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よさみカルタを改造してプロデューサー達でやってみたら幻覚を見るオタクの宴になった・前

 

※今回の記事には主にアイドルマスターシンデレラガールズアイドルマスターシャイニーカラーズの百合二次創作要素が今までよりも多分に含まれています。苦手な方やよくわからない方はご注意ください。

 

(追記:後編を投稿しました。

よさみカルタを改造してプロデューサー達でやってみたら幻覚を見るオタクの宴になった・後 - このブログのどこからでも切れます

 

(諸々を飛ばしたい方は以下の目次をご活用ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前説

 

お疲れ様です。斬進です。最近インターネット上の知り合いに「理解できない、怖い」みたいなことを言われますが至って善良なる一般市民です。人権があるかは怪しいです。

今日はTwitterで流れてきた「よさみカルタ」を二次創作用に多少ルールを改造して深夜12時半から4時にかけて行った記録をブログに残しておきたいと思います。主催とはいえ一番文章力がない人間がログを書くのは間違っていると自分でも思いますが。結論から言うと早口限界オタクの幻覚のぶつけあいになりました。

参加メンバーは謎のデレマス・シャニマス二次創作プロデューサー集団、通称『一課』の面々です。わりと今でも何故ここに自分が所属しているかは謎ですが、面白い人達であることだけは確かです。姉にメンバー説明をしたら「弟よ、危ない人と関わりを持っちゃ駄目だって言ったでしょ」と言われました。否定はできません。

また今回は某人からの要望によりやや物語チックな書き方のテキストカバレージとなっております。時間がかかりすぎて数日間に渡って書いているのですが、ノリで押し切れるかどうか不安です。 

(追伸)このままだと2週間とか平気でかかりそうなので前半3句で一旦アップロードすることにします。後編も需要があるなら頑張ります。

 

 

 

 

ルール説明

 

元ネタ

 こちらをもとにしたルールを構成しています。

 

ゲームの流れ

1.読み手が単語をひとつ、「上の句」として提示する。
2.取り手がその単語で考えられる関係性(カップリング)を一人ひとつ、早い者勝ち「下の句」として提示する。
3.「下の句」が全員分揃ったなら、取り手は提示した順に自分の「下の句」は「上の句」の単語をどう活かしていくのか読み手にプレゼンする。
4.読み手は独断と偏見で最も心にきた「下の句」を選ぶ。
5.勝者を称える。
6.勝者を次の読み手として1.に戻る。

 

上の句について

読み手がアドリブで思いつく場合はそれを提示する。
思いつかない場合は主催が用意した診断を使ってもよい。

shindanmaker.com

 

今回のローカルルール的注意点(お好みでどうぞ)

・参加者の中に未成年がいるため全年齢対象版。エロ・グロ問わずなるべくそのような表現は避ける。
・二次創作者の集まりなので二次創作可。キャラクター名を出すかどうかは自由。
・推しに関わりのある単語が出ても限界になりすぎない。カルタをすること優先。
・あくまで妄想やネタを投げる。SSをそのまま書いて投げない。

 

 

 

 

 

イカれた参加メンバーの紹介(敬称略)

 

ひでん之

専門は一ノ瀬志希・二宮飛鳥・小宮果穂。某名刺メーカーなどの非常に小さなサイズ感できっちり「らしさ」を落とし込むことに長ける。何故かR-18の合同誌にしか参加していないという謎の実績を持つ。自身の下の弟を溺愛しており、たまに周囲から将来を危惧されている。

https://www.pixiv.net/member.php?id=14571959

 

9り

専門は双葉杏・砂塚あきら・小宮果穂。絵も字も書けるタイプの創作者。他のメンバーにはない独特の観点から物語を展開する。推しを連想させる単語を聞くと急に限界になるし急に過呼吸気味になる。最近水鉄砲の広告を見て限界になった*1

https://www.pixiv.net/member.php?id=10316462

 

姪谷凌作

専門は依田芳乃・乙倉悠貴・森久保乃々。謎の創作系プロデューサー集団『一課』の結成者。アイデアを短編SSに纏めるプロ。自称・元一次創作者。なんだかんだ幸せな世界が得意。炊きたてのご飯を毛布にくるんで猫だと見立てる行為を執拗に他人に推奨する。

https://www.pixiv.net/member.php?id=24826462

 

シズク

専門は東郷あい・森久保乃々・三船美優。自分の世界を展開できる固有結界能力者。ロボットものなど、血と硝煙の匂いがする話を考えていたりする。一次創作者でもある。幸せな世界を見ると試練を与えたくなるらしい。アイドルを見て感じた香りをアロマとして調合する趣味を持つ。

https://www.pixiv.net/member.php?id=14105829

 

斬進

専門は特になし。今回の主催。とある二次創作アカウントのネタ出し係を担当している。

 

 

 

 

 

物語風味のログ本編

 

始まり

6月末日、午前0時。前日の夜に企画が立ったが、参加者は5人いた。ひでん之、9り、姪谷、シズク、そして主催。事前に「地獄の性癖暴露大会になりそう」「ナイフの刺しあい」などの下馬評がついたこの企画、姪谷の「こういうのをやるなら理性がいい感じに壊れてきた深夜にやりたい」との要望により日付変更と同時の集合となった。

それぞれが得意なカップリングを持つ百合創作者である今回の集い、重要となるのは自分の得意ジャンルと読み手の好きなジャンルとの取捨選択だ。すなわち、上の句から直感的に感じ取った自分の得意なジャンルを脳直で取るか、多少苦手であっても読み手の好みを狙いに行くかだ。ネタ被りが大きな問題となるこの競技においてある種の先手の優位性は揺るがないが、それはネタを練る時間が短くなることをも意味する。自分がどちらに属するか、素早い判断が勝負のカギになるであろうことは簡単に予想がついた。

主催からのルールの説明があって、全員がログ記録用チャットルームに移動する。冗談のように自分たちの推しの話をしているが、もしかしたら牽制の意味がそこに込められているのかもしれない。

それでは、と主催が声をかけ、自らの用意した診断のボタンを押す。0時半を少し回ったボイスチャットに、長い夜の始まりを告げるクリック音が静かに乗った。

 

第1句 「パジャマ」

「1つめのお題は『パジャマ』です」

参加者たちは次々に懊悩の声をあげる。Twitterでバズっていたツイートで例に挙げられていたものがハイコンテクストなアイテムである「麦茶」であったことを考えれば当然のことだろう。パジャマ、という単語はあまりにも自我が強い。その自我の強さを活かしつつ、どれだけシチュエーションとしての発展性を広げていくか。経験の少ない参加者たちにとっては些かハードルが高いようだった。「パジャマっていうだけで果穂さんしか出ないんだよ」というのは9りの言。

