりをどのように捌くのか、手腕が問われる組み合わせとなりそうだ。

姪谷の下の句が提示されたことによって、4つの下の句が無事に揃うこととなった。一時はリロールも危ぶまれた上の句だったが、並べてみれば4つの下の句のどれも感傷や静かな雰囲気が似合うものとなった。理性の半壊した午前1時過ぎ、ともすれば同じ雰囲気のぶつけあい。まさしく瀬戸際の決戦が始まろうとしていた。

 

 

主催の愚にもつかないなおかれ*2が終わり、9りのこがきりの巡目となる。

「まず、霧子ちゃんが夜の防波堤でお散歩してるんですよ。で、『おさかなになって恋鐘ちゃんに会いに行くね』って」

その言葉に鋭敏に反応したのは読み手のひでん之であった。

「あー…… うわ、[娘・娘・金・魚]か」

[娘・娘・金・魚]はゲーム内で使用できる霧子のカードのひとつである。カードのコミュのひとつである「ゆらゆら」は、ふたりで金魚の浴衣を着てペットショップの金魚コーナーを見に行く、というコミュの内容ではあるが、明るく引っ張っていく恋鐘とふたりでもなお落ち着き透明感のある霧子の世界が展開されている。さらに恋鐘の「うちももうちょっと霧子みたいに優しくなれたら…… ここの魚、迎えに来るけんね!」という言葉に対して霧子が金魚のように真っ赤になりながら「わたし、金魚さんになったら…… 恋鐘ちゃんのお家に行くね……」「そうなったら…… 毎日、遊ぼうね……」と返すという、およそ公式がやっていいものとは思えないほどの文学性が発揮されているコミュである。9りの言った「おさかなになって恋鐘ちゃんに会いに行くね」は、このコミュでの約束を指したものなのだろう。しかし、「夜の海の防波堤」で「おさかなになる」という単語の並びに幾ばくかの不安を覚える参加者もいただろう。そしてそれは現実のものとなる。

 「どうしても自分が恋鐘ちゃんに釣り合ってるって思えなくて、おさかなになれたら、ってそのまま身を投げようとしちゃう」

本当に口調を変えずにその不安をそのままアウトプットした声に、うわ、と小さく息を飲んだのは、はたして誰だったのだろうか。もしかすれば、無意識に全員が同じような声をあげていたのかもしれない。

霧子が身を投げてしまう本当に寸前、恋鐘が現れて霧子が夜の海に沈むのを引き留める。恋鐘がここに訪れた理由は存在しない。彼女は霧子の危機には必ず駆けつける。それがこの妄想で月岡恋鐘に与えられた使命であり、Twitter不定期に紡がれる9りのこがきりの世界で月岡恋鐘に与えられた運命のひとつである。慌てた様子で必死にどうしたのかを尋ねる恋鐘を見て、霧子は自分がどれだけ馬鹿なことを考えていたのかを思い知らされ、泣き始めてしまう。

一文ずつ説明を区切っていくかのような9りの語り口と、静かな雰囲気というよりも深刻な雰囲気の内容に、参加者たちは固唾をのんで9りの次の言葉を待つ以外の選択肢を奪われていく。

恋鐘は帰ろうなどとは言わず、防波堤の上で霧子を慰め、霧子の話を聞く。そして夜が白み、日が昇り、そこで恋鐘は霧子に言う。こんなに綺麗な世界を捨てるのはもったいないから、と。そうだね、と返して朝日を眺めながら、霧子は考える。おさかなにならなくても、霧子のままでも、何かできることはあるんじゃないかと――

9りが妄想の終わりを告げると、いやぁ、などと感嘆の意味を込めて参加者たちが唸る。確認を取ってはいないが、この物語は霧子の「おさかなになる」という部分から着想を得たのは間違いないのだろう。しかし実際は「おさかなにならない」という霧子の結論でこの物語は終わっている。[娘・娘・金・魚]に回帰するわけではない新たな道を霧子は開拓したのだ。また、この物語の流れはいわばベタなもののひとつではあるが、どこか少女漫画の登場人物のような透明感と危うさを持つ霧子とこのシナリオは非常に相性が良い。躊躇ないシナリオの選択が功を奏する、という事例の好例とも言えよう。

 

 「まず、志希ちゃんの出身地は我らが岩手なんですよ」

9りの流れを受けて話し始めたシズクのさりげなく自分の出身地情報を混ぜ込んだ滑り出しに、少しの笑いが起きる。しかしその後に続いた言葉は、その笑いを静かにさせることができる程度には重いものであった。

「で、岩手って三陸津波があって、それの復興をしてるわけじゃないですか」

日本人であれば知らない人間は一握りであろう痛ましい記憶と、そこからの脱却。そのただ中に立つアイドルふたり、一ノ瀬志希と二宮飛鳥。飛鳥は志希に連れられ、新しく建設された防波堤に腰かけて街を眺めることになる。そして、そこで志希から伝えられる。この防波堤の建設には志希の研究が用いられているのだと。

それを聞いて、飛鳥は曖昧な返事をしながら内省する。志希と自分と、セカイとの関わりについて。志希はいわば分かりやすくセカイと接触し、分かりやすく他人の役に立っている。当然、アイドルであるとはいえ中学生――しかも中二病を患っていると自称する少女が、それに憧れないはずもないだろう。しかし飛鳥自身は何事を成すでもなく、ただアイドルをしている。勿論それは普通の人間にはできないことではあるが、アイドルと研究者を両立させている志希の前ではそれはあまりにも薄い言い訳にしかならないだろう。

しかし、そんな飛鳥の内心を全て見通すかのように志希は笑って、また自らも内省する。自分は、結局のところ即物的な物質世界に囚われている。この功績もまた、完成してしまえば自らを物質世界に縛り付けるものでしかなくなる。でも、飛鳥は違う。飛鳥が縛られるのは自分の内面世界にのみであり、それは志希にとっては羨ましいものである。ただ志希はそのことを飛鳥に伝えることなどはせず、ただ即物的な街を飛鳥の隣で眺めている。

なるほど、と呟いたのは、私の聞き間違えでなければ読み手のひでん之だった。どうやら彼にも納得のいくしきあすであったらしかった。ふたりの対称性をうまく落とし込みながらも志希と防波堤を彼女の地元というアイテムで繋ぎ、なおかつ(もちろん結果的にそうなっただけの可能性も大いにあるが、)そこに少しの自分らしさを混ぜ込む。即興で作られたとは思えないほど綺麗に煉瓦の積まれたその作品は、確かに読み手の心に届いたのだ。

 

最後の取り手である姪谷も、自らのチョイスしたアイドルと上の句との関係性を説明するところから始めた。

「皆さんご存じの通り七海ちゃんは海が好きで、芳乃も[わだつみの導き手]だったりで、依代としての仕事とかで海の神様と縁があるじゃないですか」

七海といえば瀬名詩織や沢田麻理菜と並び立つデレマス屈指の海に縁のあるアイドルであることは誰しもが認めるところであろうし、(海神の依代かどうかは私は知らないが)芳乃も水辺全般と縁のあるアイドルだ。彼がその例として挙げた[わだつみの導き手]も、芳乃が禊のようなものをしているイラストが描かれているカードである。姪谷の物語はそんな水と縁のあるアイドルの片割れ、七海が防波堤にいるところに芳乃が現れるシーンから始まる。

七海は波の音を聴いていると落ち着くから、という理由で海を眺めているらしかった。それが芳乃の心を打つ、と多少熱の入ったように姪谷は語る。離島に住んでいた芳乃やその周囲の人間にとって波の音は日常のひとつの域を出ないものであり、その「あたりまえ」を気にかけ好んでいてくれることが珍しく、また海の神様としても幸せなことなのではないだろうか。さらに言えば、波はその大小はあれど寄せて返すことを無限に繰り返すものであり、そこから生まれる刹那であるところの波音を楽しむということは永遠にも等しい海の神の営みの一片を受け取ることに他ならないのではないか。「防波堤」という単語に当然に付属し、なおかつここまでの3つの妄想で焦点が当てられてこなかった「波の音」という部分が、鮮やかに彩られていく。

「で、七海ちゃんに向けて、よしのんが海の神様的な一面を出して、言うんですよ」

 そして姪谷は、仕上げとばかりに芳乃のセリフを口にする。

「――『わたくしの心音を、どうか最後まで聴いていてください』、って、感じで」

心音、という言葉には様々な意味が含まれる。生きている限り止まることのないもの、同じリズムを刻み続けるもの、その生命に最も近い音。それらすべての意味が内包されて、芳乃の心臓と波が重なる。まさしくそれは、物語として綺麗なラストシーンの一枚絵であった。