数分。読み手の主催が上の句のリロールを提言し、制限時間までに半分以上の下の句が出ないようなら、と決まったところで、ひとりの参加者が声をあげた。

「え、これ、二次(創作)じゃなくてもいいんですよね?」

その参加者――姪谷が先陣を切る。この集いの結成者、通称『課長』としての責務を感じていたかどうかは定かではないが、今回初の下の句は波乱を生むこととなった。

「『外国人の子×日本人の令嬢』で」

そう、姪谷が『取った』下の句はアイドルとは無縁の一枚。ルール説明の時点から「このルールとメンバーなら誰もが二次創作をするのだろう」と考えていた参加者は、さらに混沌の内へと放り込まれる。もし次に読まれた下の句も一次創作であれば、場には大富豪の縛りルールもかくやというある種の強制力が発生することとなるのだ。思いつかない場合にはある意味都合のいい逃げ道である一次創作だが、二次創作ができなくなってしまうとなれば話は別になる。しかし二次創作を開放するには、誰かが二次創作を思いつく必要があるのだ。場に重苦しい沈黙と唸りが響く。

「えー、じゃあ…… 『かほちょこ』」

次の取り手である9りが口を開いたのは、さらに数分が経った後のことだった。シャニマスでは放課後クライマックスガールズ、ひいては小宮果穂の絡んだ創作を得意とする彼女が今回の「相手役」として選んだのは、ユニット随一の普通の人間である園田智代子。どちらのパジャマに対してどちらがどのように反応するのか注目が集まる。

そしてこの1枚によって、二次創作をすることに対する負い目がなくなった参加者たち。まるで天使に先導されるかのように、もう一人の取り手がこれに続く。

「それじゃあいきます、『かえみゆ』で」

『取った』のはシズク。字面からはやや幼稚な印象が拭えない「パジャマ」であるが、あえて大人アイドルの組み合わせの代名詞とも思われるような高垣楓と三船美優の組み合わせを提案してきた彼は、どちらかといえば殺伐とした世界観を好んで創作する人間だ。どのようにこの上の句を調理するか、彼の新たな一面に期待が籠る。

そして取り残されたのはひでん之だった。彼が得意とするのは極端な掌編か、設定を練りに練った長編の構想だ。さらに悪いことに、彼は『画像』が出てこないタイプの書き手だ。直感的に何かのワンシーンを幻視して物を書き始めるタイプではなく、ひとつひとつを積み重ねて着想するタイプ。このような瞬発力を求められるネタ出しはやはり重かったのだろうか。主催が極端な長考を控えるように言ってからさらに1分ほど経って、彼は決断した。

「やるかー、『しきあす』でいきます」

悩んだ末に彼が選択したのは、自分の最も得意とする一ノ瀬志希と二宮飛鳥だった。まだ全然纏まってないから、と嘯く彼の心中はいかほどだったのだろう。口で不安を吐き出しつつも天啓が降りたか、それとも苦渋の見切り発車か。その審判は、4人の中で最後に下されることとなった。

何はともあれ、初めてのカルタの下の句は揃った。手探りの中、自分の即興妄想を手に殴り合いが始まる。

 

 

「じゃあ始めますね」

姪谷が口火を切って、チャット欄にひとつの単語が打ち込まれる。参加者はその単語を読んで困惑した――少なくとも私は困惑した。

「キーワードは『和洋せっちゅう』です」

そこから繰り出される世界は、まるで日常系百合漫画の世界であった。まるで料理番組のような口上と共に「ご用意された」のは外国生まれの金髪少女と、純日本人の良家令嬢のお泊り会。「平屋で暮らしてるような」という修飾語をつけて語られたその日本少女は、どうやら寝間着も和服らしかった。

「元の文化が違うじゃないですか、当然お互いのパジャマを見て興味を持って、話が盛り上がるわけですよ」

なるほど、『和洋折衷』はそういう意味か――。私が納得したその時だった。

「あとは話が弾んでごにょごにょごにょ、みたいな」

せっちゅうとは「せっ」と「ちゅう」か、と改めて納得すると同時にジャッジが呼ばれることになった。これはレギュレーションに違反しないのか、大丈夫なのか。長くはない議論の末、全員が笑っているのでセーフという結論に至った。語彙力がイカロスの如く失墜した姪谷の妄想に対して、皆が笑いながら意見や補足をぶつけ合う。ふたりの名前の話や、それに連なるエピソード、起床時の着衣の乱れについて。気が付けば、初周の緊張など参加者たちのどこにもなかった。姪谷が狙っていたのは開幕の一次創作による緊張状態ではなく、ギャグ的要素をプレゼンそのものに込めた緊張の緩和だったのか。彼の真意はわからないが、少なくとも一番槍を担う課長としての責務は立派に果たしたと言えるだろう。

 

続いては9りのかほちょこの出番だった。少しだけ息を調えてから、彼女は独特の語り口調で自分のプレゼンを展開し始めた。

「まず、果穂さんは子供っぽいパジャマなのを気にしてる」

まるでそれが当然であることを信じて疑わない、といったような9りの口調。いくら公式で最近パジャマの描写があったとはいえある種の暴挙とも言えるような前提条件の押し付けに一部から笑いが起こるが、彼女はそれを意に介さず続ける。

「それで、果穂さんはちょこ先輩のパジャマは絶対カッコいいって思ってて、事務所でこっそり耳打ちして訊くんですよ、どうすればいいんですかって」

彼女の強固な小宮果穂観は、身内である一課の人間であれば周知の事実だ。もはや信仰に近い敬意を小宮果穂に抱いている彼女の中では、小宮果穂は周囲の人間を照らす太陽であり、手を差し伸べるヒーローであり、等身大の問題に悩むひとりの少女だ。

さらに9りはそんな小宮果穂に普通の人間らしく、それでいてややコメディタッチに対応していく園田智代子を描いていく。年相応の悩みを抱く果穂をいじらしく思い、次の休みに一緒に買いに行こうと約束する智代子だが、家に帰ってから自分が普段ジャージで寝ていることに思い至る。前日の夜に慌ててネットで検索するが、検索に熱中しすぎて寝不足になってしまう。それを努めて隠そうとするが、果穂に簡単に寝不足がバレて心配される。テンポよく、まるで箇条書きで書かれたプロットをひとつずつ確認しながら読み上げるように語られる筋書きに、参加者たちは耳を澄ませる。

そして、果穂に心配された智代子は、果穂ちゃんのためにちょっと頑張っちゃった、と言う、と9りは力説する。それを聞いた果穂の胸にはえも言われぬ感情が芽生え、そしてその名前のついていない感情を抱えて過ごしていくのだと。彼女はそう自分の妄想を結んだ後、大きく息を吐いた。

彼女は常々、「小宮果穂は実在する」と話す。一見どころではなくかなり危ない人間の発言ととられても仕方のない言葉ではあるが、今回は方向性さえ違えど彼女のその主張の一端を見たような気がした。すなわち『実存性』とも言うべきか、「公式がこのような話を書くならば、あるいは彼女たちが存在していたら、きっとこのように事が運ぶ」。そのようなある種の確信を抱かせてしまうような、実在の人物かどうかとは違う方向のリアリティ。1句目からそれを全開にして出してきた彼女は、きっと今後もいい作品を出すだろうと確信させるような、そんな下の句だった。