ここまでフォーカスされることのなかった波の要素を見事に主役として取り入れ、また前例も他に比べればそう多くはないカップリングを御しきり見事波に乗り切った姪谷。第1句ではオリジナルのキャラクターを用いて妄想を繰り広げたが、二次創作で後れを取るということは決してない。その事実をあらためて見せつける形になった句だった。

 

 「いや、どれも良かったんですよ」

そう前置いてから、読み手のひでん之は今回の優勝者を口にした。

「なんですけど、一番僕の心が動いたっていう意味であれば、9りさんが優勝です」

少しだけ驚いたような9りの声と、優勝者を称える拍手の音が響く。優勝の決め手を尋ねると、ひでん之は少し考えてから答えてくれた。

「普段の9りさんのこがきり、恋鐘ちゃんが霧子ちゃんと会話しないっていうか、わかりあえないけど好き、みたいな感じなんですよ。でも今回の話は恋鐘ちゃんがちゃんと霧子ちゃんと話しあっていて、はい」

それを聞いて逆に感心する9り。勝利を齎したのは、自分が積み重ねてきた何気ない日常であった。そのカップリングを研究し、お題を用いて不定期とはいえ高頻度で作品を作り、インターネットの大海に放流する。その行為が、今回こうして勝利のための最後の一ピースとして目の前に形を成したのだ。盤外戦術に近い、と揶揄する声もあろうが、私はこのような勝利があってもいいと感じる。それはいわば、普段からの創作に対するちょっとしたご褒美なのだから。

 

終わってみれば、上の句が提示された際に参加者たちが感じた不安などどこ吹く風といわんばかりのレベルの高い戦いだった。「防波堤で会話をする」という上の句の使い方は同じであった――下の句を考えている最中に「対東側の防波堤」という文脈で上の句を使おうとした参加者は約1名いたが――にもかかわらず、3つそれぞれそのカップリングらしさを活かし、余韻を異なる雰囲気に仕立て上げたのは物書きの面目躍如と言わざるを得ないだろう。

途中用意された診断を回した9りが「卒業」「すべり台」「シャボン玉」という3択を見て「限界になりそうなのは(診断結果から)消したって言ったじゃん! すべり台消えてないじゃん……! この、しかも、シャボン玉と卒業……!!!」などと言って限界になるなどのアクシデントはあった*3が、1分かかって鎮静化した9りはどうにか勝者の役目――次の上の句の提示を果たした。

 

第3句 「制服」

「はい、じゃあね、『制服』です」

前の2句から一転、ひとめ汎用性の高い上の句となった第3句。しかし、ことここに至って参加者のほぼ全員が一旦は同じ結論に至ったようだった。すなわち「お題が合わせろ」――上の句からカップリングを考えるのではなく、自分の好きなカップリングの中から上の句に最も合うカップリングを考え、読み手のことは忘れて自分の好きな妄想をひたすら押し付ける。要するに、小細工抜きで金属バットを持っての殴り合いである。もちろん自分の引き出しの中身よりも合ったシチュエーションやカップリング、意外なカップリングには弱くなりかねないが、それでもほぼ全員がこの戦術を採用した理由を端的に言えば、深夜2時を前にその弱点を考察するほどの思考能力が一度全員の中から無くなったのだ。妄想で殴ればいつかは勝てるだろう、という蛮族思考と推しカプへの愛が、無法地帯と化した深夜のボイスチャットに蔓延する。

最初に動いたのは姪谷だった。いや、正確に言えばカップリングに動かされたのか。

「えー、いやこれ『おとより』しか思いつかないんですけどー……」

乙倉悠貴と依田芳乃、第2句とはまた違った依田芳乃のカップリング。彼の専門である依田芳乃を含むカップリングの中では強い共通項がない代わりにややバランス型に近い、いわゆる「丸い」選択とされる場面は多々ある。しかし悠貴はあどけなさや少女性、学生という点もかなり前面に押し出されているアイドルであるため、学生服に重点を置くのであれば今回最も強い選択とも言えるだろう。

そして姪谷が自分の得意なカップリングでゴリ押しに行くのを察したのか、ひでん之もそれに呼応するかのように下の句を『取る』。

「行きます、『かほなつ』で」

9りもまたその声に呼応して一瞬限界になる。彼が最近最も力を入れて創作活動をしているカップリングのひとつ、それがこの有栖川夏葉と小宮果穂のカップリングであるところのかほなつだ。大学2年でやや天然の気がある肉体派社長令嬢である有栖川夏葉と、子犬のように無邪気にその背中に憧れる小学6年の小宮果穂。お互いに制服を着ない年齢であるふたりを中心に、ひでん之はどのように線を繋ぐのか。

そこから少し時間が空いて、3番手を取ったのはシズクだった。

「それじゃあ『かえみゆ』でお願いします」

彼が選択したのは第1句でも選択したかえみゆ。レギュレーション上同じカップリングの選択はまったく問題がないとはいえ、一瞬だけ驚いたような空気がボイスチャットに流れる。無意識に誰もが回避していたのかもしれないその選択肢をあえて拾いにいったシズクは、まるで自分に大丈夫だと言い聞かせるかのようにうんと小さく呟いた。

そして前の句では愚にもつかない妄想を披露した主催は唸っていた。しかしそれは、上の句に合うカップリングが自分の脳内に存在しないからではないようだった。

「……えぇー、ここで切らされるのー……?」

前述した通り同じカップリングの選択は可能であるため切らされるも何もないのだが、よくわからない彼の信条がそこにあるらしかった。しかし自分だけが下の句を提示していないという空気感に耐えられなくなったのか、渋々といったようにその札を『取る』。

「いいや行きます、『みくりーな』」

前川みく多田李衣菜カップリング、みくりーなは主催がこの沼に足を踏み入れるきっかけとなったふたりである。また特にみくは制服でのイラストもそこそこに多く、アニメ版放映時には制服で共演があったほか、去年にも[放課後ロックスター]という多田李衣菜のカードで中野有香と3人で制服でCDショップに行っている姿が描かれている。そういう意味では、姪谷のおとよりに負けず劣らず制服のイメージがあるカップリングであろう。

それぞれが己の手になじむ武器を手に取り、読み手を多少巻き込みながら凄絶な殴り合いを披露する。これまでで最も素早く出揃った下の句がそれを予感させるなか、第3句のプレゼンが幕を開けた。

 

 

「まず、乙倉ちゃんの制服なんですけど、[カム・ウィズミー!]見る限りブレザーっぽいんで、ブレザーっていう前提で行きます」

そう切り出した姪谷は、芳乃と悠貴の制服の違いに言及する。芳乃は複数のカードで見られる通りセーラー服タイプの制服であるため、悠貴とはデザインの異なる制服となる。さらに彼は、芳乃がもとは離島に暮らしていたことにも目をつける。

「芳乃も向こうの学校に通ってはいたけど、事務所に来てこっちの芸能活動とかに寛容な高校に転校することになって、新しい制服に袖を通すことになるんですけど、それがなかなか馴染まないんですよ」

なるほど、という声が参加者から漏れる。たとえ転校というものを実際に経験したことがなくとも、慣れ親しんでいた制服を途中で変えるともなれば違和感を感じるであろうことは容易に想像がつく。

そして姪谷は続ける。好奇心の強い芳乃であれば、自分が制服に慣れるためという名目のもと多くの学生アイドルたちに制服を見せてもらい、また着こなしなどを教えてもらうのではないだろうか。そしてその学生アイドルたちという区分の中に、当然乙倉悠貴も含まれてくるのではないかと。確かに悠貴であれば普段芳乃に教えることなんてできないから、と嬉々として教えそうであるし、デレマス実装時期・CD発売時期双方の意味でデビューが近いアイドル同士であればそのような会話もしやすいのかもしれない。

さらに、姪谷が思い出したように付け足した言葉は、またも小さな波を引き起こすこととなった。

「あ、もちろん最初に乙倉ちゃんの制服の話をしたのはかわいいってことが言いたかったのもあるんですけど、制服の交換とか、してほしいなって」

「――あーっ! 被った! もうダメだ!」

笑いながらそう叫んだのは主催。ここにきてこのゲームほぼ唯一のカルタ要素、早い者勝ちで被りは禁止、という部分が初めて表出することになった。そう、悠貴と芳乃と同じように、みくはブレザー、李衣菜はセーラー服の制服なのだ。どうやらそれをアテにしていたらしい主催の空笑いと、その騒ぎっぷりにつられた他の参加者の笑い声が深夜のボイスチャットにやや音量を抑えてこだまする。まだ方向修正が効くから、とは言われたものの、主催の貧弱な発想力で自分の前までに代案が思いつくかは不安であった。その低さから順番が4番手であったのは救いか。