 

「まず、楓さんが美優さんを部屋に誘って、ふたりでゆっくりお酒を飲むことにするんですよ」

ある程度短く纏めるために多少の押し付けは可能かつ必要不可欠。そう結論付けたかのように、シズクの出だしは説明ではなく描写だった。さらに、その展開もテンポの良いもの。

「美優さんは急にそんなことになると思ってなくって、パジャマを持ってきてなくって。それで、楓さんのパジャマを着ることになるんですね」

とんとん拍子に進む描写から開催されたのは、ふたりきりのパジャマパーティー。少しだけ童心に返ったようなその文字の並びとはうらはらに、ふたりは大人の特権のひとつともいえるアルコールを囲んでとりとめのない話をする。どちらに傾きすぎてもその後の展開を難解にしかねないいわばアンバランスな描写の綱を、シズクは綺麗に渡っていく。

慣れない楓のパジャマに美優は気恥ずかしさを覚えたものの楓はそしらぬふうを装う、という描写をして、シズクは一瞬だけ言葉を切った。私はその間隙をもって思考を巡らせた。この後ふたりのパジャマパーティーはどのように展開していくのか、楓さんも実は緊張していてというのが王道ではあるが―― しかし、私の予想は次の一言によって打ち砕かれることとなる。

「それでふたりとも寝落ちちゃうわけですよ、で翌朝、いつもの自分の服とは違う、楓さんの匂いに包まれて美優さんは目覚めて――」

彼はあっさりと夜を終わらせたのだ。そして私は合点がいく。あくまで「パジャマ」の話であり、宅呑みは些事であった、あるべきだったのだと。さらに彼は自分の特徴であり、美優さんの特徴のひとつでもある「匂い」にもフォーカスを当てている。自分の得意分野を上手く盛り込んだ格好だ。美優が楓の匂いに包まれているというその幸せを再確認するかのようにふんわりと微笑んだところで、彼の初めての企画妄想は畳まれた。

人の自己評価というものは得てしてあてにならないものだ。過去、彼はこのように言っていた。「自分は長編を書くのは得意だが、短編のサイズに纏める能力は無い」と。しかしこと今夜に限っては、その発言の信憑性は限りなくゼロに近いと言っていいだろう。彼は今、自分の能力を証明したのだから。

 

 最後に残ったひでん之は、シズクのプレゼンが終わってもなお唸っていた。それから、彼の思惑が語られる。

「僕はね、最後だったし全部バーッて書いて、これですってチャットに貼りたかったんですけどね、残念ながら僕自分が筆遅い人間だってことを忘れていてですね」

参加者たちから笑いが漏れる。念のため後に「SSをそのまま投げるのは禁止」というルールが制定されることになるが、実際にこの短時間でSSを一本書きあげることは、筆が速い作家が自分の慣れたキャラクターの話を書くとしてもなかなかに難しいことだろう。自分でも笑いながら、その「失策」を告白する。

「今メモ帳に一行だけ、『寝相クッソ悪くていつも腹出して寝てる志希』だけ書いてありますからね」

そう、それがひでん之がプレゼン前にしっかりと固められた構想のすべてだった。それ以外の展開はいまだ脳内ではっきりとした形を持たず、断片的な単語や世界観として宙を漂うのみ。前述した通り『画像』で物を書かない彼には、1枚の絵としてそれを完成させることは難しいように思えた。

だが、ひでん之には、それで充分だった。自分がひとつの絵として纏められないことを自覚したうえで、彼は自分の頭にある断片的な――それでいて厖大な量の点の間に、フリーハンドで線を引きはじめる。

「あ、これは僕の脳内の話なので、こいつらは一緒の部屋で暮らしてます」

「色々問題とかはあると思うんですけど、志希は飛鳥ちゃんが寝静まってから帰ってきて、ソファとか床とか適当なところで適当に寝て、飛鳥ちゃんが起きても起きれない、みたいな」

1枚目にしてもはや暗黙の了解となった前提知識の共有という名の押し付けと引きずり込みをテンポよく済ませ、彼の脳内の飛鳥は志希にパジャマを買い与えることを決意する。それは飛鳥なりの心配の形ではあるが、年相応の臆病さが具現化されたものである、とも彼は語る。

「お腹出したりとか布団ひっぺがして寝たりとかしてるから、飛鳥としてはシンプルに体調の心配をしてるんですけど、ただ今まで無理やり理解わかろうとすることで痛い目を見てきているので、ちょっと臆病になってるところもあるんですよ」

見てきたかのように話してはいるが、当然痛い目を見ている瞬間以外の描写は公式には存在しない、ひでん之の妄想の話である。だが、それはこの場においては野暮以外の何物でもない。

「で、暮らしてるうちに他人からの贈り物だったらぞんざいにしないだろう、っていうことを学んで、だったらプレゼントでパジャマを贈れば、って考えるんですよ」

自分の頭の中の二宮飛鳥のことは自分が一番よく知っている。そう言わんばかりに飛鳥の精神の機微の説明を続ける。彼の中の飛鳥は志希をどうにかショッピングモールに連れ出すことに成功して、シックなパジャマを志希の手に収めることに成功した。しかし彼女の思い通りにいったのはそこまでで、志希はそれを受けて当然のように飛鳥の手に志希のものの色違いのパジャマを渡して、飛鳥は肯定も否定も口に出さずに黙って会計に向かう。お揃いのパジャマという羞恥よりも、相手にその意図を尋ねるという踏み込んだコミュニケーションへの躊躇によって。

「で、まあパジャマ贈られて、その日以降飛鳥が目ぇ覚めると贈ったパジャマ着て腹出して寝てる志希がいて、ちゃんと直したり朝の準備したりしてあげる飛鳥ちゃん、っていうのがね、はい」

そう言葉を畳んだひでん之に対して、主催が笑いながら言葉を投げる。

「――いや、長い! 3つぐらいの話に分けてよかったでしょ!」

そう、この時点で他の参加者の約2倍もの間、ひでん之は自分の妄想について語っていた。途中に横からの合いの手はあったとはいえ破格の長さである。これは彼があえて纏めることを放棄した以上、当然の帰結ではあった。時間や眠気の関係から、長すぎることが減点対象となり得る深夜帯での開催においてこの決断はかなりの勇気を必要としただろう。もしくは、本当に何も考えていなかったのか。