終わり際にひと悶着あったものの、全体を眺めてみれば姪谷の提示した下の句はおそらく短めに分類されるものであろう。しかしそこには、聞いた人間の想像を掻き立てるような部分――例示するのであれば「芳乃の制服見学に他に付き合わされるアイドルは誰がいるのか」「提案されたときの悠貴の心の動き方」など――がふんだんに盛り込まれている。また制服交換に関しても13cm差と身長差のある組み合わせであるため、いわゆる「絵になる」シーンであることに何ら疑いはない。要点のみを抑え、それ以外の部分をあえて聞き手にも委ねることで読み手にも妄想を読ませる、シンプルながらトリッキーという面白い下の句になったと言えるだろう。

 

次に順番が回ってきたのはかほなつを取ったひでん之であった。彼は少し興奮したような口調でこう切り出す。

「まずね、弟ちゃん*4と果穂さんって同い年なんですよ、ご存じだとは思いますが」

何がご存じなのかわからないうえにその情報が今必要なのかわからない(本人は大事だと主張した)情報から入ったひでん之。彼の下の弟と果穂はふたりとも小学6年生であり、果穂は学校帰りと言及されたカードのイラストから制服のある小学校というわけではないことも確定している。どんなに頑張っても、学校の制服を着るのはもうひとつ学年が上がってからだ。その1年という距離は近くて遠い、不思議なものである。中学生が学校の活動で果穂の通う小学校を訪れ模擬授業を行うところから、ひでん之の妄想と口が回りだす。

「もちろん小宮果穂さんはお仕事とかでもっと大人の人たちと接する機会がいっぱいあるんですけど、それでもやっぱり思うところというか、そういう人たちと違う目で見たり、重ねて見ちゃうみたいなところもね、あると思うんですよ」

制服を着た自分より少しだけ大人な人間が教壇に立って授業をする。それに感じたなんとも奇妙な感覚から果穂は、自分の身の回りの、特に自分のユニットの仲間たちに通っている学校に興味をもち積極的にその話を聞くようになる。当然制服などについても話題に上るが、その点に関してユニットメンバーで唯一の大学生であり、また制服のある大学でないことも確定している有栖川夏葉だけは現在の制服姿を見ることができない。そうなれば尚のこと夏葉の制服姿に果穂が興味を抱くのは当然の流れではないか。ひでん之は小学6年生という難しい年頃である少女の心の機微を、おそらくは彼の弟に対する観察から得たものをもとに紡いでいく。

果穂は事務所で夏葉に当時の制服姿を見てみたいと頼み、夏葉もそれを快く受け入れる。休日に果穂の両親の了解を取って車で迎えに行き、夏葉の家へ。後部座席でそわそわとしている果穂を後ろ目に夏葉は少し笑う。夏葉の家に着くと夏葉の飼い犬であるカトレアが飛び出してきて、果穂とカトレアがじゃれている間に夏葉はいつの間にか姿を消し、声をかけられた果穂が顔を上げるとそこには当時の制服を実際に纏った夏葉が――

「……申し訳ないんですけど、だから2つ3つの話に分けられるじゃないですかそれ!」

ひでん之の語りが終わると同時に、また笑いながら主催が茶々を入れる。確かに、切るのであれば夏葉の車の中のワンシーンで切る、といったことも考えられなくもないし、最初に念押ししていた「弟ちゃん」と小宮果穂の類似性にも相当な尺を割いていた*5。ひとつひとつの描写をかなり細かく繋いでいるため仕方がないとも言えるのだが、単純に深夜2時を回った脳には話の進みが遅いのだ。次は無いって言いましたよ、今度はベル鳴らしますからねと言われて困ったようにひでん之は笑った。

「いや、最初はカトレアさんを出す予定はなかったんですけど、なんか夏葉さんの家に行ったら脳内でカトレアさん出てきちゃって、そしてらもう遊ばせるしかないじゃないですか」

いわば脳内の断片量が厖大すぎる弊害――途中で意図しない断片と繋がり話の流れが変わったり遠まわりになってしまうという事故をひでん之は未だ御しきれていないようだった。何度も言うように、彼は掌編あるいは長編のプロットを得意とする物書きだ。こういった即興で短編程度のサイズの大枠を考えるという調整に慣れきってはいないのだろう。しかし、それを制御しきったとき、そこにどのような妄想が立ち上がってくるのか。それは、夜がさらに更ければわかるのかもしれない。

 

「あ、私の『制服』は学生服じゃなくって、職場の制服です」

 ひでん之の長丁場の後、少し短いですが、と前置きをつけてからシズクのプレゼンが始まった。

第1句とは逆に、今度は美優の家に楓が招待されふたりで宅呑みをする。同じようにとりとめのない話をして、前回とは違い寝落ちする前にきちんと客人用の布団を用意しようとし、楓がそれを引き受ける。そして楓が押し入れを開けて客人用の布団を引き出し、さらにそこである物を見つけるのだ。

「ちゃんと公式で捨てられてないって言われてますからね、美優さんのOL時代の制服」

元OLでクリスマスにヒールが折れたところをプロデューサーに助けてもらいついでにスカウトされる、という流れで一部公式ではアイドルになっている美優だが、生来の踏ん切りのつかなさや流されやすさというところはアイドルになってやや改善はしたものの未だ健在、という設定である。あくまでウワサではあるが公式で捨てられないとされている会社の制服や靴に関しても、当時の自分からどれだけ変われたのかがわからなくて過去を切り捨てる判断ができず残されている、というような解釈をシズクはしているようだった。

制服を見つけた楓は布団と一緒にそれを引っ張り出してくるが、それを見た美優の表情は明るくない。制服の纏う過去の空気感に引き摺られ、会社勤め時代の嫌な上司や面白くない出来事を思い出し、当時から何か変わることができたのかと悩み始める。アルコールも入っているため、だんだんと考えが後ろ向きになっていく。そんな時、楓がひとつの荒唐無稽にも思える提案をする。

「『それ、私が着ます』って、そう楓さんは言うんですよ。嫌な思い出とかを全部自分で上書きして、匂いとかも全部」

努めて自分の偏った見方を入れないようにしてきたつもりではあるが、あえてここで私のこの時の感想を入れるのであれば、シズクの声のトーンに疚しいような部分は一切なかった。一切なかったが、シズクが言うと何故か割と洒落にならないような気がした。発言する人間によって説得力や凄みが変わってくる、ということをあらためて体感した。事実他の参加者たちも一瞬戸惑ったような声をあげていた、ような気がする。

しかし逆に言えば、短いストーリーの中に自分の得意分野を効果的に詰め込んだということでもある。話題になるのは学生であることの多いデレマスの世界で、「制服」という単語を聞いて時間をそこまでおかずにかえみゆを選択し、さらに自分らしさである「匂い」の要素を再度組み込んだうえで綺麗な形に仕上げたことは、間違いなく彼がこの競技が始まる前よりもさらに成長を遂げていることを表しているだろう。

 

そして最後に残ったのは主催。主催はシズクのプレゼンが終わってもなお唸り、発表を渋っていた。しかし1分ほどそれを続けてようやく観念したのか、ネタ被りを回避するために即興の上塗りをしたみくりーなを語りだす。

「まず皆さんご存じの通り、前川みくさんはブレザーで、多田李衣菜さんはセーラー服なわけですよ」

まずは姪谷と同様にふたりの制服を紹介する。前述した通り、カードで言えば[放課後ロックスター]や[マジメ/ネコチャン]で見ることのできる制服だ。

「でまあ話変わるんですけど、前川みくさんと制服が関わるお仕事が最近あったじゃないですか。『HARURUNRUN』って言うんですけど」

ああ、と思い至ったような声がする。この場でいう『HARURUNRUN』は、デレステで同名の楽曲が実装されると同時に行われたイベントのコミュである。曲を歌う関裕美・水本ゆかり・棟方愛海の3人に星輝子・前川みくの2人を合わせた5人で女学校でコメディ寄りの青春学園ドラマを演じる、という内容のこのコミュで、みくは規則にうるさい生徒会副会長として普段とは違う一面を見せていた。そして学園ものである以上、当然衣装は制服。みくにも制服立ち絵が使われた。さらにこの『HARURUNRUN』は2か月前に実装となった[放課後ロックスター]で制服の李衣菜のイメージがあったこともありみくりーな界隈に大きな波紋を呼び、このドラマの設定を使った「学園みくりーな」がいちジャンルとして確立するに至ったという経緯もある。