しかしてその決断に対する裁定は、それを認めるものであった。

「熱量のごり押しが強かったということで、今回の優勝はひでん之さんです」

 読み手である主催の発表に合わせて、深夜のためやや控えめな、しかし惜しみの無い拍手がひでん之に送られる。次は無いですからね、と笑いながら言う主催は、途中まではシズクのパジャマを大人で拾おうとした発想力を高く評価していたようだった。ただ今回は最初ということで、後から降って湧いた純粋な熱量をその上に置いた。発表順が逆であれば、ともすれば優勝は別の人物であったかもしれない。4番手であったひでん之には、自分より後の発表者を気にする必要がなかったからだ。当然、何番手だろうと気にせずに長話を続ける可能性もあったが、その場合は読み手の好感度を損なう可能性があった。そういう意味でも、あの時カップリングの決断を悩んだことにも、なにがしかの意味はあったのかもしれない。もしくは、それは運命であったのかもしれない。

 

こうして、手探りの中第1句は終わりを告げた。しかし、息をつく間もなく第2句が始まる。自分の妄想をいかに素早く威力の高いものに仕上げるかのみがこの競技ではない。連続で妄想を続けそれを発表することのできる、ある種のタフさも求められるのだ。

第1句優勝者のひでん之が診断を回す。彼は少し難儀したような声をあげてから、少し申し訳なさそうにそのお題を読み上げた。

 

第2句 「防波堤」

「えー…… じゃあ『防波堤』でお願いします」

ありきたりかつどこかで見たような表現であることを承知であえて書かせてもらうとすれば。第2句のお題として提示された上の句は、難しいと思われた第1句をさらに上回る難易度だった。確かに「防波堤」は寂寥感や感傷を表現しやすい、俗な言葉で言えば「エモい」場所だ。しかし「パジャマ」も用途が限定されているとはいえ、「防波堤」を使おうとすれば基本的にはキャラクターたちがそこにいる話、という方向に限定される。その中でどのキャラクターにどのような話をさせるのか、どのようにキャラクターのらしさを引き出していくか、他のキャラクターで代替できない価値を見出すか。通常の創作でさえ躓くことのあるようなお題を、さらに即興でこなさなければならないのだ。

基本的には何があってもそれで妄想するゲームなので逃げないでください、と言った主催が、自分も苦難の末になおかれを選択する。防波堤に付き纏う海や空のイメージである青を基調としたアイドルのチョイスとして、神谷奈緒北条加蓮は無難な選択と言える。誰かに取られる前に、ということで、誰からも下の句が出ない現状を鑑みて取ったのであろう。
次に動いたのは9りだった。悩みながらも取ったのはこがきり、シャニマスの月岡恋鐘と幽谷霧子のカップリングである。SSではなく妄想の公開であるため月岡恋鐘の強い訛りを表現しなくてもいい、という楽さがある他、このふたりについて9りは定期的に診断メーカーのお題精製装置を用いた作品を自分のTwitterで公開している。この時点で上の句の提示から相当な時間が経っていたため、自分の慣れたカップリングを取ったようにこの時は思えた。

そこからさらに少しだけ間を開けて、次に取ったのはシズク。その宣言の内容に、少しのどよめきが起こる。

「それじゃあ行きますね、『しきあす』でお願いします」

読み手であるひでん之の得意分野であり、先ほど彼が展開したふたりであり、彼に最も刺さるカップリング。すわ忖度か、と囃し立てられるも、シズクはあくまで行けるという確信のもと取ったとそれらを一刀のもとに切り捨てる。当のひでん之はおお、と声を上げたきりであり、その心境は計り知れない。また、このふたりは公式で海に逃避行をしていたりもするためそれを活かすということも考えられるが、シズクはどのような物語で「プロ」を納得させるのか期待がかかる。

第1句とは対照的に、最後に残ったのは姪谷だった。しかし彼もシズクの決定からさほど間を開けずに決断する。

「なんて呼ぶかちょっとよくわからないんですけど、『依田芳乃×浅利七海』」

先ほどとはややニュアンスの異なる、感嘆に近い声が何人かから漏れる。海、正確に言えばおさかなアイドルである浅利七海。当然デレマスのプロデューサーであれば考えに及ばないということはないだろうが、浅利七海のカップリング、という点で見ればギョギョっとニャンだふる(前川みくとのデュオユニット)以外に非常に有名と言えるカップリングは少ないと言わざるを得ないのが現状である。しかし、姪谷は恐れることなくそれを切ってきたのだ。デレマス身長151cm組、非公式名称で言えば「イチゴイチズ」に所属する両名。専門かつ担当のアイドルと海のアイドル、共通点はあるものの公式での絡みがそれほど多くないふたりをどのように捌くのか、手腕が問われる組み合わせとなりそうだ。

姪谷の下の句が提示されたことによって、4つの下の句が無事に揃うこととなった。一時はリロールも危ぶまれた上の句だったが、並べてみれば4つの下の句のどれも感傷や静かな雰囲気が似合うものとなった。理性の半壊した午前1時過ぎ、ともすれば同じ雰囲気のぶつけあい。まさしく瀬戸際の決戦が始まろうとしていた。

 

 

主催の愚にもつかないなおかれ*2が終わり、9りのこがきりの巡目となる。

「まず、霧子ちゃんが夜の防波堤でお散歩してるんですよ。で、『おさかなになって恋鐘ちゃんに会いに行くね』って」

その言葉に鋭敏に反応したのは読み手のひでん之であった。

「あー…… うわ、[娘・娘・金・魚]か」

[娘・娘・金・魚]はゲーム内で使用できる霧子のカードのひとつである。カードのコミュのひとつである「ゆらゆら」は、ふたりで金魚の浴衣を着てペットショップの金魚コーナーを見に行く、というコミュの内容ではあるが、明るく引っ張っていく恋鐘とふたりでもなお落ち着き透明感のある霧子の世界が展開されている。さらに恋鐘の「うちももうちょっと霧子みたいに優しくなれたら…… ここの魚、迎えに来るけんね!」という言葉に対して霧子が金魚のように真っ赤になりながら「わたし、金魚さんになったら…… 恋鐘ちゃんのお家に行くね……」「そうなったら…… 毎日、遊ぼうね……」と返すという、およそ公式がやっていいものとは思えないほどの文学性が発揮されているコミュである。9りの言った「おさかなになって恋鐘ちゃんに会いに行くね」は、このコミュでの約束を指したものなのだろう。しかし、「夜の海の防波堤」で「おさかなになる」という単語の並びに幾ばくかの不安を覚える参加者もいただろう。そしてそれは現実のものとなる。

 「どうしても自分が恋鐘ちゃんに釣り合ってるって思えなくて、おさかなになれたら、ってそのまま身を投げようとしちゃう」

本当に口調を変えずにその不安をそのままアウトプットした声に、うわ、と小さく息を飲んだのは、はたして誰だったのだろうか。もしかすれば、無意識に全員が同じような声をあげていたのかもしれない。