しかしあくまでも主催はこの設定――生徒会副会長の前川みくとその一年先輩の多田李衣菜――をそのまま当人たちとして採用するのではなく、ドラマの中として話を進める。

「で、まあドラマ*6の撮影で、多田李衣菜さんがゲストとして登場する回があったとして。レギュラー出演のみくがいる楽屋に入ってきて、衣装に着替える、と」

そう、それは同じ学園の生徒を演じるうえで当然に起こる、「同じ学園の生徒なら同じ制服を着なければいけない」という単純な真理に基づいた現象。後から入ってきた多田李衣菜が、前川みくの目の前で彼女と同じ制服に袖を通す。

「――で、多田李衣菜さんが自分と同じ制服を着るのを、前川さんがむずがゆそう、かつ嬉しそうに横目で見てればいいな、って、それだけです」

以上です、とさらに終わりの合図を付け加えて、主催の妄想は畳まれた。

制服の交換が被りで駄目なら制服の同一を、という逃げ方をした主催。その分妄想そのもののボリュームが少なくなることとなったが、それでは被らなければもっと長かったかと言われると、それも本人の技能量的には疑問が残るだろう。

 

「えー、どれもめっちゃ悩むんだけど、選ぶんだったらおとよりで」

読み手の9りが告げた今回の優勝は、姪谷のおとよりだった。制服の見せあいや交換・年齢差と現役でない制服・学生服ではない会社の制服と各々が別方向に上の句を膨らませていった第3句であったが、読み手の語ったところによるとその勝利の決め手は「可愛さ」であった。ひでん之のかほなつは好みには刺さるものの些か量が重くSSそのままに近くなってしまった、ということだろうか。他の面々も含めて、自分の妄想したいものが妄想できたとしても、読み手の好きなものが妄想できたとしても、それだけで勝ちは確定しない。そういった事実が改めて浮き彫りになったとも言えるだろう。

 

それぞれがそれぞれの得意とするカップリングの妄想を語った第3句であったが、全体として見れば「好きだから長く語る」という傾向とは逆に、妄想そのものの長さは平均的には(ひでん之以外は)短くなっているというのが見てとれた。これが単に長時間の妄想を続けたことによる疲れからくるものなのか、それとも参加者たちが短く纏めることに慣れつつあるのか。戦いの最中にもなお進化し続ける参加者たちは、次の上の句にどう立ち向かっていくのか。

優勝した姪谷は、しかし用意された診断を見て唸った。

「うーん、いや実はちゃんと持ってきてるお題もあるんですよ」

暫く診断をリロールして、彼は決意する。姪谷の提示した第4句の上の句は、診断の結果に含まれていない単語だった。

 

 

 

 

おわりに、あるいは中書き

 

ということで第1句から第3句まででした。書いてる途中でこれ別に普通のログでいい気はしてきてます。文章力がもっとある人に頼んでほしかった。全員物書きだろあの集団。

当日終わって朝5時ぐらいから書き始めて既に今7月4日なのでこのままではブログを書き終わる前に第2回カルタ会が開催されかねないため、いったんこのあたりとさせていただきます。この時点でログ部分は2万文字ぐらいあるらしいです。馬鹿かな?

とりあえず続きの文章をなにか思いつきましたら。

 

*1:彼女の崇敬するアイドル・小宮果穂の所属するユニット「放課後クライマックスガールズ」の最新シングルのジャケットでは彼女たちが水鉄砲を持っている。本当にこれぐらいの連想で限界になる。

*2:本当に愚にもつかなかったので全カットです。防波堤の上を平均台のように歩く加蓮の話。

*3:流石に日常にあるどの単語が小宮果穂の公式と関わりがあるのかはわからないし、卒業に至っては公式で一切の言及がなくただ「小宮果穂さんは6年生なのでいつかは卒業する」という理由で限界になっていたのでこちらとしてはどうしようもなかったという言い訳だけはさせてもらいます。

*4:ひでん之の下の弟のこと。参加者紹介で書いた通り、彼は下の弟を溺愛している。

*5:本ログではかなりカットしているが、1分半ぐらい念押ししていたはずである。

*6:後で確認したところコミュ内でのドラマの名称は『礼節と灼熱の嵐』らしい。