霧子が身を投げてしまう本当に寸前、恋鐘が現れて霧子が夜の海に沈むのを引き留める。恋鐘がここに訪れた理由は存在しない。彼女は霧子の危機には必ず駆けつける。それがこの妄想で月岡恋鐘に与えられた使命であり、Twitter不定期に紡がれる9りのこがきりの世界で月岡恋鐘に与えられた運命のひとつである。慌てた様子で必死にどうしたのかを尋ねる恋鐘を見て、霧子は自分がどれだけ馬鹿なことを考えていたのかを思い知らされ、泣き始めてしまう。

一文ずつ説明を区切っていくかのような9りの語り口と、静かな雰囲気というよりも深刻な雰囲気の内容に、参加者たちは固唾をのんで9りの次の言葉を待つ以外の選択肢を奪われていく。

恋鐘は帰ろうなどとは言わず、防波堤の上で霧子を慰め、霧子の話を聞く。そして夜が白み、日が昇り、そこで恋鐘は霧子に言う。こんなに綺麗な世界を捨てるのはもったいないから、と。そうだね、と返して朝日を眺めながら、霧子は考える。おさかなにならなくても、霧子のままでも、何かできることはあるんじゃないかと――

9りが妄想の終わりを告げると、いやぁ、などと感嘆の意味を込めて参加者たちが唸る。確認を取ってはいないが、この物語は霧子の「おさかなになる」という部分から着想を得たのは間違いないのだろう。しかし実際は「おさかなにならない」という霧子の結論でこの物語は終わっている。[娘・娘・金・魚]に回帰するわけではない新たな道を霧子は開拓したのだ。また、この物語の流れはいわばベタなもののひとつではあるが、どこか少女漫画の登場人物のような透明感と危うさを持つ霧子とこのシナリオは非常に相性が良い。躊躇ないシナリオの選択が功を奏する、という事例の好例とも言えよう。

 

 「まず、志希ちゃんの出身地は我らが岩手なんですよ」

9りの流れを受けて話し始めたシズクのさりげなく自分の出身地情報を混ぜ込んだ滑り出しに、少しの笑いが起きる。しかしその後に続いた言葉は、その笑いを静かにさせることができる程度には重いものであった。

「で、岩手って三陸津波があって、それの復興をしてるわけじゃないですか」

日本人であれば知らない人間は一握りであろう痛ましい記憶と、そこからの脱却。そのただ中に立つアイドルふたり、一ノ瀬志希と二宮飛鳥。飛鳥は志希に連れられ、新しく建設された防波堤に腰かけて街を眺めることになる。そして、そこで志希から伝えられる。この防波堤の建設には志希の研究が用いられているのだと。

それを聞いて、飛鳥は曖昧な返事をしながら内省する。志希と自分と、セカイとの関わりについて。志希はいわば分かりやすくセカイと接触し、分かりやすく他人の役に立っている。当然、アイドルであるとはいえ中学生――しかも中二病を患っていると自称する少女が、それに憧れないはずもないだろう。しかし飛鳥自身は何事を成すでもなく、ただアイドルをしている。勿論それは普通の人間にはできないことではあるが、アイドルと研究者を両立させている志希の前ではそれはあまりにも薄い言い訳にしかならないだろう。

しかし、そんな飛鳥の内心を全て見通すかのように志希は笑って、また自らも内省する。自分は、結局のところ即物的な物質世界に囚われている。この功績もまた、完成してしまえば自らを物質世界に縛り付けるものでしかなくなる。でも、飛鳥は違う。飛鳥が縛られるのは自分の内面世界にのみであり、それは志希にとっては羨ましいものである。ただ志希はそのことを飛鳥に伝えることなどはせず、ただ即物的な街を飛鳥の隣で眺めている。

なるほど、と呟いたのは、私の聞き間違えでなければ読み手のひでん之だった。どうやら彼にも納得のいくしきあすであったらしかった。ふたりの対称性をうまく落とし込みながらも志希と防波堤を彼女の地元というアイテムで繋ぎ、なおかつ(もちろん結果的にそうなっただけの可能性も大いにあるが、)そこに少しの自分らしさを混ぜ込む。即興で作られたとは思えないほど綺麗に煉瓦の積まれたその作品は、確かに読み手の心に届いたのだ。

 

最後の取り手である姪谷も、自らのチョイスしたアイドルと上の句との関係性を説明するところから始めた。

「皆さんご存じの通り七海ちゃんは海が好きで、芳乃も[わだつみの導き手]だったりで、依代としての仕事とかで海の神様と縁があるじゃないですか」

七海といえば瀬名詩織や沢田麻理菜と並び立つデレマス屈指の海に縁のあるアイドルであることは誰しもが認めるところであろうし、(海神の依代かどうかは私は知らないが)芳乃も水辺全般と縁のあるアイドルだ。彼がその例として挙げた[わだつみの導き手]も、芳乃が禊のようなものをしているイラストが描かれているカードである。姪谷の物語はそんな水と縁のあるアイドルの片割れ、七海が防波堤にいるところに芳乃が現れるシーンから始まる。

七海は波の音を聴いていると落ち着くから、という理由で海を眺めているらしかった。それが芳乃の心を打つ、と多少熱の入ったように姪谷は語る。離島に住んでいた芳乃やその周囲の人間にとって波の音は日常のひとつの域を出ないものであり、その「あたりまえ」を気にかけ好んでいてくれることが珍しく、また海の神様としても幸せなことなのではないだろうか。さらに言えば、波はその大小はあれど寄せて返すことを無限に繰り返すものであり、そこから生まれる刹那であるところの波音を楽しむということは永遠にも等しい海の神の営みの一片を受け取ることに他ならないのではないか。「防波堤」という単語に当然に付属し、なおかつここまでの3つの妄想で焦点が当てられてこなかった「波の音」という部分が、鮮やかに彩られていく。

「で、七海ちゃんに向けて、よしのんが海の神様的な一面を出して、言うんですよ」

 そして姪谷は、仕上げとばかりに芳乃のセリフを口にする。

「――『わたくしの心音を、どうか最後まで聴いていてください』、って、感じで」

心音、という言葉には様々な意味が含まれる。生きている限り止まることのないもの、同じリズムを刻み続けるもの、その生命に最も近い音。それらすべての意味が内包されて、芳乃の心臓と波が重なる。まさしくそれは、物語として綺麗なラストシーンの一枚絵であった。

ここまでフォーカスされることのなかった波の要素を見事に主役として取り入れ、また前例も他に比べればそう多くはないカップリングを御しきり見事波に乗り切った姪谷。第1句ではオリジナルのキャラクターを用いて妄想を繰り広げたが、二次創作で後れを取るということは決してない。その事実をあらためて見せつける形になった句だった。

 

 「いや、どれも良かったんですよ」

そう前置いてから、読み手のひでん之は今回の優勝者を口にした。

「なんですけど、一番僕の心が動いたっていう意味であれば、9りさんが優勝です」

少しだけ驚いたような9りの声と、優勝者を称える拍手の音が響く。優勝の決め手を尋ねると、ひでん之は少し考えてから答えてくれた。

「普段の9りさんのこがきり、恋鐘ちゃんが霧子ちゃんと会話しないっていうか、わかりあえないけど好き、みたいな感じなんですよ。でも今回の話は恋鐘ちゃんがちゃんと霧子ちゃんと話しあっていて、はい」

それを聞いて逆に感心する9り。勝利を齎したのは、自分が積み重ねてきた何気ない日常であった。そのカップリングを研究し、お題を用いて不定期とはいえ高頻度で作品を作り、インターネットの大海に放流する。その行為が、今回こうして勝利のための最後の一ピースとして目の前に形を成したのだ。盤外戦術に近い、と揶揄する声もあろうが、私はこのような勝利があってもいいと感じる。それはいわば、普段からの創作に対するちょっとしたご褒美なのだから。

 

終わってみれば、上の句が提示された際に参加者たちが感じた不安などどこ吹く風といわんばかりのレベルの高い戦いだった。「防波堤で会話をする」という上の句の使い方は同じであった――下の句を考えている最中に「対東側の防波堤」という文脈で上の句を使おうとした参加者は約1名いたが――にもかかわらず、3つそれぞれそのカップリングらしさを活かし、余韻を異なる雰囲気に仕立て上げたのは物書きの面目躍如と言わざるを得ないだろう。

途中用意された診断を回した9りが「卒業」「すべり台」「シャボン玉」という3択を見て「限界になりそうなのは(診断結果から)消したって言ったじゃん! すべり台消えてないじゃん……! この、しかも、シャボン玉と卒業……!!!」などと言って限界になるなどのアクシデントはあった*3が、1分かかって鎮静化した9りはどうにか勝者の役目――次の上の句の提示を果たした。

 

第3句 「制服」

「はい、じゃあね、『制服』です」

前の2句から一転、ひとめ汎用性の高い上の句となった第3句。しかし、ことここに至って参加者のほぼ全員が一旦は同じ結論に至ったようだった。すなわち「お題が合わせろ」――上の句からカップリングを考えるのではなく、自分の好きなカップリングの中から上の句に最も合うカップリングを考え、読み手のことは忘れて自分の好きな妄想をひたすら押し付ける。要するに、小細工抜きで金属バットを持っての殴り合いである。もちろん自分の引き出しの中身よりも合ったシチュエーションやカップリング、意外なカップリングには弱くなりかねないが、それでもほぼ全員がこの戦術を採用した理由を端的に言えば、深夜2時を前にその弱点を考察するほどの思考能力が一度全員の中から無くなったのだ。妄想で殴ればいつかは勝てるだろう、という蛮族思考と推しカプへの愛が、無法地帯と化した深夜のボイスチャットに蔓延する。

最初に動いたのは姪谷だった。いや、正確に言えばカップリングに動かされたのか。

「えー、いやこれ『おとより』しか思いつかないんですけどー……」

乙倉悠貴と依田芳乃、第2句とはまた違った依田芳乃のカップリング。彼の専門である依田芳乃を含むカップリングの中では強い共通項がない代わりにややバランス型に近い、いわゆる「丸い」選択とされる場面は多々ある。しかし悠貴はあどけなさや少女性、学生という点もかなり前面に押し出されているアイドルであるため、学生服に重点を置くのであれば今回最も強い選択とも言えるだろう。

そして姪谷が自分の得意なカップリングでゴリ押しに行くのを察したのか、ひでん之もそれに呼応するかのように下の句を『取る』。

「行きます、『かほなつ』で」

9りもまたその声に呼応して一瞬限界になる。彼が最近最も力を入れて創作活動をしているカップリングのひとつ、それがこの有栖川夏葉と小宮果穂のカップリングであるところのかほなつだ。大学2年でやや天然の気がある肉体派社長令嬢である有栖川夏葉と、子犬のように無邪気にその背中に憧れる小学6年の小宮果穂。お互いに制服を着ない年齢であるふたりを中心に、ひでん之はどのように線を繋ぐのか。

そこから少し時間が空いて、3番手を取ったのはシズクだった。

「それじゃあ『かえみゆ』でお願いします」

彼が選択したのは第1句でも選択したかえみゆ。レギュレーション上同じカップリングの選択はまったく問題がないとはいえ、一瞬だけ驚いたような空気がボイスチャットに流れる。無意識に誰もが回避していたのかもしれないその選択肢をあえて拾いにいったシズクは、まるで自分に大丈夫だと言い聞かせるかのようにうんと小さく呟いた。

そして前の句では愚にもつかない妄想を披露した主催は唸っていた。しかしそれは、上の句に合うカップリングが自分の脳内に存在しないからではないようだった。

「……えぇー、ここで切らされるのー……?」

前述した通り同じカップリングの選択は可能であるため切らされるも何もないのだが、よくわからない彼の信条がそこにあるらしかった。しかし自分だけが下の句を提示していないという空気感に耐えられなくなったのか、渋々といったようにその札を『取る』。

「いいや行きます、『みくりーな』」

前川みく多田李衣菜カップリング、みくりーなは主催がこの沼に足を踏み入れるきっかけとなったふたりである。また特にみくは制服でのイラストもそこそこに多く、アニメ版放映時には制服で共演があったほか、去年にも[放課後ロックスター]という多田李衣菜のカードで中野有香と3人で制服でCDショップに行っている姿が描かれている。そういう意味では、姪谷のおとよりに負けず劣らず制服のイメージがあるカップリングであろう。

それぞれが己の手になじむ武器を手に取り、読み手を多少巻き込みながら凄絶な殴り合いを披露する。これまでで最も素早く出揃った下の句がそれを予感させるなか、第3句のプレゼンが幕を開けた。

 

 

「まず、乙倉ちゃんの制服なんですけど、[カム・ウィズミー!]見る限りブレザーっぽいんで、ブレザーっていう前提で行きます」

そう切り出した姪谷は、芳乃と悠貴の制服の違いに言及する。芳乃は複数のカードで見られる通りセーラー服タイプの制服であるため、悠貴とはデザインの異なる制服となる。さらに彼は、芳乃がもとは離島に暮らしていたことにも目をつける。

「芳乃も向こうの学校に通ってはいたけど、事務所に来てこっちの芸能活動とかに寛容な高校に転校することになって、新しい制服に袖を通すことになるんですけど、それがなかなか馴染まないんですよ」

なるほど、という声が参加者から漏れる。たとえ転校というものを実際に経験したことがなくとも、慣れ親しんでいた制服を途中で変えるともなれば違和感を感じるであろうことは容易に想像がつく。

そして姪谷は続ける。好奇心の強い芳乃であれば、自分が制服に慣れるためという名目のもと多くの学生アイドルたちに制服を見せてもらい、また着こなしなどを教えてもらうのではないだろうか。そしてその学生アイドルたちという区分の中に、当然乙倉悠貴も含まれてくるのではないかと。確かに悠貴であれば普段芳乃に教えることなんてできないから、と嬉々として教えそうであるし、デレマス実装時期・CD発売時期双方の意味でデビューが近いアイドル同士であればそのような会話もしやすいのかもしれない。

さらに、姪谷が思い出したように付け足した言葉は、またも小さな波を引き起こすこととなった。

「あ、もちろん最初に乙倉ちゃんの制服の話をしたのはかわいいってことが言いたかったのもあるんですけど、制服の交換とか、してほしいなって」

「――あーっ! 被った! もうダメだ!」

笑いながらそう叫んだのは主催。ここにきてこのゲームほぼ唯一のカルタ要素、早い者勝ちで被りは禁止、という部分が初めて表出することになった。そう、悠貴と芳乃と同じように、みくはブレザー、李衣菜はセーラー服の制服なのだ。どうやらそれをアテにしていたらしい主催の空笑いと、その騒ぎっぷりにつられた他の参加者の笑い声が深夜のボイスチャットにやや音量を抑えてこだまする。まだ方向修正が効くから、とは言われたものの、主催の貧弱な発想力で自分の前までに代案が思いつくかは不安であった。その低さから順番が4番手であったのは救いか。

終わり際にひと悶着あったものの、全体を眺めてみれば姪谷の提示した下の句はおそらく短めに分類されるものであろう。しかしそこには、聞いた人間の想像を掻き立てるような部分――例示するのであれば「芳乃の制服見学に他に付き合わされるアイドルは誰がいるのか」「提案されたときの悠貴の心の動き方」など――がふんだんに盛り込まれている。また制服交換に関しても13cm差と身長差のある組み合わせであるため、いわゆる「絵になる」シーンであることに何ら疑いはない。要点のみを抑え、それ以外の部分をあえて聞き手にも委ねることで読み手にも妄想を読ませる、シンプルながらトリッキーという面白い下の句になったと言えるだろう。

 

次に順番が回ってきたのはかほなつを取ったひでん之であった。彼は少し興奮したような口調でこう切り出す。

「まずね、弟ちゃん*4と果穂さんって同い年なんですよ、ご存じだとは思いますが」

何がご存じなのかわからないうえにその情報が今必要なのかわからない(本人は大事だと主張した)情報から入ったひでん之。彼の下の弟と果穂はふたりとも小学6年生であり、果穂は学校帰りと言及されたカードのイラストから制服のある小学校というわけではないことも確定している。どんなに頑張っても、学校の制服を着るのはもうひとつ学年が上がってからだ。その1年という距離は近くて遠い、不思議なものである。中学生が学校の活動で果穂の通う小学校を訪れ模擬授業を行うところから、ひでん之の妄想と口が回りだす。

「もちろん小宮果穂さんはお仕事とかでもっと大人の人たちと接する機会がいっぱいあるんですけど、それでもやっぱり思うところというか、そういう人たちと違う目で見たり、重ねて見ちゃうみたいなところもね、あると思うんですよ」

制服を着た自分より少しだけ大人な人間が教壇に立って授業をする。それに感じたなんとも奇妙な感覚から果穂は、自分の身の回りの、特に自分のユニットの仲間たちに通っている学校に興味をもち積極的にその話を聞くようになる。当然制服などについても話題に上るが、その点に関してユニットメンバーで唯一の大学生であり、また制服のある大学でないことも確定している有栖川夏葉だけは現在の制服姿を見ることができない。そうなれば尚のこと夏葉の制服姿に果穂が興味を抱くのは当然の流れではないか。ひでん之は小学6年生という難しい年頃である少女の心の機微を、おそらくは彼の弟に対する観察から得たものをもとに紡いでいく。

果穂は事務所で夏葉に当時の制服姿を見てみたいと頼み、夏葉もそれを快く受け入れる。休日に果穂の両親の了解を取って車で迎えに行き、夏葉の家へ。後部座席でそわそわとしている果穂を後ろ目に夏葉は少し笑う。夏葉の家に着くと夏葉の飼い犬であるカトレアが飛び出してきて、果穂とカトレアがじゃれている間に夏葉はいつの間にか姿を消し、声をかけられた果穂が顔を上げるとそこには当時の制服を実際に纏った夏葉が――

「……申し訳ないんですけど、だから2つ3つの話に分けられるじゃないですかそれ!」

ひでん之の語りが終わると同時に、また笑いながら主催が茶々を入れる。確かに、切るのであれば夏葉の車の中のワンシーンで切る、といったことも考えられなくもないし、最初に念押ししていた「弟ちゃん」と小宮果穂の類似性にも相当な尺を割いていた*5。ひとつひとつの描写をかなり細かく繋いでいるため仕方がないとも言えるのだが、単純に深夜2時を回った脳には話の進みが遅いのだ。次は無いって言いましたよ、今度はベル鳴らしますからねと言われて困ったようにひでん之は笑った。

「いや、最初はカトレアさんを出す予定はなかったんですけど、なんか夏葉さんの家に行ったら脳内でカトレアさん出てきちゃって、そしてらもう遊ばせるしかないじゃないですか」

いわば脳内の断片量が厖大すぎる弊害――途中で意図しない断片と繋がり話の流れが変わったり遠まわりになってしまうという事故をひでん之は未だ御しきれていないようだった。何度も言うように、彼は掌編あるいは長編のプロットを得意とする物書きだ。こういった即興で短編程度のサイズの大枠を考えるという調整に慣れきってはいないのだろう。しかし、それを制御しきったとき、そこにどのような妄想が立ち上がってくるのか。それは、夜がさらに更ければわかるのかもしれない。

 

「あ、私の『制服』は学生服じゃなくって、職場の制服です」

 ひでん之の長丁場の後、少し短いですが、と前置きをつけてからシズクのプレゼンが始まった。

第1句とは逆に、今度は美優の家に楓が招待されふたりで宅呑みをする。同じようにとりとめのない話をして、前回とは違い寝落ちする前にきちんと客人用の布団を用意しようとし、楓がそれを引き受ける。そして楓が押し入れを開けて客人用の布団を引き出し、さらにそこである物を見つけるのだ。

「ちゃんと公式で捨てられてないって言われてますからね、美優さんのOL時代の制服」

元OLでクリスマスにヒールが折れたところをプロデューサーに助けてもらいついでにスカウトされる、という流れで一部公式ではアイドルになっている美優だが、生来の踏ん切りのつかなさや流されやすさというところはアイドルになってやや改善はしたものの未だ健在、という設定である。あくまでウワサではあるが公式で捨てられないとされている会社の制服や靴に関しても、当時の自分からどれだけ変われたのかがわからなくて過去を切り捨てる判断ができず残されている、というような解釈をシズクはしているようだった。

制服を見つけた楓は布団と一緒にそれを引っ張り出してくるが、それを見た美優の表情は明るくない。制服の纏う過去の空気感に引き摺られ、会社勤め時代の嫌な上司や面白くない出来事を思い出し、当時から何か変わることができたのかと悩み始める。アルコールも入っているため、だんだんと考えが後ろ向きになっていく。そんな時、楓がひとつの荒唐無稽にも思える提案をする。

「『それ、私が着ます』って、そう楓さんは言うんですよ。嫌な思い出とかを全部自分で上書きして、匂いとかも全部」

努めて自分の偏った見方を入れないようにしてきたつもりではあるが、あえてここで私のこの時の感想を入れるのであれば、シズクの声のトーンに疚しいような部分は一切なかった。一切なかったが、シズクが言うと何故か割と洒落にならないような気がした。発言する人間によって説得力や凄みが変わってくる、ということをあらためて体感した。事実他の参加者たちも一瞬戸惑ったような声をあげていた、ような気がする。

しかし逆に言えば、短いストーリーの中に自分の得意分野を効果的に詰め込んだということでもある。話題になるのは学生であることの多いデレマスの世界で、「制服」という単語を聞いて時間をそこまでおかずにかえみゆを選択し、さらに自分らしさである「匂い」の要素を再度組み込んだうえで綺麗な形に仕上げたことは、間違いなく彼がこの競技が始まる前よりもさらに成長を遂げていることを表しているだろう。

 

そして最後に残ったのは主催。主催はシズクのプレゼンが終わってもなお唸り、発表を渋っていた。しかし1分ほどそれを続けてようやく観念したのか、ネタ被りを回避するために即興の上塗りをしたみくりーなを語りだす。

「まず皆さんご存じの通り、前川みくさんはブレザーで、多田李衣菜さんはセーラー服なわけですよ」

まずは姪谷と同様にふたりの制服を紹介する。前述した通り、カードで言えば[放課後ロックスター]や[マジメ/ネコチャン]で見ることのできる制服だ。

「でまあ話変わるんですけど、前川みくさんと制服が関わるお仕事が最近あったじゃないですか。『HARURUNRUN』って言うんですけど」

ああ、と思い至ったような声がする。この場でいう『HARURUNRUN』は、デレステで同名の楽曲が実装されると同時に行われたイベントのコミュである。曲を歌う関裕美・水本ゆかり・棟方愛海の3人に星輝子・前川みくの2人を合わせた5人で女学校でコメディ寄りの青春学園ドラマを演じる、という内容のこのコミュで、みくは規則にうるさい生徒会副会長として普段とは違う一面を見せていた。そして学園ものである以上、当然衣装は制服。みくにも制服立ち絵が使われた。さらにこの『HARURUNRUN』は2か月前に実装となった[放課後ロックスター]で制服の李衣菜のイメージがあったこともありみくりーな界隈に大きな波紋を呼び、このドラマの設定を使った「学園みくりーな」がいちジャンルとして確立するに至ったという経緯もある。

しかしあくまでも主催はこの設定――生徒会副会長の前川みくとその一年先輩の多田李衣菜――をそのまま当人たちとして採用するのではなく、ドラマの中として話を進める。

「で、まあドラマ*6の撮影で、多田李衣菜さんがゲストとして登場する回があったとして。レギュラー出演のみくがいる楽屋に入ってきて、衣装に着替える、と」

そう、それは同じ学園の生徒を演じるうえで当然に起こる、「同じ学園の生徒なら同じ制服を着なければいけない」という単純な真理に基づいた現象。後から入ってきた多田李衣菜が、前川みくの目の前で彼女と同じ制服に袖を通す。

「――で、多田李衣菜さんが自分と同じ制服を着るのを、前川さんがむずがゆそう、かつ嬉しそうに横目で見てればいいな、って、それだけです」

以上です、とさらに終わりの合図を付け加えて、主催の妄想は畳まれた。

制服の交換が被りで駄目なら制服の同一を、という逃げ方をした主催。その分妄想そのもののボリュームが少なくなることとなったが、それでは被らなければもっと長かったかと言われると、それも本人の技能量的には疑問が残るだろう。

 

「えー、どれもめっちゃ悩むんだけど、選ぶんだったらおとよりで」

読み手の9りが告げた今回の優勝は、姪谷のおとよりだった。制服の見せあいや交換・年齢差と現役でない制服・学生服ではない会社の制服と各々が別方向に上の句を膨らませていった第3句であったが、読み手の語ったところによるとその勝利の決め手は「可愛さ」であった。ひでん之のかほなつは好みには刺さるものの些か量が重くSSそのままに近くなってしまった、ということだろうか。他の面々も含めて、自分の妄想したいものが妄想できたとしても、読み手の好きなものが妄想できたとしても、それだけで勝ちは確定しない。そういった事実が改めて浮き彫りになったとも言えるだろう。

 

それぞれがそれぞれの得意とするカップリングの妄想を語った第3句であったが、全体として見れば「好きだから長く語る」という傾向とは逆に、妄想そのものの長さは平均的には(ひでん之以外は)短くなっているというのが見てとれた。これが単に長時間の妄想を続けたことによる疲れからくるものなのか、それとも参加者たちが短く纏めることに慣れつつあるのか。戦いの最中にもなお進化し続ける参加者たちは、次の上の句にどう立ち向かっていくのか。

優勝した姪谷は、しかし用意された診断を見て唸った。

「うーん、いや実はちゃんと持ってきてるお題もあるんですよ」

暫く診断をリロールして、彼は決意する。姪谷の提示した第4句の上の句は、診断の結果に含まれていない単語だった。

 

 

 

 

おわりに、あるいは中書き

 

ということで第1句から第3句まででした。書いてる途中でこれ別に普通のログでいい気はしてきてます。文章力がもっとある人に頼んでほしかった。全員物書きだろあの集団。

当日終わって朝5時ぐらいから書き始めて既に今7月4日なのでこのままではブログを書き終わる前に第2回カルタ会が開催されかねないため、いったんこのあたりとさせていただきます。この時点でログ部分は2万文字ぐらいあるらしいです。馬鹿かな?

とりあえず続きの文章をなにか思いつきましたら。

 

*1:彼女の崇敬するアイドル・小宮果穂の所属するユニット「放課後クライマックスガールズ」の最新シングルのジャケットでは彼女たちが水鉄砲を持っている。本当にこれぐらいの連想で限界になる。

*2:本当に愚にもつかなかったので全カットです。防波堤の上を平均台のように歩く加蓮の話。

*3:流石に日常にあるどの単語が小宮果穂の公式と関わりがあるのかはわからないし、卒業に至っては公式で一切の言及がなくただ「小宮果穂さんは6年生なのでいつかは卒業する」という理由で限界になっていたのでこちらとしてはどうしようもなかったという言い訳だけはさせてもらいます。

*4:ひでん之の下の弟のこと。参加者紹介で書いた通り、彼は下の弟を溺愛している。

*5:本ログではかなりカットしているが、1分半ぐらい念押ししていたはずである。

*6:後で確認したところコミュ内でのドラマの名称は『礼節と灼熱の嵐』らしい。